カシオの「MRG-B2100D-1AJR」を実機レビュー。本作は、G-SHOCKの最上位コレクションである「MR-G」に属するモデルだ。シャープさの際立つフルメタルケースに、格子状のパターンをあしらったダイアルを組み合わせた佇まいは、高級時計にふさわしい審美性を備える。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2024年12月4日公開記事]
G-SHOCKの最上位コレクション「MR-G」
1983年の誕生以来、一貫して耐衝撃性能を追求してきたカシオのG-SHOCK。無類の堅牢性は、警察官や消防士、レスキュー隊など、常に危険と隣合わせの職業人に対して過酷な環境下での正確な時間をもたらし、また豊富なバリエーションは、ファッションアイテムとしても世界中で注目を集めた。
樹脂製ケースによって耐衝撃性を確保していたG-SHOCK。やがて同社は次のステップとして、メタル製ケースを採用した耐衝撃ウォッチの開発に踏み出す。試行錯誤の結果、同社は自動車のバンパーから着想を得て、パーツの間に緩衝体を組み込んだ、バンパープロテクション構造の開発に成功。こうして出来上がったのが、1996年の「MRG-100」である。以降、MRG-100を初号機として「MR-G」コレクションが確立され、独自の地位を築いていく。
そして2024年10月、MR-Gに新作「MRG-B2100D-1AJR」が加わった。高級感あふれるメタルケースは、もはやファッションウォッチとは一線を画す存在だ。価格も税込みで57万2000円と、やはりタダモノではない。今回は本作の実機を手に取りながら、インプレッションを行っていきたい。
G-SHOCKの最上位コレクション、「MR-G」の新作。8角形のベゼルを備えたメタルケースが特徴だ。光発電クォーツ。Ti×コバリオンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。57万2000円(税込み)。
フルメタルケースの“カシオーク”
本作は、2019年に登場した「GA-2100」シリーズ、通称“カシオーク”のデザインに、MR-Gらしいハイエンドな外装を与えたモデルだ。ミドルケースや裏蓋、ブレスレットには、軽く耐食性に優れるチタンを採用し、ベゼルには、優れた強度と耐摩耗性、耐食性、そして白く輝く審美性を兼ね備えた合金、コバリオンを採用している。チタンはパーツによって組成を変え、ブレスレットには高い硬度を誇る「DAT55G」、ミドルケース、裏蓋、リュウズなどには、64チタンを用いている。仕上げは、ヘアラインを主体としてベゼルの側面やプッシュボタンなどの一部にポリッシュを与えている。全体的に統一感のある印象であるためか、見た目には異なる素材を組み合わせているとは分からないほどだ。
外装について特筆すべきは、シャープさの際立ったエッジだろう。まるで機械工具のようなピシッとしたエッジが、はっきりとした輪郭を浮かび上がらせ、樹脂製ケースでは味わえないような緊張感をもたらしている。ベゼルの上面に刻まれた、“G-SHOCK”と“PROTECTION”の文字も深くキレがある。
この審美性に優れた外装を実現しているのが、ベゼルやミドルケースなどを27個のパーツに細分化した構造だ。これによって隅々にまで研磨を施すことが可能となり、歪みの無い鏡面を作り出すザラツ研磨や耐摩耗性を高めるチタンカーバイト処理との組み合わせにより、高級機らしい見た目に仕上げている。
もちろん、G-SHOCKであるからには、耐衝撃性も確保されている。バンパープロテクション構造は本作にも生かされ、パーツとパーツの間に緩衝体を組み込むことで、外部から加わった衝撃が吸収される。
3時位置には、大型のねじ込み式リュウズが配されている。本作は標準電波を受信できる他、スマートフォンとの連携による時刻調整が可能であるため、あまり操作をする機会はないが、手動でカレンダーや時刻の調整が必要になった時、または電波の自動受信をオフにする必要がある時には、ねじ込みを解除することでリュウズを引き出すことができる。電子式リュウズのため、操作感に癖はあるが、説明書を見ながらであれば戸惑うこともないだろう。
大型のリュウズは回しやすい反面、外部からの衝撃を受けやすいのではないかと心配してしまうが、本作のリュウズには独自の耐衝撃構造が備わっているとのこと。さすがカシオ、抜け目がない。ちなみにロック時にはリュウズトップの“MR-G”のロゴが常に水平になる仕様だ。
プッシュボタンは、2時位置と4時位置のふたつ。2時位置のプッシュボタンはライトを起動する際に使用する。押下することで7時半位置からLEDライトが照射される仕組みだ。4時位置のプッシュボタンは電波の受信状況の確認やスマートフォンとの接続に用いる。
