2024年10月25日、フォーシーズンズホテル大阪にオープンした「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」は、モダンフレンチの巨匠であるヤニック・アレノ氏が監修するレストランだ。今回、フードジャーナリストであり、『クロノス日本版』巻頭コラム「この世ならぬ美味のクリエイター」を連載する外川ゆいが、この巨匠を取材する。コース終了後、ゲストが拍手喝采したという料理の数々はもちろん、webChronos読者向けにアレノ氏が見せてくれた、愛用の腕時計も必見だ。
Photographs & Text by Yui Togawa
[2024年11月★日公開記事]
モダンフレンチの巨匠、ヤニック・アレノ氏を取材
2024年10月25日、フォーシーズンズホテル大阪に世界の食通たちが注目するレストラン「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」が誕生した。世界的スターシェフであるヤニック・アレノ氏によるイノベーション鮨レストラン「ラビス」は、すでにフランスのパリ、モナコのモンテカルロで愛されており、日本初出店となるこちらは3店舗目となる。フランス料理と鮨という異なる食文化がひとつとなったレストランではどのような食体験が待っているのか? さらに、アレノ氏が仕事中に愛用する腕時計についても聞いた。
フランス料理を極めるアレノ氏にとっての“鮨”とは?
フランス国内にミシュラン三つ星レストランを2軒同時に持つ、唯一の存在であるヤニック・アレノ氏。現在世界に18店舗のレストランを展開しているが、イノベーション鮨レストランである「ラビス」は、パリ、モンテカルロに続き、大阪で3店舗目となる。なぜ世界的フランス料理のスターシェフが、これほどまで鮨に魅了されるのだろうか。
アレノ氏が初めて鮨と出会ったのは、20歳の時だと振り返る。「非常に繊細で、他の料理とは全く違うという印象を受けました。心に刺さるものがあり、初めて出会った瞬間にインスピレーションを受けたのです。そして、私には絶対できないとも感じましたので、鮨職人にはとても敬意を持っています。その中で、私の知識やエッセンスを少し加えて『ラビス』でしか食べることができないお鮨を作ろうとしています。ほんのわずかな小さなエッセンスなのですが、それによって楽しませ方が変わると信じているので。『ラビス』は3店舗ありますので、それぞれの料理人の個性を尊重し、生かしています。つまり、それぞれの『ラビス』でしか味わうことができないものが存在します。ゲストの期待値を超えるようなことをしたいと考えています」。そう語ってくれた言葉は「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」を訪れると体感することができる。
鮨とフランス料理、異なる文化の饗宴
実に幸運なことに「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」の開業日にカウンター席に座らせていただく機会を得た。オープン前には、華やかなオープニングレセプションやテープカットなども行われ、店内に入るまでに十分過ぎるほど心が躍り、期待が高まった。
凛とした檜のカウンターは一流の鮨屋ならではの雰囲気を醸し出しているが、いわゆる鮨屋とは違うのは、店内を飾るアートピースの数々の存在だ。珊瑚をモチーフにした壁画やゴージャスなファブリックなど、パリやモンテカルロの店舗と同じ作品が配されている。それらは、アレノ氏の妻であり、著名な舞台美術家であるローランス・ボネル=アレノ氏が手掛けたもの。その和と洋が共存しながら自然と溶け合う空間は、まさに「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」の自由な感性でもてなされる料理の数々と重なるようだ。
おまかせコースは、前菜、握り鮨、デザートの3部構成で展開される。~エモーション~と題された前菜の最初のひと皿は、小さなブーケのようなビジュアルの「エンダイブとトレビスのサラダ」。ひと口頬張る度に「ラビス」の世界観へと手を引かれるような感覚を覚える。前菜は他に「アーティチョークの豆腐」「牡蠣、おごのり、米のクリーム」など、フランス料理の中にも和のテイストが随所に感じられ、握り鮨へと違和感なく進んでいく流れはさすが。
前菜を終えると、メインとなる握り鮨が始まる。大阪への出店にあたり、アレノ氏がタッグを組んだのは、安田至(やすだいたる)氏。東京・目黒の八芳園で研鑽を積み、料理長を務め、海外の鮨屋でヘッドシェフとして働いた経験もある腕の持ち主だ。安田氏は「シンガポールで働いたことで、料理において自由であることの楽しさを知りました。その経験が今回の『ラビス』につながっています」と語っていたのが印象的だった。握り鮨の御品書は、ひとりひとりに手渡され贈られる小さな紙にフランス語で記されている。何の魚拓なのか? ぜひ尋ねていただきたい。
