若者の時計離れが叫ばれて久しい中、面白い集いをツイッターで知った。構成年齢は25歳以下という、CWYEという集いだ。時計好きなら誰でも歓迎というスタンスは、極めてまっとうだし、彼らの持っている時計も、かなり良いものばかりだ。なぜ彼らは時計を核に、集おうと思ったのだろうか?

CWYE

CWYE
25歳以下の時計好きで構成される会が、CWYEである。意味は“Community aboutWatches by Young Enthusiasts”。会費はなし、主な活動拠点はツイッター、情報共有はラインのグループと、インターネットを核に据えたつながりに特徴がある。今までに2回、会報誌を発刊している。学生の自主製作と思いきや、そのレベルはかなり高い。なお、CWYEは常時会員を募集中。年齢は25歳以下、時計好きであれば誰でも歓迎とのこと。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2018年3月号掲載記事]


「腕時計はあくまで大人の趣味。でも若い人たちでも楽しめるんだと知らせたかった」

オーデマ ピゲ「オフショア ダイバー」、ゼニス「クロノマスター エル・プリメロ オープン」、ロレックス「エクスプローラーⅡ」、ジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド」

バー・サンボアに集ったメンバーとその時計たち。左から、委員長であるOさんのオーデマ ピゲ「オフショア ダイバー」、広報部長であるTさんのゼニス「クロノマスター エル・プリメロ オープン」、副委員長であるKさんのロレックス「エクスプローラーⅡ」、そしてYさんのジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド」。彼らの選択眼が光る。4人の欲しい時計は、リシャール・ミルのRM 016(Oさん)、ヴァシュロン・コンスタンタンのワールドタイム(Tさん)、A.ランゲ&ゾーネのランゲ1(Kさん)。A.ランゲ&ゾーネ(Yさん)。

 若い時計愛好家たちのグループ、CWYE。創設したのは、関西の学生たちであるらしい。ぜひ取材に伺いたいと伝えたところ、大阪・梅田にあるバー・サンボアに来てください、と連絡を受けた。居酒屋に集まるのかと思っていたところ、今年100年を迎える老舗バーでのお出迎えだ。どんな人たちなのかと想像していたら、定刻通りに、身なりのしっかりした4人が姿を現した。受け答えも、筆者よりよほどちゃんとしている。CWYE創設の経緯を話してくれたのは、副委員長を務めるKさんだった。

「委員長を務めるOさんとは、たまたま大学が同じだったんです。僕が持っている時計をインターネット経由で売り、彼が買ったことを知った」。やがてツイッターで知り合った彼らは、2015年の8月、実際に会うこととなった。これが若い時計愛好家団体、CWYE設立のきっかけである。ちなみに現在、この団体の会員数は95名。時計好きの団体としてはかなりの規模だ。そのうち5名が女性で、社会人も3割、最も若い会員は中学2年生というから、メンバーの幅はかなり広い。

「時計って、大人の趣味とされていますよね。でも若い人たちでも楽しめることを知らせたかった」。そう語るのは、広報部長を務めるTさんだ。彼もOさんやKさん同様、大学生である。

ロレックス「エクスプローラーⅡ」、オリエント「グランプリ100 スイマー」、ラドー「ダイヤスター」

副委員長のKさんは、時計店でバイトするほどの時計好き。その時計はかなり好事家っぽい。上から時計回りに、ロレックス「エクスプローラーⅡ」、オリエント「グランプリ100 スイマー」、そしてラドー「ダイヤスター」が2本だ。ロレックスのRef.16570は現在、彼の常用時計。「サイズ感と剛性感のバランスがちょうどいい。新型はサイズ感が好きになれないし、旧型は剛性感がなく、デイリーユースには気を遣う」。オリエントとラドーは「同じ時計を持ちたくないため。そして、オリエントはクレイジーで独自性があるから」と言う。

 それぞれ、時計好きになったきっかけが面白い。委員長のOさんは、映画『デスノート』がきっかけだったと語る。「主演の藤原竜也が着けていたシチズン『オルタナ』を見て、腕時計に魅せられました」。副委員長のKさんは、時計好きが高じて、19歳から百貨店の時計売り場に立っていたという。曰く「時計を売ったお金で、また時計を買うわけです」。Tさんはたまたま見たハミルトンが、時計の入り口になったとのこと。後に彼はオリエントの機械式時計を買い、時計の世界にのめり込むようになった。中学生の頃から時計が好きだった、と語るのはYさんだ。「高校3年生の時に、オリエントの機械式時計を買いました」。

 彼ら4人は皆、いわゆる良い時計を持っている。しかし学生故に、金策はかなり大変なようだ。Yさんは「時計が好きになった結果、バイトが増えました。週に4日は働いてますよ」。ウブロやオーデマ ピゲを持つOさんは、実家がかなり裕福だが、持っている時計とは関係ない、時計の売り買いでお金を回している、と漏らした。「今のコレクションに至るには5年かかりました」という。金策ではなく、別の意味で困っているのはTさんだ。「CWYEに入って人生が変わりましたね。というのも、翌日試験なのに呼び出されるんです。結果、留年しましたよ」。そんなTさんは「ローンがなければとても時計は買えなかった」と語る。

