思い出のロレックスを、イタリアで強盗にあったこととともに、業界No.1の時計専門メディア発行人が振り返る

FEATUREその他
2024.12.03

時計専門誌『クロノス日本版』発行人である松崎壮一郎が、思い入れのある時計を振り返る。その時計とは、ロレックス。イタリアで強盗に合い、パンツ丸出しになってなお、手元に残った1本とは?

松崎壮一郎:写真・文
Photographs & Text by Soichiro Matsuzaki
[2024年12月3日公開記事]


ロレックスとの出合い

 初めて買ったロレックスは、「サブマリーナー」Ref.16610LVだ。2003年のバーゼルワールドで、サブマリーナー50周年記念として発表された初のグリーンベゼルを備えたモデルで、価格は60万円以下だった。1995年からバーゼル・フェア(後のバーゼルワールド)へ取材に行っていたが、ロレックスのブースは一部のメディアを除いて長らく取材禁止で、やっと取材が許された時はうれしかったものだ。それまではブースのショウケースに展示された新作を、穴が開くほど見るだけだった。

ロレックス サブマリーナー 16610LV

筆者が初めて購入したロレックス、「サブマリーナー」Ref.16610LV。文字盤はグリーンに見えるかもしれないが、ブラックだ。21年前に購入して以来、かなり使い込んだので、ケースの傷やブレスレットのガタはある。片方向回転ベゼルは120クリックで1回転するが、メンテナンスしていないせいかかなり重い。自動巻き(Cal.3135)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径40mm)。300m防水。生産終了。

 当時は『Esquire(エスクァイア)日本版』という雑誌などを発行する小さな出版社に勤務しており、34歳で役員、42歳で社長業を任されたプレッシャーが重かったが、数億円にのぼる借入金も何とか返済できて(自分が借りたのではない)、会社は割と順調だったように記憶している。死ぬほど働いたが、金のことしか考えられなかったので、“ゼニメーター”とあだ名がついた平成だった。

ロレックス サブマリーナー 16610LV

ブレスレットは特に傷つきやすい。ここまで小傷があると、ポリッシュした方が良いかもしれないが、この時代のレンガを積み重ねたようなクラスプデザインは現行品にはなくなった意匠なので、ポリッシュをためらう。


イタリアで強盗にあった思い出とともに

 2004年にEsquireを退職した後、『クロノス日本版』の契約で何回かドイツに行くのだが(編集部注:もともとドイツの『Chronos(現WatchTime)』と提携して、松崎が日本で発行をスタートした)、イタリアやオランダにも足を伸ばして遊びにいった。

 そんな中、イタリアのナポリで、人生初の時計強盗に出くわした。狙われたのは、先述したRef.16610LVだ。特急列車から降りた夏のナポリは、絡みつくような視線で全ての観光客をねめつけていた。安ホテルにはエアコンもなく、情緒はあるが危険な街だった。写真を撮りたくて行ってはいけないスペイン地区に迷い込んだ自分は、ナポリに着いたその日に強盗に襲われた。

 揉み合って倒れ、近所の奥様たちがキャーっと黄色い叫び声をあげてくれたので、強盗はすぐに逃げて行った。幸いにサブマリーナーは手首に残った。慌てた自分は時計を外してズボンの前ポケットに入れ、スペイン地区を出ようとしたその時に、同じ強盗がまた襲ってきた。またも揉み合い、そこらの自転車数台が倒れ、奥様たちがキャーっと叫ぶ。2回目の襲撃で時計を獲られたと思ったのだが、ポケットの奥底に引っかかって無事だった。だが、揉み合ったせいで、僕のズボンはビリビリに破かれ、ナポリでパンツ丸出しになっていた。

ロレックス サブマリーナー 16610LV

ロレックスの“グライドロック エクステンションシステム”は、2008年の「ディープシー ディーブルー」から搭載されたので、自分が初めて購入した16610LVの時代はまだ採用されていない。自分が60代になり手首が痩せたので、着け心地が緩くなったのが不満だが、コマを1個減らすだけで改善されるのか、ノーチラスみたいに半コマがあるのか勉強不足。