艶やかな赤身の握りは王道の姿だが、直前に目の前で削った細やかな鰹節を忍ばせている。奇をてらうわけではない、味わいを追求したさりげないひと手間が、思わず息を呑むような味わいに。平目や鯵をはじめとする握りの数々や、目の前の小さな七輪で炙った牡丹海老を海苔で巻いて手渡しする一品などを、しっとり寄り添って引き立ててくれるお酒とともに味わった。優しくまろやかな酢飯が非常に特徴的だったので尋ねると、玄米酢で仕立てていると教えてくれた。
いよいよ最後の握りとなった時。安田氏が立派な鮪の柵をお披露目し、包丁を入れた。続いて、ヤニックアレノグループ総料理長である廻神大地(めぐりかみたいち)氏が、薄く切り出された鮪に揚げたエシャロットと生の生姜を混ぜたものを挟むと、安田氏が握る。そして、仕上げにアレノ氏が削った白トリュフを惜しげもなくトッピングした。
釘付けになる映画のワンシーンのような光景もさることながら、その1貫を口にすると期待を上回る味わいに、鮨の素晴らしさを再認識させられた。白トリュフを脇役にしてしまうような鮪の豊かな風味と、一体感に一役買うエシャロットと生姜……。考えつくされた組み合わせの妙こそ「ラビス」の握り鮨なのだろう(内容は季節とともに移りゆく食材によって変わる)。
握り鮨を終えたところで、デザートへ向けてのお口直しとして「大地と海のコンソメ・スープ」が供され、身体に染み入るような温かなスープで一呼吸。デザートは甘味(Amami)と題され、こちらも驚きや発見の詰まった4品でゲストの心をくすぐる。「イチゴの砂糖窯焼き、ウイキョウ」や「紫蘇の天麩羅」などなかなかお目にかかれない味わいが待っている。パリから持ってきたというカトラリーも興味深かった。最後に登場した「海藻のパイ、ジャスミン・クリーム」が置かれた器の中に入った水出しのコーヒーは、前日から驚くほどじっくりと時間を掛けて抽出したものだ。コースを終えると、思わずゲスト全員が拍手喝采。オープニングの夜という特別感は勿論だが、「ラビス」ならではの料理の数々と、食を通して心が躍ったことへの拍手のように感じた。
ヤニック・アレノ氏が愛用する腕時計は、ウブロの限定モデル
1968年、フランス・ピュトー生まれ。1986年に料理の道へ進み、2001年にフランス農事功労賞を受賞。2003年、パリを代表する老舗ホテルの「ル・ムーリス」総料理長に就任、翌年には二つ星を獲得。2007年には、若干40歳の若さで三つ星の栄誉を得る。同年にはフランス国家功労勲章、芸術文化勲章も受章。2014年にはパヴィヨン・ルドワイヤン内に自身の名を冠した「アレノ・パリ」を開き、翌年三つ星を獲得して以来その地位を保っている。一つ星の「パヴィヨン」、二つ星の「ラビス」を持つほか、フランス東部で「ル 1947」のシェフも務め、2017年に三つ星。モナコ、ドバイ、中国、香港、韓国など全世界に18店舗を展開している。
記憶に刻まれるディナーに酔いしれた翌朝、アレノ氏に愛用する腕時計の話を尋ねた。今回もパリから一緒に旅をしてきたこちらは、ウブロ「ビッグ・バン トゥールビヨン パワーリザーブ 5デイズ」。2年前に購入した限定品だ。「仕事をしながら着けていられる時計は意外に少ないのですが、こちらはすごく丈夫なので気兼ねなく使うことができる点が気に入っています」と語る、まさに相棒のような存在だ。
アレノ氏は20本ほど時計をコレクションしているという。「夏になると、青のウブロを着けたりします」。そして、最近ではダイヤモンド付きのウブロを贈ったという話も。「息子が初めてパパになったので、息子の妻に腕時計を贈りました。彼女のおかげでこのうえない宝物が生まれたことへの感謝を込めて……」。若い頃から憧れていたというウブロは、現在ではアレノ氏と家族の人生をともに歩む存在となっている。
店舗概要
店舗名:Sushi L’Abysse Osaka Yannick Alléno (鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ)
住所:大阪府大阪市北区堂島2-4-32
TEL:06-6676-8591
営業時間:12時~15時、18時~21時
金額:おまかせコース ランチ2万円、ディナー3万5000円
公式サイト:https://www.fourseasons.com/jp/osaka/dining
外川ゆい氏のプロフィール
フードジャーナリスト。つくり手のストーリーや思いを伝えることを信条に、レストラン、ホテル、スイーツ、お酒など、食にまつわる記事を執筆する。『クロノス日本版』巻頭連載IN THE LIFEにて「この世ならぬ美味のクリエイター」を担当。