「ロンジン レジェンドダイバー」を着用レビュー。時計ジャーナリストが「理想形に達した」と称する理由とは?

2024.10.29

30年以上にわたって時計業界を取材してきたジャーナリストの菅原茂氏が、2024年新作の「ロンジン レジェンドダイバー」をインプレッションする。2007年に同コレクションが誕生してから17年。菅原氏は本作を、「理想形に達した」と評価する。

ロンジン レジェンドダイバー

Photograph by Shigeru Sugawara
「ダイバー」と名乗る時計だが、着用シーンはもっぱらタウンだろう。ヴィンテージルックの時計にスポーティカジュアルのファッションとニュアンスカラーのレザーバッグを合わせてみた。いい感じに決まったと思うが、いかがだろうか。
菅原茂:文
Text by Shigeru Sugawara
[2024年10月29日公開記事]


「ロンジン レジェンドダイバー」を振り返る

「ロンジン レジェンドダイバー」、初めて見たのはいつだったろうか。長年通っていたスイスの「バーゼルワールド」では、時々見かけたが、バリエーション豊富なモデルを展開する主役級コレクションの背後で、いつも控え目に、だが存在感はしっかり主張する、そんなキャラ立ちの時計として記憶に残っていた。自社の歴史と遺産を大切にし、膨大なミュージアムピースを保有するロンジンは、アーカイブからインスパイアされた現代版復刻モデルにも力を入れてきたが、「ロンジン レジェンドダイバー」もそのひとつだ。あらためてオリジナルモデルと復刻の時期を調べてみた。初めて登場したのが1959年だから今年は65周年。復刻モデルは2007年に登場し、17年目になる。


復刻から17年。筆者が「理想形に達した」と称する理由は?

ロンジン レジェンドダイバー

ロンジン「ロンジン レジェンドダイバー」Ref.l3.764.4.06.6
自動巻き(Cal.L888)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.70mm)。300m防水。52万6900円(税込み)。

 2024年の最新モデルは、これまでの何回かの復刻モデルの中で最高の出来栄えではあるまいか。とにかく個人的に好きなモデルが17年をかけて理想形に達した気がしたのだ。それはこんな理由から。

 理由その1。ノンデイト仕様。1959年のオリジナル、そして2007年に復刻された最初期のモデルと同様のノンデイトとは、よくやってくれました。スウォッチ グループにおいてETAの一般的な自動巻きムーブメントを搭載するモデルは、昔から日付表示付きが「お約束」だった。思い返せば、かつてのスウォッチ グループの重鎮にしてロンジンの総帥フォン・カネルさんは、「日付付きに限る」と言って譲らなかったほどだ。日付表示が便利なのは分かるが、ヴィンテージスタイルのオリジナルデザインを尊重する復刻の場合は、自分にはやっぱりノンデイトのほうがしっくりくると思っているため、今回の決断は快挙と呼びたい。

「ロンジン レジェンド ダイバー」のオリジナルとなった「Ref.7042」。1959年の誕生当時から120m防水を備えていた。このスペックを実現したのは、スイスのケースメーカーであるエルヴィン・ピケレが開発したスーパーコンプレッサーケースだ。

 理由その2。ETAベースのロンジン特製ムーブメントCal.L888は、グループならではの技術シナジーを生かし、モノクリスタルシリコン製ヒゲゼンマイ搭載、耐磁、約72時間パワーリザーブと、以前よりスペックが格段に向上していて、デイリーユースには申し分のない実用性が備わっている点だ。こんな仕様はもはや喧伝するまでもなく、グループのブランドではもう革新から標準へとなっているのだから、時代は変わったと驚くばかり。ちなみに借用した期間に日差やパワーリザーブを毎日詳しく測ることまではしなかったが、最初に完全巻き上げにしてから、外出時やデスクワークの際に着けて3日以上が経過しても、時計は正確に動いていた。ローターの振動や回転音もほとんど感じない静粛性も良かった。

 理由その3。程よくコンパクトで腕馴染みのよい39mmのケース。同コレクションには多様なニーズに応える42mmや36mmのレギュラーモデルも存在するが、自分にとっては大きすぎず小さすぎない39mmがジャストサイズだ。長年のトライ&エラーの経験から、自分が着ける時計のケースサイズは最大でも40mmと決めているので、個人的な基準にもすんなりパスした。また、今回のモデルはステンレススティールのブレスレット仕様なので、その分の重さは加わるにしても、時計全体としては思ったほど重量感はなく、ウォーキングの際にも気楽に着けて楽しめたのが良かった。

ロンジン レジェンドダイバー

ケースのサイズは直径39mm、厚さ12.70mm。全長は47mmで、重量はコマをひとつも外さなかった場合、145.2gである。ケースバックはねじ込み式となっており、潜水士のレリーフがあしらわれている。

 理由その4。スタイリッシュかつ見やすい。借用したモデルのダイアルはラッカー仕上げのグリーンだ。新作のダイアルには、ほかにもテラコッタやブルー、ブラック、グレーといったカラーバリエーションがあるが、ロンジンの展示会で見た時に、真っ先に目に留まったのがグリーンモデルだった。グリーンは一過性のトレンドカラーというより、今やレギュラーカラーと呼んでもよさそうなほど定着してきた。そのグリーンが「ロンジン レジェンドダイバー」に良く似合い、独特のデザインを新鮮に引き立てていたのが印象的だった。ヴィンテージルックをスタイリッシュに見せるカラーマジックの点では、グリーンは定番的なブラックやブルーを上回ると思う。色に主張があり、ファッションセンスの点でも特別感があるからだ。そもそも300m防水であっても、ダイビングではなく、あくまでもタウンユースの日常的な時計ならば、オシャレに見えることが不可欠だろう。そしてまた、ケース径ぎりぎりまで広がるフェイスを占めるダイアル本体とインナーベゼルは、落ち着いた色調のグリーンにスイススーパールミノヴァを塗布した数字やインデックス、針などがくっきりと映え、自然光や室内はもちろん、暗がりでも視認性は非常に良好だった。

 理由その5。価格を超える価格。日本はともかく、欧米の物価水準でいえば、52万6900円という価格は、ミドルレンジの比較的近づきやすいプライスゾーンに入るはず。以前ロンジンのスイス人スタッフと話した時に「グループの各ブランドは、それぞれのプライスゾーンで常に最高のパフォーマンスとクォリティを追求する」といった意味の話を聞いたことがあったが、「ロンジン レジェンドダイバー」の2024年モデルはそうした姿勢を体現するモデルに違いない。「欲しくなるか」と問われれば、もちろんイエス。このインプレッションを見て気になった愛好家の皆さん、試してみる価値アリかもです。

Photograph by Shigeru Sugawara
ロンジンの歴史を語る海のレジェンドと空のレジェンド「ウィームス」を並べてみた。戦前のオリジナルに忠実なノンデイトの「ウィームス」復刻モデルのほうが好みだが、1990年代の3000本限定復刻モデルは、レトロな雰囲気は上々だが、戦前にはなかったデイト表示を加えたところが玉にキズ。



Contact info: ロンジン Tel.03-6254-7350



菅原茂氏のプロフィール

菅原茂

1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。休日はランニングと登山に精を出す。


ロンジン 39mm径に込めたオリジナルダイバーズへのリスペクト

FEATURES

愛好家に“刺さる”時計の作り手、その名はロンジン

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ロンジン中興の祖 ウォルター・フォン・カネル