コルム「ゴールデンブリッジ」と「アドミラル」進化し続けるロングセラー

2024.10.22

著名なブランドで功績を上げたルネ・ヴァンヴァルトが、叔父の時計工房を引き継ぎ、その地位をなげうってまで創業したコルム。彼の情熱と発想力は次々とユニークな時計を生み出し、やがて同社に唯一無二の存在感を与えるに至る。ふたつのアイコン「ゴールデンブリッジ」と「アドミラル」から、コルムの伝統と革新に触れる。

ゴールデンブリッジ

輪列が一直線に並んだバゲット型ムーブメントを特徴とする「ゴールデンブリッジ」。独立時計師ヴィンセント・カラブレーゼが描いた夢は、コルムの力を得て現実となった。2005年にヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエによる設計の見直しを経てより実用性を増したゴールデンブリッジは、コンセプトを忠実に守りつつ進化を重ねている。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
野島翼:文 Text by Tsubasa Nojima
加瀬友重:編集 Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]

コルムを支えるふたつのコレクションにフォーカス

 1955年創業という若いブランドでありながら、多くのアイコニックピースを世に送り出してきたコルム。同社の歴史はルネ・ヴァンヴァルトが、彼の叔父であるガストン・リースの工房に参画することで始まる。33年にパテックフィリップでキャリアをスタートしたヴァンヴァルトは、その後オメガ内でデザインを専門に手掛けるクリエイション部門を担当。「シーマスター」や「コンステレーション」などの名作を生み出した。

アドミラル

外洋ヨットレースの世界観を取り入れ、ラグジュアリースポーツウォッチとして熟成を重ねてきたアドミラル。12角形のベゼルとリュウズガードを備えたスポーティーなケースと、ダイアルに並ぶ国際海洋信号旗モチーフのインデックスは、コルムを象徴するアイコンとして認知されている。トゥールビヨンを搭載したコンプリケーションウォッチからメテオライトダイアルを採用したモデルまで、幅広いラインナップがそろう点も魅力のひとつ。

 そんな彼が、小さな家族経営の時計工房を引き継いだのは、デザイナーとして秘めた情熱があったからに違いない。創業間もなくその想いは、「ゴールデンチューブ」や「チャイニーズハット」をはじめとする独創的なデザインの作品へと結実。その後も数々の功績を上げた彼は、2000年に時計業界のノーベル賞と称されるガイア賞の受賞を果たす。それも起業家理念部門ではなくクラフツマンシップ&クリエイション部門での受賞というのが、彼の類稀な発想力を物語る。

 現在5つのコレクションを展開するコルムだが、特にブランドの顔として認知されているのが、「ゴールデンブリッジ」と「アドミラル」だろう。前者はムーブメントを駆動装置から工芸品へと昇華させた立役者、後者はヨットレースの世界観を取り入れた実用機である。相反するキャラクターを持つ両者は、どのような道程を辿ってきたのだろうか。

 ゴールデンブリッジ誕生のきっかけは、77年に独立時計師のヴィンセント・カラブレーゼがコルムに持ちかけた、ある腕時計の共同製作の依頼だ。サファイアクリスタルケースに身を包んだその時計は、ムーブメントが露わとなっているだけではなく、一直線の輪列というユニークな構造を有したものであった。ヴァンヴァルトは、カラブレーゼの想いに共鳴したのだろう。初対面でありながらも、両者が契約までに要した時間はわずか3時間であったという。コルムはその後、3年の期間を経て製品化に成功。当時も今も加工が困難なサファイアクリスタルの製造を手掛けるザイツS.A.の協力を得て、初代モデルが誕生する。ムーブメント自体をデザインの一部として取り入れた先進性は、時計界に大きな衝撃を与えた。

ヴィンセント・カラブレーゼ、初期型のゴールデンブリッジ

ヴィンセント・カラブレーゼ(左)のプロトタイプを基に誕生した、初期型のゴールデンブリッジ(右)。量産機とはいえゴールデンブリッジを組み立てることができる職人は、当時も今も片手で数えられるほどしかいない。

 2005年には、当時の社長セヴラン・ワンダーマンが、より現代的なアップデートを図るべく、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエにエボーシュの設計を依頼。誕生した新生ゴールデンブリッジは、より実用的な進化を果たした。

 そんな現行モデルのひとつが、「ゴールデンブリッジ クラシック」だ。トノーケースの表裏、側面にはサファイアクリスタルが配される。アカンサスとシダのエングレービングが施された18Kゴールド製の地板や、磨き込まれたネジや歯車など、それらが織り成す精緻な動きをあらゆる角度から鑑賞できる。

