新CEOの下、オーデマ ピゲの先進技術へのチャレンジがこれまでにも増して目覚ましい。それを具現化した2本の新作が登場した。テーマとなったのは色と素材。いずれもプロダクトの核となる技術であり、次世代に向けたさらなる革新を象徴するものだ。
柴田充:取材・文 Text by Mitsuru Shibata
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
日本限定色と新素材の共演
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文字盤のスモークディープレッドは日本の要望で実現した仕様だ。ケースにはホワイトゴールドを採用し、ふたつのリュウズの天冠は針やインデックスのピンクゴールドとカラーを統一し、ステンレススティールケースと差別化する。ストラップにはインターチェンジャブル機構搭載。自動巻き(Cal.4308)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ14.3mm)。30気圧防水。984万5000円(税込み)。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak-offshore/15720CN.OO.A002CA.02.html
今や文字盤色は、白や黒に加え、定番になったブルーやファッションの流行色であるニュアンスカラーなど多様化し、より情感に訴えるようになった。その美しい発色や繊細な風合いをもたらしているのが仕上げと塗装の技術革新だ。
「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」日本限定モデルは、特別色のスモークディープレッドを採用した。メガタペストリーに6〜10層のラッカー塗装を重ね、ボルドーにも近い深く奥行きのある色と外周のブラックへの自然なグラデーションを生み出す。ホワイトゴールド製ケースの重厚感ともマッチする一方、エレガントな艶を感じさせる。
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オーデマ ピゲでは、カラーデザインはクリエイション・コミッティで選ばれたバージョンについて3Dのプロトタイプを作製し、モデルとカラーのマッチングと品質を満たす最善の組み合わせを選定している。これはすべてのコレクションに課される厳密なプロセスだ。
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そして「ロイヤル オーク コンセプト スプリットセコンド クロノグラフ GMT ラージデイト」では素材における新たな革新を成し遂げた。8年ぶりのフォージドカーボンは、自社のR&Dラボで5年をかけて開発した新素材CFT(クロマフォージドテクノロジー)カーボンを採用し、粉末状のピグメント(蓄光素材)を練り込み、高温高圧でプレス成型する。暗所ではこの青い光がディープブラックのケースに浮かび上がるのだ。
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初代コンセプトはロイヤル オーク誕生30周年の2002年に発表され、当初市販の予定はなかったが、技術革新の象徴として発売に至った。今回ケースに採用された新素材CFTカーボンは、従来のカーボンとは異なり、樹脂の代わりにファイバーに直接着色することで表現の自由度も増したという。自動巻き(Cal.4407)。73石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。CFTカーボンケース(直径43mm、厚さ17.4mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak-concept/26650FO.OO.D353CA.01.html
蓄光性のあるフォージドカーボンの採用はこれまでも他社ではあったが、ベゼル程度にとどまり、ケースへの大胆な採用はない。特にCFTカーボンは、航空産業で使用される高品質レジンを採用し、温度や湿度の変化への耐久性を高め、洗浄で白濁もしない。コンセプトにふさわしい先進素材だ。
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今年に入り、オーデマ ピゲはクロマセラミックとクロマゴールドという革新的な素材技術を立て続けに発表し、一部はすでに実用化している。そしてミラノで開催されたエキシビション「シェイピングマテリアルズ」では、素材から始まり、それがどのように加工され、時計に仕上げられるのかが明示された。こうした素材研究への取り組みは、ロイヤル オークが採用したステンレススティールにさかのぼり、まさにブランドのクリエイティビティの源流と言っていいだろう。この2本の新作もその原点に深耕し、次世代を切り開く端緒になるのである。
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