1976年、バックス&ストラウスに入社し、現在まで50年近くにわたって〝ダイヤモンド畑〞で手腕を振るい、2000年からはCEOを務めるヴァルケス・カナジャン。彼が、特別なコレクションをお披露目してくれた。「アーガイル ピンクダイヤモンド コレクション」だ。
鶴岡智恵子(本誌):取材・文 Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
唯一無二の時計が示す、ダイヤモンドメゾンの新しいブランド価値
バックス&ストラウスCEO。1955年、エチオピア生まれ。父親はエチオピア皇帝であったハイレ・セラシエ1世から信任された時計師であった。London School of Economics(LSE)入学後、ダイヤモンドのアイデアル カットを突き止めたマルセル・トルコフスキーの弟に師事する。1976年にバックス&ストラウスに入社。2000年より現職。2006年にフランク ミュラー ウォッチランド グループと提携し、ダイヤモンドウォッチコレクションを展開してきた。
「このコレクションは、クラシックな『リージェント』の中の、ひとつのモデルです。しかし、既存モデルと同じではありません。このモデルに使われているアーガイル産のピンクダイヤモンドは、非常に稀少なのです。なぜならアーガイル鉱山は2020年に閉山しているためです。このダイヤモンドを入手することができて、どう作品に落とし込もうかと考えた時、我々のコレクションの中で成功している『リージェント』に決めました」
本コレクションは、18世紀の英国ロンドンから歴史を紡ぐダイヤモンドメゾンが手掛けた、最高峰の、かつ唯一無二のダイヤモンドウォッチである。
「『一点物の時計やジュエリー』は、作ろうと思えば作ることができます。しかし、このコレクションは『(同じものを)作れない』のです。だから、このコレクションには金額だけではない、特別な価値があるということは分かってほしいのです」
稀少なアーガイル産のピンクダイヤモンドを、合計2.34ctも贅沢に使った「リージェント」コレクションの特別モデル。同じくアーガイル産ピンクダイヤモンドを使ったイヤリング、ペンダント、リングとセットでの販売となる。なお、ダイヤモンドのすべてにはアイデアルカットが施されている。自動巻き。18KWGケース(縦38×横32mm)。5390万円(時計・イヤリング・ペンダント・リング込み)。
一方で「老舗のダイヤモンドメゾンが手掛けた特別なダイヤモンドウォッチ」という枠にとどまらないことは、彼が目指すブランドのポジショニングからもうかがえる。
「私はダイヤモンド事業にどっぷり浸かってきました。このブランドの時計事業への参入は2006年ですが、私の父親はエチオピアの皇帝から信任を得ていた時計師で、時計に囲まれて育ってきました。時計が大好きなのです。そんな私だからこそ、このブランドを『時計ブランドであり、ダイヤモンドジュエリーブランドでもある』と位置付けることができます。ダイヤモンドウォッチを主軸に、そこに寄り添うようなジュエリーを作っていきたいですね」
もちろん時計、ジュエリー双方を手掛けるブランドは複数ある。とはいえ、そういったブランドのほとんどがジュエラーで、あくまでもジュエリーが主力商品となる。しかしダイヤモンドメゾンであるバックス& ストラウス、そしてヴァルケス・カナジャンが志向するのは、「ダイヤモンドウォッチが主軸」のブランドなのだ。
最後に「今、息子と一緒にブランド戦略や方針を決定しています。後継者として、このブランドは息子に任せたいですね」と語ったカナジャン。しかし、製品について、そしてブランドについてはつらつと語るその様子からは、まだまだ現役で活躍する、敏腕CEOとしての顔がのぞいていた。