パテック フィリップを興した革命家。創業者のひとりを描いた映画の制作が進行中

FEATUREその他
2024.10.16

1830年代、ポーランド貴族の出身であるアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックは、激動の時代の中、自由を求めて祖国を離れた。その後、スイスにたどり着き、時計職人としての才能を開花させていく。彼がどのようにしてパテック フィリップを創業し、数々の困難を乗り越えながら、世界最高峰の時計ブランドへと成長させていったのか、その軌跡をたどる映画が現在制作中である。

アントニ・パテック映画

11月蜂起を想起させる戦争画の一場面。この蜂起は1830年、ポーランドで起こったロシア帝国に対して独立を求めた反乱だ。騎乗した兵士が槍を手に、決意に満ちた表情で前方を見据えている。背景には木々や野原が広がり、当時の戦場の雰囲気を伝えている。
Originally published on MONTRES DE LUXE
Edited by Takashi Tsuchida
[2024年10月16日公開記事]


ポーランドとスイスを舞台に撮影進行中

 時計愛好家たちを魅了し、必ずや熱狂させるであろう映画の制作が、現在進められている。制作を手掛けているのは、パテック フィリップの創設者のひとり、アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックの出身国であるポーランドの制作会社だ。すでにポーランドとスイスで撮影が進められているという。なお、アントワーヌという名前はフランス語風の呼び方で、ポーランド語風での呼び方となると、アントニとなる。

パテック フィリップの創業者のひとり、アントワーヌ・ノルベール・ド・パテック(1812年~1877年)の肖像画。ポーランド貴族の子としてポーランドのピアスキに生まれた。騎兵隊に入り、1830年に起こった11月蜂起に参加。その後フランスに亡命を余儀なくされ、さらにスイスに移住した。そして今のパテック フィリップにつながるパテック チャペック社を起こした。

 映画の制作者たちは、映画の公式ウェブサイトにて、次のように述べている。

「ポーランド文化の促進を目的としたアントニ・パテックの活動、彼の愛国心と社会的な関与、そして何より、彼が創設した会社が世界の時計製造の発展に果たした貢献は、ポーランドがヨーロッパの地図から消し去られるという、我が国にとって非常に困難な時代をも描く、素晴らしい映画の題材となっている」

 この映画は、ポーランド立憲王国における11月蜂起の反乱者としてスイスに亡命し、社会活動家となり、さらには著名な起業家へと成長したアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックの生涯を描いた内容だ。

晩年のアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックのシーン。ドイツ語での呼び名、マリエンバートで有名なチェコの温泉保養地、マリアーンスケー・ラーズニェにて撮影された。

 11月蜂起とは、1830年に、ロシアの実質的な支配からの独立を目指したポーランド全土で起こった反乱だ。この運動はロシア軍によって制圧され、以降のポーランドはロシアの属国化がさらに進んでいくこととなる。

 アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックは、最も高級な時計ブランドのひとつであるパテック フィリップを創設し、近代史に永遠の足跡を残した。その製品は、イギリスのヴィクトリア王妃、デンマークのルイーズ女王、イタリアのヴィットーリオ・エマヌエーレ3世など、多くの王侯貴族に愛用されたのだ。

 しかし、あまり知られていないのは、アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックが亡命生活を送りながらも、祖国ポーランドに残る人々を積極的に支援し続けたことである。彼の名前そのものが、当時独立国として存在しなかったポーランドの存在感をヨーロッパと世界に示すことに大きく貢献した。

歴史を感じさせる部屋の中での、アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックとジャン・アドリアン・フィリップとのシーン。なお、アドリアン・フィリップはポーランド・ポズナニ出身の熟練の時計士であるヤヌシュ・ビリツキが演じた。埋め込まれたインスタグラムの投稿の1枚目にはひとりしか写っていないが、2枚目以降にアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックとジャン・アドリアン・フィリップ、そして懐中時計の写真が掲載されている。

 アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックは自社製の時計に、ポーランドの国民的英雄の肖像、ポーランド軍の偉大な勝利を描いた戦闘場面、ポーランドの家族の紋章、聖母マリアの画像など、愛国的かつ宗教的なモチーフを施した。11月蜂起後の他のポーランド人亡命者たちとともに、ポーランド国家の再建を目指しつつ、ポーランド文化の保護に尽力したのである。

 クシシュトフ・パルシンスキ監督によるこの映画は、アントワーヌ・パテックを偉大なポーランド人として正当に評価することを目指している。さらに、これまでほとんど知られていなかった主人公に関する文書資料によって、作品に深みが加えられている。



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