8月末から9月にかけて、スイス・ジュネーブで開催されたジュネーブ・ウォッチ・デイズで取材した新作モデルを深掘り。高級時計市場のユーザーは男性が多くを占めるため、当然今回のイベントでも、男性向けコレクションの取材がほとんどであった。しかし個人的に、本イベントで最も萌えたのは、ブレゲのレディースモデルであった。これから高級腕時計を購入する、すべての女性に本記事を届けたい。
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年10月13日公開記事]
今年はブレゲのレディースモデルに注目したい
8月29日から9月2日にかけて、スイスのジュネーブで開催されたジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024を取材した。本イベントで出展ブランドは、新作モデルを発表したり、この会期に合わせる形でなくとも、今年の新作モデルを展示のうえタッチ&フィールさせたりといったプログラムを行っていたため、さまざまな時計を目にして、手に取ることができた取材であった。
取材したモデルの多くは男性向けコレクションであった。現在の高級時計市場のユーザー属性を考えれば、不思議ではない。しかし、新しいレディースモデルを打ち出したブランドもあった。そのひとつが、ジュネーブ・ウォッチ・デイズ初出展となるブレゲである。そして、このブレゲの新作レディースモデルが、今回の取材で最も強く印象に残ったのであった。取材したのは「マリーン レディ 9518」と「クイーン・オブ・ネイプルズ 8918」だ。モデルのリリース自体はジュネーブ・ウォッチ・デイズ開催前であったものの、じっくりと実機を見る機会を本イベントで得たので、この記事で深掘りしていきたい。
“マリーンが欲しい女性”に向けた「マリーン レディ 9518」
自動巻き(Cal.591A)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径33.8mm、厚さ9.89mm)。50m防水。409万2000円(税込み)。
自動巻き(Cal.591A)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径33.8mm、厚さ9.89mm)。50m防水。409万2000円(税込み)。
「マリーン」は、ブレゲが1990年にリリースしたスポーティーな意匠を持ったコレクションだ。アブラアン-ルイ・ブレゲが、1815年にフランス海軍省御用達時計師として、マリンクロノメーターのサプライヤーとなったことに名前を由来している。
2019年、そんなマリーンにレディース向けの「マリーン レディ 9517」と「マリーン レディ 9518」が加わった。それまでブレゲのレディースモデルというと「クイーン オブ ネイプルズ」や「クラシック」から打ち出されてきた。そのため2019年の発表当時、ブレゲらしいエレガンスを備えつつ、スポーティーなテイストも持つマリーン レディは、同社の製品として、私にとってとても新鮮であったと記憶している。
さらに今年、ダイヤモンドをベゼルにセッティングしたマリーン レディ 9518の方に、ステンレススティール製のケースとブレスレットを備えたモデルが登場した。今回取材したモデルである。
細部の「マリーン」らしさが光る
手に取ると“レディース向けのマリーン”なのだと実感した。どういうことかというと、同じ3針でメンズ向けモデルの「マリーン 5517」が直径40mmのケースであることに対し、本作は33.8mmと結構小ぶりで、パッと正面だけ見た時は、テイストが異なると思った。しかし細部は紛れもないマリーンで、本コレクションのバリエーションであることが分かる。
例えば波を模したリュウズガードやケース側面のコインエッジ装飾、ブレスレットとつながるセンターラグは、特徴的なマリーンの意匠である。また、これまでのマリーン レディの文字盤は、独特のパターンが描かれていた。
どちらも従来あったマリーン レディのモデル。自動巻き(Cal.591A)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。左が18KRG、右がSSケース(直径33.8mm、厚さ9.89mm)。5気圧防水。左が616万円、右が298万1000円(いずれも税込み)。
一方の本作は、文字盤のセンターとアウターで仕上げ分けはしているものの、サンレイのブルーまたはシルバー文字盤という、比較的ベーシックなスタイルだ。
