異業種との融合を積極的に推進してきたオーデマ ピゲの新たなるパートナーに、遊び心溢れるストリートカルチャーが加わった。前例なき挑戦を厭わないオーデマ ピゲは、アーティストKAWS(カウズ)とのコラボレーションモデルにおいて先進性と卓越したクリエイティビティを表現。その作風は“時計の先”を明示するかのような、創意に満ちた内容である。
篠田哲生、野上亜紀:文 Text by Tetsuo Shinoda, Aki Nogami
竹石祐三:編集 Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
ROYAL OAK CONCEPT ╳ KAWS
KAWSとの共演で明示された先鋭のクリエイション
2025年に創業150年を迎えるオーデマ ピゲは、23年秋より「SEEK BEYOND(時計の先へ。想像の先へ。)」というスローガンを掲げ、先進的かつ独創性溢れる作品をリリースし続けてきた。また、素材研究とそこから導かれる洗練された造形を探求する「シェイピング マテリアルズ」も未来を見据えるうえでの重要なテーマだ。
中央にはKAWSのアイコニックなキャラクター「コンパニオン」のミニチュアが大胆に配置され、時刻表示はその周囲のペリフェラル式のリングで行う仕組み。アーティストの世界観を腕時計という小さな空間の中で巧みに表現している。手巻き(Cal.2979)。39石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径43mm、厚さ17.4mm)。10気圧防水。世界限定250本。要価格問い合わせ。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak-concept/26656TI.GG.D019VE.01.html
歴史ある名門でありながら、先進性を忘れないオーデマ ピゲは、常にカッティングエッジな表現者から愛されてきた。KAWSもそのひとりだ。KAWSはアメリカ・ニュージャージー州生まれでグラフィティアーティストとしてキャリアをスタート。街頭の広告にオリジナルのグラフィティを加えた「サブバータイジング」で注目されるようになるが、アートシーンで知られる以前は日本の裏原宿カルチャーに魅せられ、ブームを牽引してきたYOPPIやNIGOたちとの交流を重ねてきた。原宿の裏通りから発信されるファッションや音楽に影響を受け、やがて友人関係にあった日本のファッションブランドと数多くのプロダクトを製作。それが、彼をストリートカルチャーのアイコンに押し上げることになる。
今ではユニクロとのコラボレーション作品を発表するほどのビッグネームとなったKAWSだが、これだけ知名度が上がってもなお、アーティストとして消費されていないのは、商業主義とファインアートの間に存在する境界を、常に破壊する存在であったからだろう。次は何を仕掛けてくるのか。そんな期待を抱かせるのが、KAWSの魅力である。
こうした観点から「ロイヤル オークコンセプト トゥールビヨン〝コンパニオン〞」を見ると、常識の枠組みを飛び越え続けてきたオーデマ ピゲとKAWSの共通する哲学が見えてくる。
サファイアクリスタルの向こうに佇むのは、KAWSが創造したキャラクター「コンパニオン」。グラフィックやフィギュア、巨大バルーンなどさまざまな形で表現されてきたが、オーデマ ピゲとのコラボレーションによって高級時計の概念を破壊した。ダイアルに配置された「コンパニオン」はチタン製。サテン仕上げとサンドブラスト仕上げによって立体感を強めたミニチュアは、まるで「コンパニオン」を閉じ込めているかのよう。しかも風防に両手をつきユーザーをじっと眺める×マークの目は、その感情に想像を巡らせたくなる実にユニークなデザインだ。
その体には「コンパニオン」の鼓動のようにトゥールビヨンが回転しているが、このアートワークを隠さないように、ムーブメントの周囲を回るペリフェラル式の時分針を採用。この表示のために開発された手巻き式のキャリバー2979は裏面も見どころになっており、KAWSのキャラクターにインスパイアされたパデッドデザインを取り入れている。また、ベゼルに入るビスの天面にも目と同じ×マークを施すなど、ロイヤル オークの特徴的な意匠を生かしつつ、細部までKAWSのアートワークを取り入れた、オーデマ ピゲらしい徹底したクリエイションが愉しめる。
1972年に誕生した「ロイヤル オーク」の30周年記念として登場したコレクションが「ロイヤル オーク コンセプト」だ。そこにKAWSのアートワークを加えるのは、街頭広告にグラフィティを交えたサブバータイジングにも通じるスタイルであり、彼の作品に内包されたシニカルさも表現している。ラグジュアリーウォッチとストリートカルチャーの間には、創造性に限界がないという共通の信念があり、本作はそれを見事に証明した。
表現の進化を止めないロイヤル オークの現在地
50年以上の歴史を重ねてきた傑作「ロイヤル オーク」は、今もなお高い人気を誇る。今や“伝説”となったデザイナー、ジェラルド・ジェンタによって生み出されたアイコニックな意匠を継承しつつ、技術と美意識で現在のニーズを巧みにすくい取ることで、よりエレガントで独創的な腕時計へと進化を遂げている。
1972年に誕生し、変わらぬスタイルのまま50年以上も継承されてきた「ロイヤル オーク」。もはや完成形とも言えるこの腕時計を、さらに進化させるためには何が必要なのか? それはデザイナーにとってはかなりの難問だろう。一歩間違うと〝蛇足〞になりかねない。その一方で、時計愛好家たちは常に新しいロイヤル オークを求めている。
