スモールメゾンの複雑時計は不況に強い!? 二次市場で安定した価格を維持する腕時計とは

2024.11.21

鈍化しつつある時計市場。長期にわたって資産価値のある腕時計を選ぶためにはどうすればよいのだろうか? 解決のためのひとつの鍵が、スモールメゾンの腕時計だ。ボナムズ香港時計部門ディレクターを務めるシャロン・チャンが、2024年11月29日に開催されるオークションに出品される腕時計を例に挙げ解説する。

シャロン・チャン(ボナムズ香港):文
Text by Sharon Chan(Bonhams Hong Kong)
[2024年11月X日掲載記事]


時計市場低迷の中、スモールメゾンの強さ

 香港の時計市場が鈍化する中、コレクターの多くは、中古時計市場に対して様子見の姿勢を取っている。しかしながら、過去2年間、スモールメゾンの作品の落札価格は比較的安定して推移しており、市場やバイヤーから注目を集めている。

 なぜ価格が安定し続けているのか、当初はかなり戸惑っていた。だが、その理由が少しずつ明確になってきたように思える。筆者は時計オークションのマネージャーであるだけでなく、コレクターでもある。そのコレクションの数は多くはないものの、ロレックスやパネライといった主流ブランドから、F.P.ジュルヌやリシャール・ミルなどのスモールメゾンまで対象は多岐にわたる。

 奇妙なことに、私がヴィンテージのロレックスを着用していても、まわりの人間はこの趣味を理解はしてくれない。しかしながら、リシャール・ミルやF.P.ジュルヌを腕に着けていると、腕時計に気付き、話しかけるひとがひとりかふたりはいるのだ。

 少し前に、あるメディアから「自分のコレクションから、ひとつだけ腕時計を残すとしたら、どれにするのか?」という質問を受けた。迷ったあげく、最終的に決定したのはリシャール・ミルの「RM 005 FM」だった。

 複雑機構を搭載しているわけではないが、この腕時計は、装着感が良好で、色も見た目も私の好みにピッタリであり、知名度も高い。ブランドのアンバサダーを務めるテニスプレイヤーを、私が好きだということもこの時計を選んだ理由のひとつだ。


価値の下がらないスモールメゾンを決定付ける要素

 もちろん、すべてのスモールメゾンの手による時計が同じように安定した市場価値を持っているわけではない。しかしながら、2024年に開催されたオークションの落札価格をつぶさに観察すると、価格が安定した時計にのみ見受けられる、いくつかの要素を見出すことができる。

限られた生産数

 そのひとつが生産数の少なさだ。ボナムス香港では、2024年11月29日に新本社で初の時計オークションを開催する。そこでは、ドゥ・ベトゥーンの「DB28」が出品される。ただのDB28ではない。初期のDB28はブルーカラーのケースを備えたものが多いが、そうではなく、チタン素材の色味を生かしたモデルは稀少なのだ。その市場流通量は極めて少ない。

ドゥ・ベトゥーン「DB28」Ref.DB28TIS5
6時位置に球体ムーンフェイズ、裏蓋にパワーリザーブ表示を備えている。手巻き(Cal.DB2115)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約144時間。Tiケース(直径42.6mm, 厚さ9.3mm)。

高い技術力によって実現したムーブメント

 ふたつ目の要素は、そのブランドの高い技術を実証するムーブメントだ。このオークションに出品されるカベスタンの「トランペジウム」は時刻表示にローラーを用いている。主ゼンマイや輪列機構だけでなく、ヒゲゼンマイや脱進機も縦(6-12時位置方向)にレイアウトされており、世界的に見ても珍しく、革新的なムーブメントである。

カベスタン「トラぺジウム」
垂直トゥールビヨンを備え、チェーンで駆動するムーブメントを搭載する。手巻き(Cal.CAB EC 101)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(縦47×横41mm, 厚さ17mm)。世界限定135本。

独特なデザイン

 そして、最後の要素はデザインだ。MB&Fの腕時計は独特なデザインのために、ここ数年は生産量を上回る需要を記録しており、2025年末まで注文が殺到していると言われている。生産数が限られているため、来年末まで予約枠はいっぱいだそうだ。「HM4」は創業者の子供時代に遊んだ飛行機の模型からインスピレーションを受けたものである。ユニークな形状は玩具のような印象を覚えるかもしれない。だが、実際には時計職人の匠の技が注ぎ込まれた一流品なのだ。

HM4 サンダーボルト

MB&F「HM4 サンダーボルト」
創業者のマキシミリアン・ブッサーが幼少期に組み立てて遊んだ模型飛行機から着想を得た腕時計。このモデルはアメリカ空軍の戦闘機、A-10 サンダーボルトをイメージしたものだ。手巻き。50石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(縦52×横54mm, 厚さ24mm)。

 市場の変化に戸惑い、どの時計を購入すべきか躊躇してしまっている場合には、今回挙げた3つの要素を備えたスモールメゾンに注目してみるとよいだろう。刻々と変化する市場において、購入時の指針となるはずだ。


著者「シャロン・チャン」プロフィール

 シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。

シャロン・チャン

シャロン・チャン/ボナムズ香港 時計部門ディレクター
シャロン・チャンは、ボナムズに入社し、オークションビジネスに復帰する前の2017年から18年の間に、個人でウォッチディーラーとクライアントコンサルタントを行い、専門家としてのキャリアを築いた。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの間に強力なコネクションを持ち、アジアにおける腕時計市場拡大において重要な役割を担っている。

 これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から16年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々拡大し、13年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、15年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。


大塚ローテック「6号」が高値で落札! 独立系ブランドのタイムピースに熱視線が集まる

FEATURES

腕時計のオークションでは人気ブランド名だけで価値は決まらない!技術で評価されたユリス・ナルダン「フリーク」

FEATURES

ウォッチコレクションの新しい潮流。“ネオ・ヴィンテージ”

FEATURES