ディスク式表示機構
NOMOS GLASHÜTTE
ノモスを代表する「タンジェント」シリーズに、日付とパワーリザーブ表示機構を追加した「タンジェント デイト パワーリザーブ」。1時位置に配されたディスク式パワーリザーブ表示機構は、シンプルな文字盤の中にあって、視線を導くポイントにもなっている。ラインナップされるモデルは、小窓からのぞくパワーリザーブ表示ディスクのカラーが赤と黒の2モデル。ディスク表示のメリットはデザインだけではない。パーツ数を減らすことでムーブメントの厚さをスッキリと抑えることができるのだ。ノモスのようにデザインに特化したシンプルな文字盤にこそ、ディスク式のパワーリザーブ表示はより一層映えるようだ。
ノモスを代表する定番のタンジェントに日付表示とパワーリザーブ表示を搭載したモデル。1時位置の小窓から見えるパワーリザーブ表示用のディスクの色が赤色のタイプと黒色のタイプの2モデルで展開する。右が黒色表示のTN1D1W2BK、左が赤色表示のTN1D1W2RD。いずれも手巻き(Cal.DUW4401)。パワーリザーブ約42時間。SS(直径35mm、厚さ6.6mm)。3気圧防水。各37万円。
ノモスの「タンジェント デイト パワーリザーブ」は、1時位置の小窓からのぞくディスクの色の増減でパワーリザーブ残量を表示する。このモデルには赤色表示タイプと黒色表示タイプの2種類があり、ほぼ同じ機能だが、色の増減と残量の関係が反対になっている。赤色表示の場合は、主ゼンマイを巻く時、小窓の開いたディスクは、時計と逆方向に回りながら白色に変わっていく。主ゼンマイがほどける時は、小窓の開いたディスクのみが時計方向に回りながら赤色に変わっていく。主ゼンマイの残量がゼロになった時点で小窓はすべて赤色になる。一方の黒色表示の場合は、主ゼンマイを巻く時、小窓の開いたディスクは時計と逆方向に回りながら黒色に変わっていく。主ゼンマイがほどける時、小窓の開いたディスクのみが時計方向に回りながら白色に変わっていく。巻き上げ残量がゼロになった時点で小窓はすべて白色になる。
パワーリザーブ表示は大別すると指針式とディスク式があるが、ディスク式のメリットは少ない歯車で構成できるため(ノモスの場合は3つの歯車)、ムーブメントの厚さを抑えることができること。対して、指針式の場合は、メーカーにもよるが、12~15枚の歯車が必要になる。少ない歯車で表示できるということは、価格を抑えることにもなる。半面、デメリットは指針式以上に表示位置を香箱によって規制されること。香箱の上にディスクを配することで、スペースと部品点数を最も抑えることができるからだ。では、具体的な構造を黒色表示タイプで見てみよう。
「タンジェント デイト パワーリザーブ」が搭載するインハウスの手巻きムーブメントCal.DUW4401。この自社開発ムーブメントは、自社製のヒゲゼンマイと脱進機で構成される「スウィングシステム」を採用する。パワーリザーブをディスク式で表示することで部品点数を抑え、ムーブメントの厚さをそのまま維持できるという利点がある。
主ゼンマイを巻き上げる時、香箱上に設置された歯車Eが香箱真によって巻き上げられる。歯車Eが遊星歯車Fを回し、遊星歯車Fは歯車Eの周囲を回転しながら、同時に歯車Bを回転させる。歯車EとBは同じ方向に回転するが、前者の歯数が20枚で後者の歯数が19枚なので、少しずつズレながら、主ゼンマイは巻き上がり、フルに巻き上がった時、歯車Bの小窓Cからはその下の歯車Eのディスクの黒い部分だけが見える位置に来る。
逆に、主ゼンマイがほどける時は香箱自体が回転し、香箱上の遊星歯車Fが、香箱真に固定されて動かない歯車Eの周りを自転しながら公転する。この時、遊星歯車Fは主ゼンマイを巻き上げる時とは逆方向に回転するため、固定されている歯車Eに対して歯車Bも巻き上げ時とは逆方向に回転する。よって、歯車Bの小窓Cから見えている歯車Eのディスクの色は、主ゼンマイがほどけるにしたがって、今度は黒から白へと変わっていき、完全にほどけると小窓Cからは歯車Eの白い部分のみが見えるようになる。
ポイントは、重なり合う2枚の歯車Eと歯車Bの歯数の違いによる2枚の歯車のズレが小窓Cから見えるディスクの色を増減させていき、主ゼンマイの巻き上げ残量を可視化するのだ。この歯車B、E、F(遊星歯車)は主ゼンマイのトルクで駆動しているのだが、主ゼンマイにほとんど負担はかからず、耐久性にも問題はないというのがメーカーの見解だ。ちなみに、歯車BとEは真鍮製、この2枚と同時に噛み合う遊星歯車Fはスティール製である。
このように、部品点数を少なくできるディスク表示式の利点を生かすことで、ノモスはムーブメントを薄く、そして、他のパワーリザーブ表示機構搭載機よりも高いコストパフォーマンスを発揮することができるのだ。