 酷い目にあったナポリからフィレンツェに戻る特急列車の中で、前に座ったイタリア人夫婦の旦那の方が、ずーっと僕のサブマリーナーを凝視していた。30分は凝視していただろう。堪えられなくなった旦那は聞いてきた。「その時計はどこで、いくらで買ったんだ?」この問いかけで僕は「イタリア人はロレックスが大好きなんだ」と改めて認識することになる。

 その後、『クロノス日本版』を発行するために会社を作ったが、金が足りなかったので時計を売った。ただ盗まれなかったサブマリーナーだけは手元に残した。それは今でも所有している。


現在のお気に入りロレックス

ロレックス サブマリーナー 126613LB

最近のお気に入りの、現行「オイスターパーペチュアル サブマリーナー デイト」Ref.126619LB。片方向回転ベゼルは120クリックで1回転する。“グリーンサブ”に比べるとかなり軽いタッチで動くため、時々ずれていることもある。“グリーンサブ”はアルミ製のベゼルインサートで、こちらはセラミックス。違う色だが、発色は段違いに良くなったことが分かる。また、服地やアクセサリーでは出せないブルーの色調は化学的な気持ち悪さが逆に気に入っている。東京も温暖化で半袖を着る時期が増えているので、ブルーベゼルが目立って大変よろしい。自動巻き(Cal.3235)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KWGケース(直径41mm)。300m防水。

 あれから何本も時計を買った。もちろんロレックスも数本は増えている。最近は「オイスターパーペチュアル サブマリーナー デイト」Ref.126619LBがお気に入りだ。ホワイトゴールド製なので重いのだが、グライドロック エクステンションシステムは非常に便利で、手首が微妙に浮腫んでいても、ピッタリサイズに自分で調整できる。ブルーに発光するクロマライト(スーパールミノバ)も他社のグリーンの蓄光塗料とは違っていて、帰宅時に明かりを灯すまでの数秒間だけ小さな満足感を味わえる。なによりSSにしか見えないのが良い。今までにゴールドを指摘されたのは時計関係者でもひとりしかいないので、またナポリに着けて行っても大丈夫なような気がしないでもない。ちなみにコレクションは銀行の貸金庫で保管している。

ロレックス サブマリーナー 126613LB

購入してからまだ2カ月くらいだが、毎日着用していたら結構な小傷が付いてしまった。ブレスレットの中ゴマがポリッシュ磨きのため、傷は目立ってしまう。


時計専門誌らしく、スペックについても言及

“グリーンサブ”に搭載されていたムーブメント、Cal.3135は、1988年頃から27年ほども生産された名機だったが、2015年から新しいCal.3235に変更され、パワーリザーブが約48時間から約70時間に伸びている。また、日付がどの時間帯でも、変更できるようになった。日本にいようが太平洋上の飛行機の中だろうが、深夜でも早朝でも、日付を変更する際に時刻を気にする必要がなくなったのだ。

 精度はスイス出荷時に日差-2秒~+2秒とうたっているが、ここ1カ月間毎日着けていて、本当に素晴らしい精度であることを体感している。ガンギ車は最新の“LIGA”技術で製作され、耐磁性も向上している。基本性能において、他社をリードし続けてきたロレックス。もっとも、昨今のオメガの追随は無視できない感があり、オメガも何か買ってみようかと思っている。

ロレックス サブマリーナー 126613LB

ロレックスの全モデルだけでなく、他社のスポーツウォッチでもすべて搭載してほしいくらい大好きな、“グライドロック エクステンションシステム”。元々はダイビングスーツの上から着けるために2mm間隔で最長2cmの長さ調整が出来るように開発されたシステム。ディープシーのそれは、痺れるくらい精度誤差が無い切削技術で作られていて、さらに素晴らしい。


“古典的サブ”の最終形? ロレックス サブマリーナー デイト 126610LVを着用レビュー!

FEATURES

ロレックス/オイスター パーペチュアル サブマリーナー デイトをテスト【92点】

伝統を重んじる、ロレックス「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」

FEATURES