各社の高い技術力の証である薄型ウォッチは、近年の時計業界で注目されているジャンルのひとつである。今回は、そんな薄型ウォッチの中から、フォーマルなシーンで活躍するドレスウォッチにフィーチャーした。各社がラインナップする現行品のうち、ケース厚10mm以下のモデルから、厳選した5本を紹介する。
Text by Miyuki Ueno
[2024年9月19日公開記事]
高い技術力と上品さを手元で愉しむ、薄型ドレスウォッチという選択
さまざまなタイプの腕時計が出回っている中で、薄いケースをまとったドレスウォッチは、手元でエレガンスを楽しむのに最適な選択肢といえる。同時に、薄く仕立てられたケースは各社の高い技術力の象徴でもある。本記事では、そんな薄型ドレスウォッチを提案したい。
近年トレンドの薄型ウォッチ、ケース厚が何mm以下が薄型?
薄型ウォッチにまつわる記憶に新しい話題といえば、2024年4月ブルガリがケースの厚さ1.7mmの「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」を発表したことだろう。同モデルは現在、C.O.S.C.クロノメーター認定を取得した機械式腕時計かつ、製品化されているものの中では最薄となる。
2024年4月にブルガリから発表された、ケース厚わずか1.7mmの「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」。今回はドレスウォッチというカテゴリのため取り上げていないが、「オクト フィニッシモ」もまた薄型ウォッチを代表する傑作である。手巻き(Cal.BVL180)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Tiケース(直径40mm、厚さ1.7mm)。世界限定20本。要価格問い合わせ。
現在から少し時をさかのぼること2022年4月、ブルガリはケース厚1.8mmの「オクト フィニッシモ ウルトラ」を世界最薄の機械式腕時計として発表。しかし同年7月、リシャール・ミルより登場したケース厚1.75mmの腕時計によってその記録が塗り替えられた。そして2024年、前述の通りブルガリは厚さ1.7mmのウォッチを発表し“世界最薄”の座を再び奪還したのである。
そんな「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」の魅力は、信じられないほどの薄さや美しい意匠だけではない。他社よりも少ない120の部品で作られた時計でありながら、C.O.S.C.クロノメーター認定を取得しており、精度の高さも保証されているのだ。ケース厚たった1.7mmのシンプルな腕時計の中には、ブルガリが誇る最新の技術が余すことなく詰め込まれている。
このように、近年の時計業界では高い技術力の証しともいえる“薄さ”を各社が追求している。薄型ウォッチの解釈は各社により異なるものの、一般的にはケース厚10mm以下を薄型、5〜7mm以下を極薄とすることが多いようだ。本記事では、そんな薄型ウォッチの中から、エレガンスが光るドレスウォッチに注目する。
静かな気品が漂う、薄型ドレスウォッチの魅力
薄型ドレスウォッチの魅力といえば、まずはその着け心地のよさである。まるで手首と一体となるような馴染みの良さや、軽量であるため長時間着用しても疲れにくいことが挙げられるだろう。シャツやスーツの袖口に干渉せず、すっきりとした印象で着けられる点もメリットだ。薄型ドレスウォッチならではの洗練されたルックスは、大人の気品を感じさせる。
一方で、その薄さから衝撃や磁力には弱いという繊細さも持ち合せているため、取り扱いには注意したい。上品な装いにふさわしい所作で、優雅に身に着けたいものである。
今回は、実用面もクリアした薄型ドレスウォッチを現行モデルの中から5本選定した。購入を検討する際はぜひその軽やかな着け心地を体感して、自分の手元にしっくりくるものを選んでほしい。
ショパール「L.U.C.1860」Ref.168860-3003
ショパールの「L.U.C.1860」は、1997年に発表した同名の時計を2023年に復刻したモデルである。かつてケース素材にはステンレススティールが採用されていたが、復刻版の本作ではリサイクルスティールを80%含有する「ルーセントスティール」を採用した。同社の環境配慮への価値観を反映したエシカルな素材でありながら、一般的なステンレススティールの約1.5倍の硬度を持ち、耐摩耗性に優れていることが特徴だ。加えて、ゴールドのような光度を持つため、見た目にも美しい。
上品な華やかさをまとったサーモンカラーの文字盤には、ギヨシェ装飾が手作業によって施されている。また復刻版ではノンデイト仕様になり、クラシカルな印象となった。文字盤と見事に調和するホワイトゴールド製のくさび型インデックスやドーフィン型の針、柔らかなグレーカラーのレザーストラップも、本作の優美さをよりいっそう引き立てる。
ムーブメントは、マイクロローターを備えた自動巻きのCal.L.U.C 96.40-Lを搭載。ゴールド製の双方向マイクロローターとツインバレルを備えることによって、ケース厚8.2mmという薄さと約65時間の実用的なパワーリザーブを両立している。
自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティールケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。3気圧防水。371万8000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
IWC「ポートフィノ・オートマティック」Ref.IW356523
IWC「ポートフィノ」は、1984年の誕生以来マイナーチェンジを繰り返しつつ、同社の定番コレクションとしての座を確立してきた。1950〜1960年代の時計から着想を得た、優雅で洗練された意匠が特徴である。