ベーシックだからこそ、マリーンらしさが際立つ。特別モデルというポジションではなく、本作はスポーティーコレクションとして誕生したマリーンのコンセプトを他のメンズモデル同様に受け継ぐ、「マリーンのような時計が欲しいと感じる女性のために作られた、マリーンの派生モデル」なのだ。もちろんクラシックや後述するクイーン・オブ・ネイプルズもブレゲのレディースモデルの傑作だ。しかし、ステンレススティール製ケースにベーシックな文字盤をまとうことで、モダンかつ日常使いしやすいレディースブレゲという選択肢を提案したのが、この新しいマリーン レディといえる。もっともベゼル、そしてインデックスにダイヤモンドをまとっているので、華やかでラグジュアリーな要素も備わっており、特別感が味わえる1本でもある。
つくりの良さは、さすがブレゲ
レディース向けに仕立てられた外装はメンズモデルと比べると小ぶりで、ケース直径は33.8mm、厚さは9.9mmだ。ケースには前述したコインエッジ装飾や、サテンとポリッシュの仕上げ分けがなされており、小径化されたからと言って装飾は省略されていない(ブレゲクラスの高級時計ブランドでは当たり前かもしれないけど)。
ブレスレットも小径ケースに合わせたサイズになっており、センターにはポリッシュを、そのほかの部分はサテン仕上げが与えられている。ブレスレットは肌当たりよく滑らか。今回は手首に載せてみただけであるが、装着感の良さがうかがえた。コマの連結部分がネジ式なのも、高級機としての要素であろう。
搭載するムーブメントは自動巻きのCal.591A
搭載するムーブメントは、従来のマリーン レディやクラシックのレディースモデル同様に、自動巻きのCal.591Aだ。旧ヌーベル・レマニア製のムーブメントをベースに、改良されている。
パワーリザーブ約38時間と、メンズモデルのマリーン 5517が約55時間であることと比べると短い。しかし片方向巻き上げ式(自動巻きムーブメントのワインディングシステムのこと。自動巻きは着用している時にローターが回転することで主ゼンマイを巻き上げる機構で、両方向式だとこのローターがどちらに回転しても主ゼンマイを巻き上げ、片方向式だとローターの左右どちらかの振りで巻き上がる。モデルにもよるが一般的に、腕の動きの少ないユーザーには、片方向巻き上げ式の方がよく巻くとされている)であるため、あまり活動が多くないデスクワークをしている女性でも、よく巻き上がり、着用を続けているうちは時計が止まってしまうということは少ないだろう。
また、リュウズは適度な大きさで引き出しやすく、操作の際に装飾部分が当たって指の腹が痛いなどといったことはなかったため、週末に腕時計を外し、月曜日に時計が止まっていたとしても、ストレスなくリュウズを使って主ゼンマイを巻き上げて使い始めることができる。
時計好きでもそうでなくても、女性にお勧めしたい「新しいブレゲ」
ブレゲの新しい「マリーン レディ 9518」を深掘りした。
今回のジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024は「目玉の新作モデルを楽しむ」といった性格は薄く、ブレゲのこの新しいモデルも、従来モデルからのバリエーション違いというポジショニングだ。しかし、いっそうマリーンらしさをまとった本作を手にして、これまでのブレゲのレディースモデルとは違った可能性を感じた。
そして、普段使いができる特別な高級腕時計を探している女性にとって、選択肢に加えてほしいと強く思ったのであった。
「クイーン・オブ・ネイプルズ」も良かったのでぜひ!
自動巻き(Cal.537/3)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(縦36.5×横28.45mm、厚さ10.1mm)。3気圧防水。750万2000円(税込み)。
今回の取材のメインはマリーン レディだったものの、「クイーン・オブ・ネイプルズ」の新作も一緒に取材できた。本イベント前に発表済みのモデルだが、やはり従来コレクションとはまた違った表情を見せていた。
取材したクイーン・オブ・ネイプルズは、国際女性デーを祝すために製作された「クイーン・オブ・ネイプルズ 8918」だ。マザー・オブ・パール文字盤にミントグリーンのインデックスを組み合わせたモデルで、発表された3月時点で広報画像を見た時は、「爽やかなクイーン・オブ・ネイプルズも良いな」程度の感想しか抱かなかった。しかし実機を見て、伸びやかなインデックスや中央のパヴェダイヤモンド、そして6時位置のペアシェイプダイヤモンドが織りなす、優美な文字盤には、心奪われるものがあった。決して派手さはなく、むしろエレガントなのに、クイーン・オブ・ネイプルズの特徴でもある卵型ケースなどと相まって、強いキャラクターを備えていることにも改めて驚かされたものだ。
ふんだんにダイヤモンドがセッティングされていることもあり、定価は750万2000円(税込み)と、マリーン レディ以上に高額だ。しかし一度手に取ってみるとその価格の理由が納得できるし、今回の取材で手にした(手にしてしまった?)ことで、憧れはいっそう強くなるばかりだった。
このように、従来コレクションから女性へ新しい提案をしたブレゲ。これからもレディース市場に向けたモデル展開が楽しみで仕方ない。