鬼才ローラン・ベッセが描くハイゼック、新章

2024.10.18

独創的な複雑時計と、エルゴノミックなベーシックコレクションを持つハイゼック。しかし、同社は基幹コレクションにも優れた自社製自動巻きムーブメントを載せるようになった。設計に携わったのはかのローラン・ベッセ。2018年からハイゼックのプロダクトに関わっていた彼は、定番モデルであるアイオーのシェイプはそのままに、時計としての完成度を大きく高めたのである。

Cal.HW3000

両方向巻き上げ式のマイクロローター自動巻きに、ダブルバレル、両持ちのフリースプラングテンプを持つCal.HW3000。モダンさを強調するためか、受けには筋目仕上げ、面取りが手作業で行われている。ネジもハイゼックオリジナルの高級仕様だ。ベースムーブメントに長けたベッセの作だから、信頼性は高いだろう。
吉江正倫:写真
Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]


自社製マイクロローター搭載ムーブメントの見せる未来

 ヨルグ・イゼックが創業したハイゼックは、現在ふたつのピラーを持っている。ひとつはイゼックの流れを汲んだエルゴノミックな時計。もうひとつは自社製のコンプリケーションだ。そんな同社の頭脳が、ローラン・ベッセである。ヴァンドーム グループ(現リシュモングループ)のエリック・クラインの下で研究開発部門を立ち上げ、後にコンセイユレイでゼニスのムーブメントを開発。ムーブメントメーカーのSTT(現ディミエ 1738)立て直し後、マニュエル・シュペーデとともに、レ・アルチザン・オルロジェを設立した。彼の才能は、関わってきたメーカーを見れば明らかだ。コルム、ハリー・ウィンストン、ツァイトヴィンケル、MB&F、ユニバーサル・ジュネーブ、レベリオンなど。これらのムーブメントの多くは、ベッセが手掛けたものだ。

ハイゼック「アイオー 41mm グランドクラシック」

ベッセの手で一新されたアイオー。太めのラグとベゼルがシャープになり、部品の噛み合わせが精密になった。また側面に細かい筋目が加えられた結果、今の高級時計らしい外装を備えるようになった。しかし、アイオーのアイコンであるユニークなインデックスは従来に同じだ。

 2018年に、ハイゼックはそんなベッセを招き、プロダクトの責任者に任命した。初めて開発したのは、スクエアの「フルティフ」。続いて彼は基幹コレクションを手直しし、21年には、まったく新しいベースムーブメントを加えた。

 Cal.HW2000は、マイクロローターを備えた自動巻き。自動巻きは両方向巻き上げ式で、テンプは緩急針を持たないフリースプラングだ。しかも、受けを地板に固定するネジは、オリジナルというかなりの高級仕様だ。現在ハイゼックは、自社製のコンプリケーションムーブメントと、ETA製のエボーシュ(またはその互換機)を併用して使っている。しかし、ベースムーブメントも自社製に舵を切り直したのである。同社の説明によると、開発期間は3年から4年というから、ベッセは就任して、このモデルの開発に取り組んできたというわけだ。

ハイゼック「アイオー 41mm グランドクラシック」

こちらはソプロード製のCal.A10.2(M100)を搭載する「アイオー 41mm グランドクラシック」。文字盤側の見た目は自社製のCal.HW3000を搭載するモデルとほぼ変わらないが、ムーブメントサイズが異なるため、Cal.A10.2搭載モデルは日付表示が文字盤の内側に寄っている。また、日付ディスクの色も文字盤と同色ではなく白だ。SSケース(ソプロード Cal.A10.2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径41mm)。3気圧防水。132万円(税込み)。

 このムーブメントが採用されたのは「アビス H」。これをベースとしたCal.HW3000が「アイオー 41mm グランドクラシック」に搭載された。これらの時計自体も、ローラン・ベッセが全面的に手直しをした。アラビア数字とバーを混在させたインデックスは従来と同じだが、ベゼルやラグが細身になり、文字盤の仕上げもツヤのあるラッカーに改められた。また、外装部品の噛み合わせが詰まり、細かい筋目仕上げが施された結果、明らかに高級感が高まった。そのモデルに、ハイゼックは新しいマイクロローター搭載ムーブメントを載せたのである。

 鬼才ローラン・ベッセをパートナーに選んだハイゼック。残念ながら彼は同社を離れてしまったが、ユニークで高品質な新型アイオーは、同社の新しい未来を予感させる大作だ。

ハイゼック「アイオー 41mm グランドクラシック」

ハイゼック「アイオー 41mm グランドクラシック」
自社製のCal.HW3000を搭載する「アイオー 41mm グランドクラシック」。他にもモジュールでクロノグラフ化したCal.HW3017を採用するモデルがある。良質な外装と完成度の高い自社製ムーブメントを組み合わせたハイゼックの大作。リュウズを回した感触も、高級機らしく緻密だ。自動巻き。2万8800振動/時。41石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41mm、厚さ11mm)。3気圧防水。300万円(税込み)。



Contact info: ミスズ Tel.03-3247-5585


剛健なる”エルゴノミッククロノ” ハイゼック「アビス」

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