「SEEK BEYOND」をスローガンに掲げるオーデマ ピゲがロイヤル オークを進化させるために選んだのは、表現力の強化だった。もともと、ロイヤルオークには際立った造形と繊細な仕上げという強みがあるが、これを生かすことで、新しい魅力を引き出したのだ。
すでに2針モデルで好評を博していたスモークイエローゴールドのダイアルが、フライングトゥールビヨンモデルと融合。深みのあるダイアルと浮遊するキャリッジが、ラグジュアリースポーツウォッチをさらに価値あるものにしている。自動巻き(Cal.2950)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KYGケース(直径41mm、厚さ10.6mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak/26730BA.OO.1320BA.01.html
まず注力したのが文字盤表現。ロイヤル オークは初代モデルからタペストリーと呼ばれる模様が文字盤に彫り込まれる。伝統的なギヨシェとは異なるモダンな表情は、ロイヤル オークの先進的な意匠を際立たせた。一方カラーはシンプルで、初作をはじめ多くのモデルは「ナイトブルー、クラウド50」を採用。当初はガルバニック加工で製造されていたが、コレクション全体の色合いを均質にするため、PVD加工技術を高めてきた。
そして一転、柔らかなグラデーションカラーのスモークイエローゴールドのダイアルを採用したのが「ロイヤル オークフライング トゥールビヨン」だ。存在感のあるダイアルを生かすように、トゥールビヨンはフライング式。外側にいくほど深みを増すドラマティックなダイアルは、ケースやブレスレットの造形に目が向きがちなロイヤル オークに〝美顔〞という新しい楽しみ方を提案している。
ケースの表現でも新スタイルを提案する。フロステッドゴールドは、女性用ロイヤル オークが40周年を迎えた2016年、ジュエリーデザイナーのキャロリーナ・ブッチとのコラボレーションとして誕生。イタリアのフィレンツェにルーツを持つ伝統的な鍛金技法で、先端にダイヤモンドチップの付いた工具を使ってゴールド素材の表面に微細な凹凸を付けることで光を乱反射させる。霜で覆われているかのような凹凸だが、表面は実に滑らかで、その完成度から、女性のみならず、男性からも高い評価を得ている。直径34mmの「ロイヤル オーク オートマティック」は、ルテニウムの結晶をイメージしたダイナミックな凹凸の型打ちダイアル「クリスタルサンド」も取り入れており、全体をまばゆく輝かせる。ロイヤル オークといえば、ヘアラインとポリッシュ仕上げの組み合わせが生み出すメリハリのある輝きが特徴だが、フロステッドゴールドとクリスタルサンド仕上げによって、さらに表現の幅を広げている。
ケースやべゼル、ブレスレットの表面を鍛金加工で微細な凹凸に仕上げ、光を乱反射させる。一層の煌めきを放つダイアルはクリスタルサンド仕上げ。針とインデックスはピンクゴールド製なので、光と色とのコントラストで視認性を確保する。自動巻き(Cal.5800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径34mm、厚さ8.8mm)。5気圧防水。896万5000円(税込み)。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak/77450BC.GG.1361BC.01.html
ロイヤル オークはメカニズムの表現でも、新しい手法を確立した。「ロイヤルオーク ダブル バランスホイール オープンワーク」は、一対のテンワとヒゲゼンマイを同軸上に組み合わせ、両者の重心のずれを相殺することで安定した精度を生み出すもの。2016年にデビューし、特許を取得している革新的な技術だが、これをダイナミックなオープンワークで表現することで、動きを愛でる楽しさを加えた。しかも本作では、ピンクゴールド製のケースに合わせてムーブメントパーツも同色にするトーン オン トーンでまとめ、一方でインナーベゼルにはパープルの差し色を添えることで、複雑ながらも丁寧に仕上げられたムーブメントの構造が引き立つようにしている。
ロイヤル オークは、まっさらなキャンバスではない。巨匠が描いた名画であり、そこに歴史と伝統の重みが加わったことで、多くのファンを獲得していった作品だ。そんな傑作に新たな一筆を加えるというのは生半可なことではなく、とても勇気のいることだろう。だからこそ、信念をもって生まれたロイヤル オークの進化形モデルには〝時計の先〞を追求するオーデマ ピゲの情熱が見て取れる。傑作の最進化形は、今という時代を映し出す鏡のようなものかもしれない。
対になったふたつのテンワとヒゲゼンマイで高精度を追求するダブル バランスホイール機構を搭載。ケースと色のトーンを合わせたムーブメントの構造と繊細な仕上げに目を奪われる。インナーベゼルと同色のアリゲーターストラップも付属。自動巻き(Cal.3132)。38 石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KPGケース(直径37mm、厚さ10mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak/15467OR.OO.1256OR.02.html
ROYAL OAK OFFSHORE
マッシブな体躯にエレガンスを添える、スペシャルなディープレッド
