独創的な複雑時計と、エルゴノミックなベーシックコレクションを持つハイゼック。しかし、同社は基幹コレクションにも優れた自社製自動巻きムーブメントを載せるようになった。設計に携わったのはかのローラン・ベッセ。2018年からハイゼックのプロダクトに関わっていた彼は、定番モデルであるアイオーのシェイプはそのままに、時計としての完成度を大きく高めたのである。
Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
自社製マイクロローター搭載ムーブメントの見せる未来
ヨルグ・イゼックが創業したハイゼックは、現在ふたつのピラーを持っている。ひとつはイゼックの流れを汲んだエルゴノミックな時計。もうひとつは自社製のコンプリケーションだ。そんな同社の頭脳が、ローラン・ベッセである。ヴァンドーム グループ(現リシュモングループ)のエリック・クラインの下で研究開発部門を立ち上げ、後にコンセイユレイでゼニスのムーブメントを開発。ムーブメントメーカーのSTT(現ディミエ 1738)立て直し後、マニュエル・シュペーデとともに、レ・アルチザン・オルロジェを設立した。彼の才能は、関わってきたメーカーを見れば明らかだ。コルム、ハリー・ウィンストン、ツァイトヴィンケル、MB&F、ユニバーサル・ジュネーブ、レベリオンなど。これらのムーブメントの多くは、ベッセが手掛けたものだ。
2018年に、ハイゼックはそんなベッセを招き、プロダクトの責任者に任命した。初めて開発したのは、スクエアの「フルティフ」。続いて彼は基幹コレクションを手直しし、21年には、まったく新しいベースムーブメントを加えた。
Cal.HW2000は、マイクロローターを備えた自動巻き。自動巻きは両方向巻き上げ式で、テンプは緩急針を持たないフリースプラングだ。しかも、受けを地板に固定するネジは、オリジナルというかなりの高級仕様だ。現在ハイゼックは、自社製のコンプリケーションムーブメントと、ETA製のエボーシュ(またはその互換機)を併用して使っている。しかし、ベースムーブメントも自社製に舵を切り直したのである。同社の説明によると、開発期間は3年から4年というから、ベッセは就任して、このモデルの開発に取り組んできたというわけだ。
このムーブメントが採用されたのは「アビス H」。これをベースとしたCal.HW3000が「アイオー 41mm グランドクラシック」に搭載された。これらの時計自体も、ローラン・ベッセが全面的に手直しをした。アラビア数字とバーを混在させたインデックスは従来と同じだが、ベゼルやラグが細身になり、文字盤の仕上げもツヤのあるラッカーに改められた。また、外装部品の噛み合わせが詰まり、細かい筋目仕上げが施された結果、明らかに高級感が高まった。そのモデルに、ハイゼックは新しいマイクロローター搭載ムーブメントを載せたのである。
鬼才ローラン・ベッセをパートナーに選んだハイゼック。残念ながら彼は同社を離れてしまったが、ユニークで高品質な新型アイオーは、同社の新しい未来を予感させる大作だ。
自社製のCal.HW3000を搭載する「アイオー 41mm グランドクラシック」。他にもモジュールでクロノグラフ化したCal.HW3017を採用するモデルがある。良質な外装と完成度の高い自社製ムーブメントを組み合わせたハイゼックの大作。リュウズを回した感触も、高級機らしく緻密だ。自動巻き。2万8800振動/時。41石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41mm、厚さ11mm)。3気圧防水。300万円(税込み)。