ゴールデンブリッジ クラシック

ゴールデンブリッジ クラシック
ケースの表裏だけではなく側面にもサファイアクリスタルが取り付けられ、歯車が回転する様子まで鑑賞することが可能な最新のゴールデンブリッジ。トノーケースのカーブが作り出す余白が、優雅な印象を与える。手巻き(Cal.CO113)。19石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRGケース(縦51×横34mm、厚さ11.35mm)。30m防水。770万円(税込み)。

 一方で、よりモダンな「ゴールデンブリッジ アヴァンギャルド」も存在する。本作はローターを往復運動させることで主ゼンマイを巻き上げる、リニア・ワインディング方式の自動巻きバゲット型ムーブメントを搭載。さらにフローティングハーネスシステムによって、立体的なインデックスが浮遊しているような視覚効果を与えている。その全貌は、コの字型に成形されたパノラマサファイアクリスタル越しに鮮明に楽しむことが可能だ。

ゴールデンブリッジ アヴァンギャルド

ゴールデンブリッジ アヴァンギャルド
直線型自動巻きムーブメントの誕生10周年を記念した限定版。サファイアクリスタルの塊から削り出したパノラマサファイアクリスタルを採用し、ムーブメントを細部まで楽しめる。自動巻き(Cal.CO313)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Ti+DLCケース(縦51.8×横37.2mm、厚さ13.7mm)。30m防水。世界限定50本。660万円(税込み)。

 コルムのもうひとつのアイコンであるアドミラルは、国際的な外洋航海ヨットレースに敬意を表し1960年に誕生した。当時は「アドミラルズカップ」と名付けられ、スクエア型ケースの防水時計として発表された。なじみ深い12角形ベゼルと国際海洋信号旗をあしらったインデックスが登場したのは、80年代のことだ。以降、アドミラルはエレガントなスポーツウォッチとして親しまれ、豊富なバリエーションを展開していく。ヨットレースの優雅な世界観を反映させたデザインと、防水時計としての堅牢性を兼ね備えたアドミラル。ラグジュアリースポーツウォッチとしての資質が垣間見えるそのパッケージからは、やはりコルムの卓越した先見性がうかがい知れる。

アドミラル

1960年に誕生した初代アドミラル(左)は、当時では珍しいスクエア型ケースを採用した防水時計であった。おなじみの12角形ベゼルや国際海洋信号旗をあしらったインデックス(右)が登場するのは80年代に入ってから。

 より上品かつ高機能に進化を遂げてきたアドミラルの現在地を示す好例が、「アドミラル 45 トゥールビヨン オープンワーク」だ。立体的なインデックスとブリッジが配されたオープンワークダイアルは、6時位置のフライングトゥールビヨンを際立たせ、18Kローズゴールドパウダー加工が施されたカーボンケースとともに、見る者を圧倒する。

アドミラル 45 トゥールビヨン オープンワーク

アドミラル 45 トゥールビヨン オープンワーク
大胆なオープンワークと、ゴールドパウダーをちりばめたカーボンケースが目を引く数量限定モデル。6時位置にはフライングトゥールビヨンが配され、その回転する様子が見て取れる。自動巻き(Cal.CO298)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボンケース(直径45mm、厚さ14.3mm)。100m防水。世界限定48本。1210万円(税込み)。

 シンプルながらもコルムらしさを感じさせるのが、「アドミラル 42 オートマティック」のメテオライト(隕石)ダイアルモデルだ。今や多くのブランドが手掛ける隕石製のダイアルだが、同社はその先駆けと言われている。12角形のベゼルにリュウズガード、モノトーンの国際海洋信号旗モチーフのインデックスを組み合わせた本作は、広大な宇宙で永い時間をかけて生成された、メテオライト特有の神秘性を味わうにうってつけのモデルだ。

 魅せるムーブメントを備えた工芸品としての側面を持つゴールデンブリッジと、ラグジュアリースポーツウォッチとして熟成を重ねてきたアドミラル。全く性格の異なるふたつのコレクションだが、その根底には、コルムが培ってきたモノづくりの哲学が確かに息づいている。そしてそれは、今も進化を続けているのだ。

アドミラル 42 オートマティック

アドミラル 42 オートマティック
コルムは、1986年に他社に先駆けてメテオライトダイアルを採用したブランドのひとつ。国際海洋信号旗モチーフのインデックスをモノトーンに仕上げ、メテオライト特有のミステリアスなパターンを際立たせる。自動巻き(Cal.CO395)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径42mm、厚さ10.3mm)。100m防水。176万円(税込み)。



Contact info: ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080


これはすごい! コルムから蛇が巻き付く新作「ゴールデンブリッジ “サーペント”」が登場!

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個性だけではないトータルバランスの良さが魅力。コルム「アドミラル レジェンド 38」をインプレッション

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