2024年3月、麻布台ヒルズに開業したホテル「ジャヌ東京」内の炭火焼ダイニング「SUMI」。炭を多彩な技法で巧みに用いた料理の数々で、訪れたゲストを魅了している。
13品から成るおまかせコース「燈」の中で、お凌ぎ(おしのぎ)として供される秋らしい一品。お米は、麻布台ヒルズ マーケットにも出店する創業100年以上の米殻専門店「隅田屋」の古式精米製法によるコシヒカリとひとめぼれを使用。鮭のアラでとったスープに鰹の一番出汁を合わせ、雲井窯の中川一辺陶氏による土鍋で炊き上げている。11月9日まで提供予定。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
「炭」から生まれる人と食のつながり
1975年、東京都生まれ。インターコンチネンタル 東京ベイの「なだ万」やパーク ハイアット 東京の「梢」などで研鑽を積む。日本料理一筋で、10年以上にわたり亀有の「吟八亭 やざ和」で学ぶほど蕎麦にも妥協がない。2024年に開業したジャヌ東京「SUMI」料理長に就任。
ラグジュアリーホスピタリティのパイオニアであり、世界中で愛されるライフスタイルブランド「アマン」。その姉妹ブランド「ジャヌ」の世界初のホテルである「ジャヌ東京」が、麻布台ヒルズに開業した。近年開業したホテルには珍しく8つものレストラン&バーを備える充実ぶり。いずれも魅力的でどちらを訪れようか何とも悩ましいところだが……。
「SUMI」は、ジャヌ東京の中で唯一別棟に店を構える。コの字型に並ぶカウンターの中央に焼き台が鎮座し、ホテルの日本料理店での経験豊富な大塚久輝氏が腕を振るう。会席料理をベースに、伝統的な炭火焼きを独自の解釈で取り入れたおまかせコースを展開。
「炭は、宮崎県の日向備長炭。デザートに至るまでほとんどの料理に炭を使用するため、深さのある焼き台では3つの温度帯になるよう炭を組んでいます」と大塚氏。吟味して選び抜いた旬の食材を披露し、炭をはじめ、藁、薪、桜のチップなどで最適な火入れや香りづけを行い、雅な一皿に仕立てる。調理工程は鮮やかなパフォーマンスとなり、躍動感に満ちた舞台のようだ。コース全体に炭を使うことで、緩急ある品々が心地よく統一された印象となる。
コース中盤で登場する今秋のお凌ぎ(おしのぎ)は「鮭釡炊きご飯 いくら 柚子」。まるで締めの食事のような贅沢さだ。鮭を炭火で焼くことはたやすく想像できるが、それだけに留まらない。芯から真っ赤に燃える高温の炭を土鍋に投入し、炭の香りを移していく。鮭から取り出したすじこは控えめな味わいのいくらに仕立て、ひとつの素材を余すところなく料理に。土鍋から掌ほどの量ずつ取り分けられるのだが、季節を凝縮した優しい風味の中に力強さが宿っている。
ホテルでは珍しい一斉スタートのスタイルをとっているため、ゲスト同士の一体感もこちらならでは。「つながり」「インスピレーション」「探究心」というジャヌのコンセプトは、レストランにおいても具現化されている。「一瞬にして人を笑顔にすることができる食の世界に魅了され、この道を志しました」と語る大塚氏の言葉の通り、「SUMI」のカウンターに座れば、炭を繊細に使い分ける技に釘付けとなり、炭の香りが豊かに漂う料理を口にすれば、度々顔がほころんでしまう。
SUMI
東京都港区麻布台1-2-2 ジャヌ東京 別棟3F
Tel.050-1809-5550
(レストラン予約受付9:00~21:00)無休
18:00~、20:30~の2部制
2万9000円(サービス料込み)