パワーリザーブ表示機構原理や有用性、メリットとデメリットを解き明かす

2019.12.12

パワーリザーブ表示輪列全体の写真。中心に見えるのが、遊星歯車を内蔵した切換車。12時方向に連なる輪列が香箱上の歯車に連結したカナとその中間車。切換車の下には香箱真に連結したカナがあり、主ゼンマイを巻き上げる回転運動を切換車に伝える。切換車はパワーリザーブ針を戻す動きと進める動きを切り分ける。

 具体的に説明したい。ゼンマイを巻くと香箱真が回転し、その回転運動は直接、切換車に伝わる。これは順方向の動きなので回転運動はそのままパワーリザーブ針に伝わり、針は先に進む(=パワーリザーブ針がフルに近付く)。一方、ゼンマイがほどける場合は、香箱上部の歯車に連結したカナが回転し、それが遊星歯車に噛みあって、パワーリザーブ針をゼロ位置に戻そうとする。遊星歯車には、針を進めるためのもう1系統の輪列もつながっている。しかし、遊星歯車がスリップすることで、その動きは香箱真とは切り離される。切換車にかかる負担は相当なものだが、当然、ツァイトヴィンケルは、この部品も分解可能な上、注油もできる。現在、遊星歯車で注油が可能なものは、これぐらいしかないのではないか。

 非常にクレバーな設計だが、それにしても部品点数が多い。とりわけ、遊星歯車からパワーリザーブ針に至るまでの中間車は、ここまで増やす必要がないだろう。少なくとも他社なら、ここの部品を削減して、コストダウンと、止まりの原因を排除するはずだ。佐藤氏も「他社のパワーリザーブ表示機構とは比較にならないほど部品が多い」と認める。

(左)香箱の上に固定された歯車と噛みあうカナ。ゼンマイがほどけると香箱は回転し、その回転がカナに伝わる。カナの回転は3枚の中間車を経て切換車に伝わり、さらに中間車を介してパワーリザーブ針に至る。そのため、ゼンマイがほどけると、パワーリザーブ針はゼロ表示の方向に戻る。強いトルクを受けるため、受けも厚い。(右)香箱上の歯車と噛みあうカナを別方向から見た様子。下に見えるピンを立てた丸い金色の部品はラージデイトの動きを司る。パワーリザーブ表示機構は、この部品を回避して配置せざるを得ない。時計メーカーは好まない設計だが、ツァイトヴィンケルは入念な設計とメンテナンス可能な構造を採用することでうまく回避した。

パワーリザーブ表示輪列の受けを外したCal.ZW0103の文字盤側の全体写真。筆者の見るところ、最も複雑なパワーリザーブ表示機構のひとつである。しかし歯車にはベリリウム銅と鋼を使用し(一般的には真鍮が多い)、輪列を構成する歯車に注油可能など、耐久性を重視した設計を持っている。佐藤氏いわく「主ゼンマイの巻き上げ残量を忠実に表示してくれるパワーリザーブ表示」とのこと。

香箱の比較。左はパワーリザーブ表示なしの香箱。右はパワーリザーブ表示付きのCal.ZW0103の香箱。右の香箱の上に見える金色の歯車を据え付けた皿状の部品が、カナに噛み、主ゼンマイがほどける際の動きを、中間車を介して切換車へ伝える。鋼製のカナに噛み合わせるため、上に見える金色の歯車はベリリウム銅製。肉厚に切ることで耐久性を高めている。

 では、ツァイトヴィンケルはなぜ、ここまで部品を増やしたのか。

「おそらく理由は、スペースの都合でしょうね。普通、これだけ中間車を噛ませるのは、香箱の回転をできるだけ減速させて、小さなスペースにパワーリザーブを表示するためです。しかし、ツァイトヴィンケルの中間車は減速比が同じなんです。つまり、ただの中間車でしかない。理由は、複数の中間車を噛ませることで、パワーリザーブの針を理想的な場所に置きたかったからではないでしょうか」

 一般論を言うと、パワーリザーブ表示機構は、簡潔に作るほど良しとされる。そして多くの設計者も、その点を自慢する。だが、ツァイトヴィンケルの方法論はちょうど真逆だ。部品点数は増やす、しかしそれらの部品を分解できるし、注油が可能だ。確かに時計師にとっては面倒な機構だろう。筆者の見るところ、現時点で、これほどよく出来たパワーリザーブ表示機構はほかに存在しない。なるほど、佐藤氏が

「時計師が作りたかった時計」と言うはずだ。

Contact info: ツァイトヴィンケル www.zeitwinkel.ch