今回インプレッションするチューダーの「ブラックベイ GMT」は、2023年に発表されたモデルだ。この年のチューダーは、“ブラックベイ祭り”と呼べるほど同コレクションの新作が充実。本作もそのひとつにラインナップされるのだが、中でも注目を集めたディテールが、従来のブラックベイが持つマッシブな印象を一変させたオパラインダイアルである。しかもこのダイアルがもたらす影響は大きく、実際に本作を手にするとその静謐な表情によって、幅広いスタイルやシーンで着けられる時計であることを実感する。
[2024年10月6日公開記事]
単なる“カラバリ”に収まらないオパラインダイアルモデル
「ブラックベイ GMT」が初めて登場したのは、チューダーの日本再上陸がアナウンスされた2018年のこと。この年、ブランドのコアコレクションであるブラックベイからは3モデルが発表されており、そのひとつがブラックベイ GMTだった。ファーストモデルはディープブルーとバーガンディーで色分けされた回転ベゼルにブラックのダイアルを備える、いわばGMTウォッチのスタンダードなデザインを取り入れていたが、2022年にはステンレススティール製ケースとイエローゴールド製ベゼルを組み合わせた「ブラックベイ GMT S&G」を追加。今回インプレッションした時計も、こうしたブラックベイ GMTのカラーバリエーションのひとつにカウントされるモデルだ。
自動巻き(Cal.MT5652)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径41mm)。200m防水。61万3800円(税込み)。
回転ベゼルは初代モデルと同じく、ディープブルーとバーガンディーカラーの組み合わせ。ケースサイズは41mmで、ムーブメントも自社製のCal.MT5652を搭載するなど仕様に大きな変更はないものの、本作ではこれまでのブラックベイ GMTにはなかった新たな試みが取り入れられた。それが、チューダーの姉妹ブランドがかつて製作したとされるホワイトダイアルのGMTウォッチ──俗にいう“アルビノ”モデルを想起させることから一部愛好家の間で話題となった、オパラインダイアルである。
存在感のあるツートンベゼルも品のあるアクセントに
オパラインと表記していることからも分かるように、このダイアルは純粋なホワイトではなく、かすかにシルバー味を帯びているのが特徴だ。そもそもGMTウォッチは、旅客機のパイロットが着用することを前提にデザインされているため、判読性の高いブラックダイアルを備えることが一般的。そのためか、ツートンカラーのベゼルとブラックダイアルとの組み合わせに見慣れてしまったものの、実際に本作を手にしてみるとホワイト系ダイアルとのコンビネーションも悪くない。むしろ、わずかにシルバーを感じさせる色合いにしたことで、コーディネートする服装の選択肢も広がったのではないか。また、ディープブルーとバーガンディーで彩られた回転ベゼルも存在感はあるものの、ダイアルの影響を受けて一段明るいトーンになったように感じられ、ブラックダイアルのGMTウォッチに感じられるアクの強さは、ずいぶんと抑えられたような印象を受ける。
もちろんホワイト系のダイアルではあるものの、GMTモデルに不可欠な判読性は十分に考慮されている。時針とGMT針には、チューダー ダイバーズモデルの特徴でもあるスノーフレーク形状を採用して存在感を際立たせるとともに、赤で色分けされたGMT針は、その先端をダイアルの外周ギリギリまで伸ばしているため、ホームタイムとローカルタイムそれぞれの時刻がしっかりと確認できる。しかも時分針とインデックスは、それぞれを黒またはシルバーで縁取っているため昼間の屋外のような明るい環境下でも時刻を読み取りやすく、またすべての針とインデックスにはスーパールミノバが塗布されているため、暗所での判読性も申し分ない。
海外渡航に便利な時計だからこそT-fitは欲しかった!
今回、ブラックベイ GMTのインプレッションを筆者に依頼したのは、筆者がバーガンディーベゼルと3列リンクのブレスレットを備えた「ブラックベイ」を使用しているからだろうか。その意図は分からないが、結論から言えば、搭載するムーブメントは違うものの、外装はブラックベイをベースとしているだけに、装着感に大きな差は感じられない。
200mの防水性能を持つダイバーズモデルがベースとなっているため、ケースにはやや厚みがあり、重量感もあるものの、装着し続けて手首に気怠さを感じるようなことはない。むしろ3列リンクブレスレットはガタつきがなく、装着時の安定感は極めて良好だ。一方でデザインに目を向ければ、チューダーの個性でもあるリベット付きのブレスレットがアクセントになっており、本作にほどよい“ツール感”を与えている。もちろん、リベットはユーザーの好みが分かれる意匠ではあるだろうが、筆者はこのさりげないディテールも、ブラックベイ GMTの大きな魅力だと考えている。
また、ブレスレットにはセーフティキャッチが備わり、脱落の不安は解消しているものの、一点だけ残念なのはブラックベイで採用されてきたT-fitが付いていないこと。これはブレスレットを1.6mmずつ5段階で長さ調節できる機構で、むくみによって変わる手首のサイズに対応できるのはもちろん、汗をかきやすい夏場にはブレスレットを少し緩めるような使い方もできる。特に今年の夏は猛暑続きだったため、ブラックベイを着用する際、筆者はこの機構を積極的に使っていたのだが、GMT機能を搭載した──つまり、飛行機に乗る機会の多い人が身につけるであろうブラックベイ GMTだからこそ、この機構は搭載してほしかった。もっとも、今年リリースされた「ブラックベイ 58 GMT」にはT-fitが付いているので、この機構に魅力を感じるのであれば、こちらのモデルを選択する手もあるだろう。
価格を踏まえると、実に良心的なクオリティ&パフォーマンス
そして本作を評するうえで、触れずにはおけないのがプライスだ。そもそも、チューダーのコレクションは総じて良心的なプライスになっているが、本作もまた、GMT機能を付いた自社製造のムーブメントを搭載し、外装もヘアラインを丁寧に施しながら約61万円となっており、この価格設定は思わず喝采したくなるレベル。しかも本作は、オパラインダイアルという魅力的なダイアルカラーを採用したことで、クリーンなスタイルに合わせた時の違和感も抑えてくれる。であれば、たとえGMT機能を使う頻度が少なくても……いや、GMT機能を使う機会が全くなくても、チューダーの時計が気になるのであれば、このモデルは検討する価値がある。なぜって、ブラックベイを購入した自分自身が、「もう少し比較検討してもよかったかも……」と、このインプレッションを通じて感じたのだから。