ロレックス「デイトナ」Ref.116520、ウブロ「ビッグ・バン ウニコ」、ブルガリ「ディアゴノ カリブロ303」

モンクレールのダウンを着て現れたのが、委員長のOさんだ。時計以外にも多くの趣味を持つ彼は、いわゆる王道の時計を好む。「仕上げが良くてアピールできる時計が好きですね」。左からロレックス「デイトナ」Ref.116520、ウブロ「ビッグ・バン ウニコ」、そしてブルガリ「ディアゴノ カリブロ303」。卓上に並べられたカリブロを見て、Tさんが「フレデリック・ピゲ入りはやっぱりいいですね」と嘆息した。そう、このモデルはフレデリック・ピゲの大傑作1185を搭載する。一見、ムーブメントに興味のなさそうな彼らだが、生半可な愛好家以上に知識を持っている。

 しかし、彼らはなぜかくも時計に魅せられたのか。確かに筆者も学生時代に時計を集めていたが、彼らほどの情熱は持っていなかったように思う。「時計は趣味ものの頂点ですから」と語ったのはOさんだ。まったく同感である。お金と知識はあるに越したことはないが、なくても楽しめるのが時計趣味だと筆者も思っている。Kさんはこう語った。「時計は何かを追求するきっかけですね。突き詰めると、ほかの持ち物も良くなるんです。もし時計に出会わなかったら、服や靴に凝ったかもしれませんが」。もっとも彼は、学生にもかかわらず老舗のバー・サンボアに来るような人物だ。凝る対象を時計に見出したのかもしれない。

 4人が持ち寄った時計を見ると、趣味の違いには驚かされる。ウブロ「ビッグ・バン」やロレックス「デイトナ」を愛用するOさん、エル・プリメロのシリコン製脱進機に関心を示すTさん、通好みのレベルソやオールドインターを持ち寄ったYさん、そして理論派のKさんはラドーの「ダイヤスター」やオリエントの「グランプリ100 スイマー」などを持ってきた。彼ら曰く、東京のメンバーには、ブレゲの「マリーン」を所有する人もいるらしい。

オメガ「シーマスター 300 コマンダー」、ブライトリング「アヴェンジャーⅡ GMT」、タグ・ホイヤー「カレラ ホイヤー01」

将来はウォッチメーカーになりたいと語る、広報部長のTさん。持ってきた時計は、左上からオメガ「シーマスター 300 コマンダー」、ブライトリング「アヴェンジャーⅡ GMT」、そしてチタンケースのタグ・ホイヤー「カレラ ホイヤー01」。シーマスターはわざわざ、オリジナルのNATOストラップから、「シーマスター150」のSSブレスに交換してある。ホイヤーの01も、やはり日本未入荷モデルのホワイトラバーに換装済みだ。ちなみに、冒頭に掲載したゼニスを買った理由は「脱進機がシリコン製パーツになったため」。見て、その場で購入を決意したという。

 普通、これだけ嗜好が異なると、まず話は合わないはずだ。しかし彼らは、取材中も好きな時計についてめいめい語っている。理由は、他人の趣味を否定したり、価値観を押し付けたりする人たちは入会させないし、退会処分にするからだという。値段やブランドにこだわらず、好きな時計を誇れる会にしたい、という彼らの願いは、若さ故かもしれないが、極めて純粋だ。創設から3年弱にして、会員数は約100名。順風満帆とも言えるCWYEだが、今後、会をどのように運営するのか。現在、この会に参加できる年齢の上限は25歳だ。数年後に、ここにいる4人は会員資格を失うのではないか。

「U28まで引き上げるなど、将来も続くよう考えています。ただ、30歳になったらボーナスで高級時計は買えるし、40歳になると価値観が変わって、時計以外に目が向くかもしれません」。なるほど、彼らはあくまでも冷静なのだ。

 驚くような高級時計が並ぶ、CWYEの会合。しかし彼らが強調したように、この会は、年齢が25歳以下で、時計好きならば誰でもウェルカムなのである。人の持ち物をけなさないという彼ら4人のスタンスを見る限り、どんな時計を持っている人でも、歓迎されるに違いない。Yさんもこう語った。「私も昔はオリエントしか持ってなかったんです。でも、ウブロの隣に並べて写真を撮ってましたよ」。

オールドインター

Yさんが持ってきたのは、冒頭で紹介したレベルソと、Cal.853を搭載した通称「オールドインター」のSS×GPモデルである。ちなみに、この時計は長らく某店に在庫されていた個体。筆者も狙っていたが、買ったのがYさんだったとは。曰く「見た目がシンプルなので購入しました」。

撮影協力

バー・サンボア ヒルトンプラザ イースト店
住所:大阪府大阪市北区梅田1-8-16 ヒルトンプラザB2
電話:06-6347-7417
営業時間:11:00~23:00(L.O.22:30)


時計愛好家の生活 K.K.さん「リシャール・ミルの時計は空間の演出が抜群なのです」

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時計愛好家の生活 M.T.さん「国産アンティークの箱はほとんど集めたと思いますね」

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時計愛好家の生活 T.R.さん「2〜3年前、独立時計師の菊野昌宏さんを偶然テレビで見たんです」

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