編集部の気ままにインプレッション 「200ドルの超新星 ダン・ヘンリー」

2019.09.13

『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、話題の新作モデルを手に取り好き勝手に使い倒して論評する待望の新企画がスタート。今回はアメリカの新鋭、ダン・ヘンリーのクロノグラフ。価格以上のパフォーマンスが評判の1本を注文し、届いた現物を見てみると……。


清水の舞台から飛び降りることなく面白い時計が買えるとあらば

「1968」。クォーツ(ミヨタ製 Cal.6S20)。316L SS(直径41㎜)。50m防水。パンチング入りレザーストラップ。NATOストラップ付属。国際保証1年。200ドル。

 実に面白い時計ブランドを見つけてしまった。ブランドの名前はダン・ヘンリー。アメリカを拠点とする〝新進気鋭の〟ブランドらしい。『クロノス日本版』編集長の広田雅将もどこかのコラムで書いていたのでご覧になった方も多いと思う。10代の頃から古時計の蒐集を始めたダン・ヘンリー氏は独自のフットワークによって膨大な数の時計を買い集めていったが、何年も経つと自分の欲しい時計が見当たらない、もし仮に見つかってもとても手の出せる値段でないことに業を煮やし、なんと自分本意の時計を作ってしまうことを決心したという。噂が噂を呼び、彼の名を冠した時計は評判を呼び、今ではコレクションの数も5つを数えるようになった。

 ダン・ヘンリーの自身の時計を〝Affodable Vintage Watch〟(お手頃なヴィンテージウォッチ)と称している。ヴィンテージウォッチ=古時計という解釈が正しいならば、ダン・ヘンリーの時計はれっきとした現行品なので当てはまらない。しかも、ヴィンテージウォッチと呼ばれる製造から数十年の歳月が経っている個体でも、コンディションやブランドの知名度にこだわらなければ、今もって数万円のお手頃プライスで買えるものだってあるのは事実だ。

 しかし、そうした解釈の違いを一時脇に置いやってしまいたくなるほど、このアメリカ人コレクターの作る時計は魅力的だ。ちなみに、ダン・ヘンリーの時計は日本未入荷であり、ウェブサイトからオンラインでしか購入できない。となると相応のリスクは覚悟しなければならないと思うのだが、価格は190ドルから250ドルにしか過ぎない。清水の舞台から飛び降りることなく比較的廉価で面白い時計が買えるとあらば、挑戦しない手はないだろう。

 今回の「気ままインプレッション」は、知られざるダン・ヘンリーの時計を取り上げることにする。まずは、あくまでもオンライン販売に限定されているので、ウェブサイトで注文してから、実際に現物が届くまでの流れを紹介することにしよう。後半で、時計本来の実力をインプレッションしてみたいと思う。

 ダン・ヘンリーのウェブサイト(danhenrywatch.com)から、まずはコレクションの全容を見てみたい。モデル名には「1939」「1947」「1963」「1968」「1970」と4桁の数字が冠されている。手頃なヴィンテージウォッチを名乗る現行品なので、これらのモデル名はある特定の年代であることに即座に気づくはずだ。最も〝古い〟年代の1939は1930年代に製造されたミリタリークロノグラフがテーマとなっている。タキメーター、あるいはテレメーターをダイアル外周と内周にプリントしたマルチプルスケールの精悍な二つ目クロノグラフだ。赤や黄色の挿し色がほどよく決まっている。また、この様式を模した時計らしく、プッシャーは大ぶり。ケースサイズは41㎜とある。古時計愛好家ならば、「オー」っと歓声のひとつもあげたくなるようなレプリカぶりが素晴らしい。気になるプライスを見ると220ドル。安い! もちろん中身は機械式でなく、クォーツだ。しかし、侮ってはいけない。搭載するのは日本のミヨタ製。これは楽しい。

 他にも往年のクロノメーターを想起させる3針の「1947」(スモールセコンドの位置が低いのでバランスが実に良い)や、1960年代のパイロットクロノグラフを模した「1963」など、ダン・ヘンリー氏の相当な好事家ぶりがうかがえるラインナップだ。すべてのモデルは限定生産。モデル名の数字がそのまま限定数になっているが、これはご愛嬌。人気が高いのはどう考えても1947か1963であろう。

黒い筒型の容器に納められて納品されるダン・ヘンリーの時計。価格を考えると十分だ。蓋を開けると、カンバスとレザー製のロールにレザーストラップが付いた本体、付属のNATOストラップ、国際保証書が入っている。この収納方法は愛好家が喜ぶしつらいといえるだろう。

 ちょっとへそ曲がりの筆者は、どうせだったらもっとも不人気そうなモデルを選んで使ってみようと思い立った。それが「1968」である。3時位置に大ぶりのスモールセコンド、4時位置にデイト表示の小窓を置く、いかにも60年代〜70年代風のストレンジなデザインだ。ふたつのプッシャーがリュウズを挟んで上下に付いているので、即座にクロノグラフであることに気づく。実際、センターに配された赤色の針はクロノグラフの永久秒針である。文字盤は黒と白の2種類。ともにインデックスと針の赤色がデザインの大きなアクセントとなっている。搭載するのはミヨタのクォーツ・クロノグラフ。ケースは41㎜。顔立ちはそう、ロンジンが1970年代に作ったワンプッシュクロノグラフの「コンクェスト」を思い起こさせる。古時計業界でも非主流、マニア以外にはあまり好まれるタイプではないだろう。スペックにも〝ミニマリストダイアル〟とある。この半端な面構えが気に入った。早速、オンラインで注文することにする。

 入力フォームにEメールアドレスや住所、電話番号(英語表記)などを入れ、支払い方法を選ぶ。注文が完了するとEメールで注文完了のお知らせ、続いて数日後には発送終了の通知が届く。なんだかAmazonで本を買っているような気安さだ。

 それから約1週間後に品物が届いた。なかなか厳重な梱包だ。荷を解くと、パッキンの合間に黒いプラスチックの筒が現れた。蓋を開けると、紐でくくられたキャンバス&レザー製のロールが入っている。少しドキドキしながら紐を解くと、待ちに待った半端な面構えの勇者が、付属のNATOストラップ、1年間有効の国際保証書とともに品良く収まっているではないか。これで価格はシッピングコスト込みで200ドル。早速腕に載せてみると、想像以上の質感にビックリした。巷にある、日本円で2万円少々オーバーの時計にこれだけの(まだ使ってはいないが)クオリティと趣味性を求めるのは、なかなかに難しい。

 

 というわけで、後半はその〝知られざる実力〟のほどを、我が腕上にて検証する。