ブレスレットは、凸型のコマが連なったデザイン。1コマにふたつ、ピンを打ち込んだようなディンプルが別パーツによって与えられ、メカメカしい造形美を堪能することができる。バックルはプッシュボタンで開閉する三つ折れのタイプだ。
本作のバックルには、G-SHOCKのハイエンドモデルらしい独自のロック機構が備わっている。バックルを閉じた状態でロック用のレバーをスライドさせると、プッシュボタンを押してもバックルが開かなくなる仕組みだ。ダイバーズウォッチなどは、クラスプにフリップを重ねてダブルロック仕様としていることが多いが、その場合見た目には少し煩雑になる。一方で本作は、シングルロッククラスプのようなすっきりとした見た目を保つことができるというメリットがある。
日本の伝統技術に着想を得たダイアル
ケースやブレスレットだけではなく、本作はダイアルも見どころのひとつ。格子状のパターンは、日本の伝統技術である“木組”による組子格子の世界観を表現したものだ。波状の凸凹が立体感を生み出し、光を受けて多彩な表情が浮かび上がる様子を楽しむことができる。この構造は実利をも生み出しており、格子状の隙間から光を取り入れ、ソーラー発電に生かしている。
G-SHOCKとしては珍しく、液晶はなく全てがアナログで表示されている。インデックスと針はシャープに処理されており、光が当たった時に歪みの無い一筋の線が浮かび上がる様子は気持ち良い。
3時位置には日付表示が配されている。日付ディスクが奥まった位置にあるため、少し暗く見にくいが、ダイアルの下にソーラー発電素子を格納していることを考えると、構造上仕方ないだろう。7時半位置には、指針式の曜日表示が配され、デザイン上のアクセントになるとともに、機能性を高めている。
G-SHOCKと言えば、クロノグラフやアラーム、タイマーなど、充実した機能を持っているものも少なくない。対して本作は、それらの機能を持ち合わせていない。機能性に劣ると言えばそれまでかもしれないが、その分ダイアルの要素が絞られ、格子状のパターンを存分に楽しめるというものだ。
各種設定はスマートフォンアプリで
本作は、Bluetoothによってスマートフォンに接続し、CASIOのスマートフォン用アプリ「CASIO WATCHES」を用いて各種設定やステータス確認を行うことができる。CASIO WATCHESへの接続は簡単。時計を登録しペアリングするだけだ。あとは、ステータス確認や時刻合わせ、時計設定などのメニューを押下すれば、例えばソーラー発電量や自動時刻合わせ履歴の確認、ライトやサマータイムなどの設定を行うことができる。
その他にも、アプリ上で表示する時計の画像を好みのものに変更することや、取扱説明書を閲覧することもできる。特に取扱説明書に関しては、使いたい時にサッと検索できるため非常に重宝する。
チタン製の外装は取り回しも良好
実機を手首に載せてみる。G-SHOCKの例に漏れず、なかなかボリュームのある本作だが、チタン製の外装のおかげで非常に軽量だ。長時間着用していても疲れるようなことはないだろう。ブレスレットの可動域も大きく、腕を動かしても違和感はない。一方で、クラスプのロック機構には少し慣れが必要だ。外そうとしてもロックがかかったままであったという凡ミスを頻発させてしまったうえに、目視をしなければロックを解除しにくい。フリップ式のダブルロックであれば、目視をしなくても指先で簡単に解除できる。
視認性は非常に良い。格子状のダイアルは、光の反射具合によっては多少ギラつくが、そんな中でも蓄光塗料を塗布したインデックスと針が存在感を主張し、読み取りを容易にしてくれる。斜めから見ようとすると、奥まった日付表示は見にくくなるが、時刻に関しては影響を受けない。
究極のラグジュアリースポーツウォッチ?
今回インプレッションを行ったMRG-B2100D-1AJRは、恐らく筆者がこれまで手にしてきたG-SHOCKの中で最も高価なモデルだ。機能性に関しては安価なモデルから省略されているものもあるが、外装の作りこみは高級時計としてふさわしいレベルに達している。筆者がもし本作を購入したならば、ぶつけて切り立ったケースのエッジを潰してしまわないか、擦り付けてベゼル側面の鏡面を曇らせてしまわないか、ヒヤヒヤしてしまうに違いない。そのくらいに惚れ惚れする審美性を備えている。
気楽に使えるかどうかは個人の覚悟の問題なのでさておき、本作を見て、優れた耐衝撃性を備え、かつラグジュアリーな雰囲気をまとった時計は、あまり選択肢が多いものではないという事実に改めて気付かされる。時計好きとして、お気に入りの時計を着用したいという気持ちは常にある。しかし、時計にダメージが加わるリスクを考えると、避けるべきシーンも存在する。そのジレンマを解消するものこそ、MR-Gなのだ。いわゆるラグジュアリースポーツウォッチとはニュアンスがだいぶ異なるが、“ラグジュアリーなスポーツウォッチ”と、文字面だけ捉えれば、本作はその頂点に君臨するだけの実力を持っている。