ケースサイズを拡大し、防水性能も向上。スポーティーマインドをまとって1993年に誕生した「ロイヤル オーク オフショア」は、「ロイヤル オーク」の領域を広げ、新たなファン層を獲得する原動力になった。その日本限定モデルはダイアルをディープレッドに染め上げ、ロイヤル オーク オフショアの表情に新鮮なアクセントを加えている。
アイコニックな八角形ベゼルを生かすため、逆回転防止ベゼルはインナー式。10時位置のリュウズで操作する。スタイルを維持したままダイバーズウォッチのコードに合わせ込み、オフショアの新しい世界を作り上げた。自動巻き(Cal.4308)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ14.3mm)。30気圧防水。日本限定100本。984万5000円(税込み)。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak-offshore/15720CN.OO.A002CA.02.html
1992年の「ロイヤル オーク」誕生20周年に向けて開発が進められ、93年に発表された「ロイヤル オーク オフショア」は、社内では「チャレンジャー」と呼ばれていた。ロイヤル オーク初となる自動巻きクロノグラフムーブメントを採用するのみならず、大きく盛り上がったリュウズガードの影響で42mmという公称値以上のボリュームを感じさせる。そして八角形ベゼルの下には、防水性能をアピールするかのようにラバーガスケットを際立たせるなど、エマニュエル・ギュエがデザインしたロイヤル オーク オフショアは、当時の高級時計の常識からは、大きくかけ離れていた。
時計愛好家から「ビースト(野獣)」と呼ばれた初代モデルの反応は、さほど芳しいものではなかった。しかしその圧倒的な存在感やボリューム、優れた防水性能が、エクストリームスポーツやヒップホップの住人たちから評価され、ユースカルチャーと結び付いた。結果、これまでのファン層とは異なるユーザーを獲得することになり、ロイヤル オークの世界を広げることになった。
今や、ロイヤル オーク オフショアもマスターピースとして確固たる地位を築いており、力強いデザインを生かすような配色を凝らしている。その日本限定モデルは、何層にも塗り重ねることで実現したディープレッドのダイアルが目を引く。セラミックベゼルを組み合わせるのもロイヤル オーク オフショアの特徴で、その硬質な輝きが腕時計に迫力を与え、ダイアルの色味を際立たせている。
30気圧防水の本格スペックながら、ケース素材はホワイトゴールド。ツールウォッチではなく、モダンライフに合うラグジュアリーウォッチとして手にしたい、スペシャルなタイムピースである。
ROYAL OAK CONCEPT
新世代フォージドカーボンが示した革新性のネクストステージ
高級時計の常識を超え、誰も想像しなかった前衛的なデザインや機構を搭載する「ロイヤル オーク コンセプト」。ハイコンプリケーション技術に加えて、素材開発にも力を入れており、腕時計の表現力はさらに高まっている。これからの高級時計が向かう先はどこか──。オーデマ ピゲの回答が、このコレクションに表れている。
2007年以来、フォージドカーボンを時計に採用するオーデマ ピゲが同素材をアップデート。衝撃や熱、湿度への耐性を向上させつつ着色を可能にし、外装の表現力を高めた。スプリットセコンドクロノグラフに加え、12時位置にラージデイト、3時位置に第2時間帯表示を備える。自動巻き(Cal.4407)。73石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。CFTカーボンケース(直径43mm、厚さ17.5mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。
公式ページ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/watch-collection/royal-oak-concept/26650FO.OO.D353CA.01.html
2002年に新コレクションとして誕生した「ロイヤル オーク コンセプト」は、それまでになかった素材や構造を採用し、まさに「SEEK BEYOND」を表現する腕時計として話題をさらった。その後も「ロイヤル オーク」の可能性を探求するプロジェクトとして継続され、八角形ベゼルの宇宙の中で、無限の可能性を表現してきた。
「ロイヤル オーク コンセプト スプリットセコンド クロノグラフ GMT ラージデイト」は、これまでとは違った革新性を持つモデルとして2023年に誕生した。600を超えるパーツで構成されるキャリバー4407を直径43mmの立体的なケースに収め、ケース厚を17.5mmにまとめるのは至難の業。しかもムーブメントの中央にスプリットセコンドクロノグラフ機構を収め、その周囲でローターを回すセミペリフェラルローターを開発するなど、新たな技術への探求から生まれた腕時計であった。
その発展形となる本作でケースに用いられたのが、オーデマ ピゲのR&Dラボが開発したクロマフォージドテクノロジー(CFT)によって生まれた新しいフォージドカーボン。これはカーボンに直接着色する技術で、ブラックカーボンに色のアクセントを加えることを可能とした。しかも中間材となるレジンの使用量が減り、耐傷性は大幅に向上。含有するブルーのカーボンファイバーを暗闇で発光させる新しい表現手法も実現した。
オーデマ ピゲでは創造性を探求するため、素材開発にも注力してきた。「シェイピング マテリアルズ」と呼ばれるコンセプトによって、身に着ける喜びや愛でるうれしさを引き出す。ブラック×ブルーの幻想的な色の向こうに、オーデマ ピゲの無限の可能性が見えてくる。