高所登山家、ラインホルト・メスナー氏の80歳の誕生日を記念し、モンブランは限定モデルを発表した。ゼロ・オキシジェン技術による過酷な環境下での安定性、南極の赤い氷河をモチーフとした独創的な文字盤、そして精緻な自社製ムーブメントを搭載する、他とは一線を画すモデルである。メスナー氏が成し遂げた数々の偉業と挑戦者としての精神をたたえたこのモデルは、世界限定290本でリリースされている。
ラインホルト・メスナー氏への敬意を込めて誕生した腕時計だ。深紅の文字盤が氷河の神秘を表現している。自動巻き(Cal.MB 29.27)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。Tiケース(直径44mm、厚さ17.1mm)。10気圧防水。世界限定290本。143万1100円(税込み)。
text by Sabine Zwettler
Edited by Takashi Tsuchida
[2024年10月30日公開記事]
人類の限界に挑み続けた不屈の冒険者
1944年、イタリア北部の南チロル山岳地域に生まれたラインホルト・メスナー氏は、高所登山家として世界的な評価を確立している。その功績により、現代のエクストリームアルパインスポーツに多大な影響を及ぼし、今もなお多くの後進たちを刺激し続けている。
メスナー氏は、世界初となる8000m級の14座すべての登頂を達成。セブンサミッツ(七大陸最高峰)への登頂ルートはメスナー・リストとして登山史に刻まれている。ペーター・ハーベラー氏とともに成し遂げた酸素供給がない中でのエベレスト登頂は世界初の快挙だ。さらには酸素供給なし、支援なしでの単独エベレスト登頂という偉業も世界で初めて成功させている。その他にも、南極大陸のスキー横断、グリーンランドの徒歩横断、ゴビ砂漠の単独徒歩横断など、輝かしい成果が並ぶ。
冒険者をたたえたモンブランの限定モデル
こうした極限への挑戦に捧げた彼の人生をたたえるべく、モンブランは80歳の誕生日を記念して「1858 ジオスフェール クロノグラフ ゼロ オキシジェン リミテッドエディション 290」を発表した。290本という限定生産数には意味が込められており、これはメスナー氏が幾度となく登頂した世界最高峰エベレストの標高2万9031フィートに由来する。
永久の氷河が織りなす深紅の時空間
44mm径のケースには、磨き上げられたチタン材を採用。チタン素材は、軽量性が求められる登山装備において、特に好まれる素材である。また基本方位が刻まれたサテン仕上げのブラックセラミックベゼルは、両方向に回転する設計だ。
氷河模様が施された文字盤は、鮮烈な赤色で彩られている。これは何千年もの時間をかけて複雑な網目状に凍結、結晶化した南極の赤い氷をイメージしたものだ。表面処理には、グラッテボワゼと呼ばれる特殊な手作業技法が用いられ、通常の4倍もの時間をかけて丁寧に仕上げられている。さらに陰影と色彩が緩やかに溶け合うイタリア古来の技法スフマートを採用、繊細にぼかされた輪郭が表現され、高所から遠くの山々を眺めた際の視覚効果を巧みに再現する。
ブラックロジウムコーティングが施された、アラビア数字およびバーインデックスには、ホワイトカラーの蓄光塗料で塗られている。また、ルテニウムコーティングが施された時分針も同様であり、あらゆる環境下での視認性を確保している。暗闇でブルーに浮かび上がる表情もまた魅力的だ。
極限の頂きで研ぎ澄まされた技術革新
本モデルは、ムーブメントを窒素環境下でケースに組み入れ、ケース内から酸素を排除した革新的な手法が用いられている。これにより急激な温度変化によって生じる風防内部の曇りを防ぎ、内部の金属部品の酸化や潤滑油の劣化も抑制する。酸素のない環境では、すべての部品の寿命が延び、安定した精度を維持できるのだ。また、この目に見えないテクノロジーを証明する酸素ゼロの証明書が、各タイムピースに添付される。
また、このモデルではマイナス50度という極限環境下でも完璧に機能する特殊潤滑油を用いている。ムーブメントの精度は、特に極端な温度下では各部品の潤滑状態が重要となるが、この特殊な潤滑油により、あらゆる条件下で確かな性能を発揮する。
世界の時を優美に操る精緻なる心臓部
その内部には、ワールドタイム機構搭載の自社製自動巻きムーブメント、Cal.MB 29.27が組み込まれている。ムーブメントは266個の部品から構成され、約46時間のパワーリザーブを確保。プレートにはロジウムメッキが施され、サーキュラーグレイン仕上げ、ブリッジにはロジウムメッキにサーキュラーグレインとサテン仕上げ、輪列にはゴールドメッキ加工が施されている。
クロノグラフ機能としては、センターにクロノグラフ針、3時位置の30分積算計、9時位置に12時間積算計を備え、2時位置にスタート/ストップ、4時位置にリセットプッシャーを配置している。さらに回転する北半球・南半球によるワールドタイム表示(グリニッジ子午線表示付き)、24時間スケール、昼夜表示、日付表示など、多彩な機能を備えている。
伝説の登頂が刻んだ永遠の記憶
チタン製ケースバックには、K2の姿が深い色彩で刻まれている。このデザインは、メスナー氏が1979年の初登頂時に山頂で撮影した写真を具現化したものだ。14座の中で最も美しいとメスナー氏がたたえるK2の、その記念すべき日は天候に恵まれ、200km先まで見渡すことができた。メスナー氏はしばらくその場にたたずみ、息を飲むほどの景色を楽しんだ後、下山前にこの瞬間をカメラに収めたという。
まさに感動的な一瞬が、モンブランの最新のレーザー彫刻技術により、ケースバックに永遠にとどめられたのである。オリジナル写真の持つ臨場感は、複雑なレーザー生成酸化プロセスによる三次元的な浮き彫りで表現され、マットな部分と光沢のある部分で絶妙なコントラストを生み出している。