3針と日付表示のみのミニマルな「ポートフィノ・オートマティック」は、このシンプルさが日常使いに優れていることから、同コレクションの中でも特に人気が高いモデルだ。スーツに合うモデルとして、多くのビジネスパーソンから支持されている。ステンレススティール製のケースは、9.2mmまで厚さが抑えられており、スーツの袖口への収まりも良い。また、スイス高級時計メーカーのモデル中では、比較的手の届きやすい価格も魅力のひとつである。
ムーブメントは、自動巻きのCal.35111を搭載。パワーリザーブは約50時間だ。
スーツスタイルを格上げしてくれる本作は、若手のビジネスパーソンが初めて良い時計を購入したいというニーズにも適したモデルだ。深みのあるブルーの顔立ちにブラックのアリゲーターストラップを組みあわせていることも、“間違いない”選択といえるだろう。
自動巻き(Cal.35111)。25石。パワーリザーブ約50時間。2万8800振動/時。SSケース(直径40.0mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。74万2500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
ヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・マニュアルワインディング」Ref.81180/000G-9117
2004年にヴァシュロン・コンスタンタンが発表した「パトリモニー」は、最高峰のドレスウォッチとして名高いコレクションだ。スリムなケースと美しい曲線が特徴的な本コレクションは、1950年代に同社が製造していたモデルを現代的に再解釈したものである。極限まで無駄を削ぎ落とした意匠は、無味無臭なシンプルさではなく、洗練された中にクラシカルな風格が共存している。
そんな本コレクションを代表するモデルといえば、ケース厚わずか6.79mmの「パトリモニー・マニュアルワインディング」である。上質でエレガントな佇まいの薄型18Kホワイトゴールドケースは、紳士の手元をさりげなく飾るのにふさわしい。さらに本作で注目したいのは文字盤だ。同社のシンボルマークといえば4つのくさび形を組み合わせたマルタ十字であるが、本作は12、3、6、9時位置のインデックスがくさび形になっており、文字盤全体でマルタ十字を表現しているのだ。
ムーブメントは、パワーリザーブ約38時間のCal.1400を搭載。主ゼンマイをリュウズを使って巻き上げる必要のある手巻きという点も、余裕のある大人のためのドレスウォッチであることを感じさせる。
手巻き(Cal.1400)。20石。パワーリザーブ約38時間。2万8800振動/時。18KWGケース(直径40.0mm、厚さ6.79mm)。3気圧防水。327万8000円(税込み)。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755
ジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・スモールセコンド」Ref.Q1212510
「マスター・ウルトラスリム」は、ジャガー・ルクルトの卓越した技術力と審美性を集結させたコレクションだ。同社の極薄ムーブメントの歴史は長く、厚さわずか1.38mmのCal.145を開発した1907年にまでさかのぼる。同社の極薄ムーブメントへの挑戦は、そこから現在に至るまで絶えず続いてきた伝統なのである。
本コレクションの中でも「マスター・ウルトラスリム・スモールセコンド」は、左右対称の美を追求した端正なモデルだ。6時位置に配置されたスモールセコンドが、クラシカルな印象を引き立てる。スモールセコンドはセンターセコンドよりも本体を薄くすることが可能となるため、薄型ウォッチを検討している人にとっては魅力的なモデルだろう。厚さ8.1mmの18Kピンクゴールドケースが、シンプルさの中にほのかな華やかさを添える。
ムーブメントは、職人が精度を追求した薄型のCal.896を搭載。薄型でありながら約43時間のパワーリザーブと5気圧防水を備え、日常使いできるドレスウォッチだ。
自動巻き(Cal.896)。32石。パワーリザーブ約43時間。2万8800振動/時。18KPGケース(直径39.0mm、厚さ8.1mm)。5気圧防水。323万4000円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
ロレックス「パーペチュアル1908」Ref.52509
ロレックス「パーペチュアル1908」は、2023年に登場したドレスウォッチだ。同社のドレッシーなコレクションといえば、同年に惜しまれつつも生産終了となった「チェリーニ」を想起する人も多いかもしれない。このチェリーニに置き換わる存在ともいえる新コレクションが、本作なのである。モデル名は、スイスで「Rolex」の商標が正式に登録された年に由来して名付けられた。その名からも、ロレックスの歴史を強く主張するモデルであることが分かる。
本作は、1931年に発表した「オイスター パーペチュアル」から着想を得て誕生した。ケースはオイスターパーペチュアルに似た造形であるものの、ドームとフルーテッドが混在したスリムなベゼルや、ケース厚9.5mmの薄型18Kホワイトゴールドケース、1940年代の時計によく見られたアラビア数字とバーが配されたインデックスなどが採用されており、ドレスウォッチとして再解釈されたモダンな仕上がりとなっている。
6時位置に設けられたスモールセコンドなど、意匠にはクラシカルなエッセンスがちりばめられている本作だが、ムーブメントは同社が開発した最新のCal.7140を搭載。約66時間のパワーリザーブと5気圧防水を備え、日常使いでも安心の仕様だ。同社の伝統と最新技術が織りなす優美な薄型ドレスウォッチである。
自動巻き(Cal.896)。32石。パワーリザーブ約43時間。2万8800振動/時。18KPGケース(直径39.0mm、厚さ8.1mm)。5気圧防水。323万4000円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833