『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回は、タグ・ホイヤーの「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」Ref.CBS2216.BA0041を着用した。レトロな顔立ちながら、現代的な工夫が随所に凝らされた快作であった。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
[2024年12月10日公開記事]
1960年代後半のパンダモデルを現代的に昇華
細田 今回はカレラのパンダモデルです。2023年にカレラ誕生60周年を記念して、風防を改めた“グラスボックス”が発表されましたが、本作はその色違い。2024年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表されたイチオシモデルです。今回の語りどころは、何と言ってもまずデザインですよね。
自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm)。100m防水。93万5000円(税込み)。
広田 巧いと思ったのは、スリーカウンターだけど、スモセコ部分を文字盤と同色にして、ふたつ目のパンダにしてるところ。
鶴岡 モナコ風になってますよね。
鈴木 ちゃんとふたつ目パンダになってるし、クロノグラフ秒針を含む積算計の針の先端と、あとミニッツマーカーの先端だけを赤にしてるから、クロノグラフを使う時は赤の部分を見れば良いっていうのが明確で分かりやすい。
広田 このパンダみたいな組み合わせは、1970年頃にあったように思います。
鶴岡 資料によると、1960年代後半のRef.7753SNが着想元だとありますね。
広田 ありがとうございます!
鈴木 当時のモデルもクロノ秒針は赤だけど、他の針は黒だったから、今回の方がよりデザイン的にも視認性的にも工夫されていますね。
斜めから見た時に出来の良さが実感できる
細田 視認性という点で言うと、この“グラスボックス”風防は光を受けると色々と見え方が変わってくると思いますけど、実際に着けてみてどうでしたか?
広田 見ずらさは全然なかったです。
細田 ボックスの立ち上がりがわりと緩やかだからですかね。
広田 そうですね。その点は関係していると思います。
鈴木 あと、タキメーター表示を外周に、時分表示は内側のすり鉢上の部分に分けて配置してあるので、どっちも見やすい。よく考えられてますよね。
細田 そうですね。こういう横からあおったカットでもしっかりと見えてますもんね。インデックスもちゃんと見返しに合わせて曲げてあったりして、この価格帯ではなかなかやらない細かい部分にまで手が入っています。
鈴木 広田さんは昔から「時計は斜めから見るものだ」って言ってるけど、これは斜めから見ても良いデザインですよね。
広田 よく考えられてます。あと、文字盤の質が明らかに良くなりました。昔のホイヤーはインデックスがだるいとか、色々ありましたけど。あと、基本的に使われてるフォントが懐かしくて、絶妙なレトロ感。
細田 “グラスボックス”と文字盤デザインとがチグハグになってないところはさすがですね。
鈴木 レトロさもあるけど、ちゃんと今らしい工夫とデザインもあるから、着けていて楽しかったですね。見るたびに気持ちが良くなるというか、満足感は高いかなと思いました。
広田 それから、寄りの写真で確認してほしいですが、僕がすごく良いなと思ったのは、クロノ秒針の先端。赤色の部分を1段カットして色を載せてる。
鈴木 本当だ。クロノ秒針の先端が1段下げてある。塗料が表面張力でモリっとなってるとあんまり綺麗じゃないもんね。
広田 こういう配慮は昔のホイヤーにはなかった。
カレラらしさはそのままに、装着感を改善
広田 装着感で言えば、意外と全長が短いのが良いっすよね。
鶴岡 腕周り14.7cmの私でもはみ出さずに着けられました。
鈴木 全長は長くはないけど、ラグが長く見えるデザインになってるよね。
広田 ベゼルの部分を盛り上げて、弓管を詰めているのが視覚的に効いていると思います。
細田 弓管を詰めたことで、相対的にラグが長く見えてるんですね。ラグが短いとカレラっぽさがなくなっちゃうと思っていましたが、見事にデザインされています。
鈴木 確かに、昔のカレラはラグがとんがってたよね(笑)。新しいモデルもラグは長く見えるけど、実際は今風にちょっと短くしてるから装着感は悪くない。しかも、ぜんぜん違うデザインにはならずに、ちゃんとカレラに見える。
鶴岡 ロレックス風のアプローチじゃないですか。ロレックスも昔、ラグが長かったですけど、今は切り落としてるので、それに近いように感じました。
熟成を感じさせる自社製ムーブメントCal.TH20-00
細田 それから、この型からムーブメントがCal.ホイヤー02からCal.TH20-00になって両巻き上げになりましたけれども、その点はどうでしたか? 例えば、空回りの音とか。
広田 空回りせずにすごくよく巻いて、精度も結構出たと記憶してます。
鈴木 私、着用精度を測りましたよ。T24でプラス5秒でございました。
広田 悪くない悪くない。あと、TH20-00は主だった部品のほとんどにエピラム処理を施してるので、保油しやすく、メンテナンスのインターバルも理論上延びて流。
鶴岡 ホイヤー02の頃は結構空回り音があったんですか?
細田 片巻き上げだったからね。
鈴木 TH20-00って、最後にカザピさん(タグ・ホイヤー ムーブメント・ディレクターのキャロル・カザピ)が仕上げたんですよね?
広田 はい。
鈴木 ホイヤー02を出した時はまだ荒さがあったというか……とりあえず出しました的な感じがあったけど、TH20-00ではちゃんと整備された感じがする。
細田 ホイヤーの自社キャリバーって02と01とがあったじゃないですか。02が完全に自社設計でしたっけ? それで01はセイコーベース?
鈴木 そう。6S系のCal.1887でスイングピニオンだった。
細田 そうですよね。
鈴木 その間に、02のベースになったCal.CH-80でしたっけ。
広田 ありましたね。消えてしまいましたが。
鈴木 その後に02が出てきた。
細田 TH20-00はある意味、ホイヤーの自社製ムーブメントとしては集大成というか、かなり熟成させたものなんですね。
鈴木 熟成って言葉がピッタリかも。時間かかってるから。
ブレスレットも健闘しながらアンダー100万円をキープ
広田 一点、改善点を上げるとするならば、ブレスレットですかね。時計のボリュームに対してブレスレットが薄いのと、個人的にはネジ止めにして欲しかった。でも、バランスとしては悪くはない。
細田 このヘッドだったらいけますよね。
広田 やや薄いけど、古典的なスポーツウォッチのように、ほとんどストレートな幅広めのブレスレットを合わせることによって、ヘッドの重さを散らしているのが巧いですね。
鈴木 写真で見るとよく分かるけど、ケースからのつながりのバランスも悪くない。
細田 あとはバックルですね。造りは好き嫌いが分かれるとは思いますが、結果的には薄くなってるから良いですよね。
広田 あと、ホイヤーはバックルのプレートが一貫して短い。僕の知ってる限りで言うと、ブレスレットのバックルのプレートを最初に短くしたのはホイヤーでした。だから割と細腕でもフィットするようになっていて、そこらへんの味付けはさすがにうまいなと。
細田 2017年に広田さんにモナコのインプレッションをしてもらった時も同じことおっしゃってて、ホイヤーはすでにあの時点でバックルを短くしてるんですよね。確か、2015年頃発表のモデルだったと思うんですけど、そうなるとホイヤーはもう10年ぐらい短いバックルを続けていることになります。
広田 ホイヤーはバックルの見直しが早かったから、結果として時計にメリハリがついてる。お金の使い方も含めてね。ヘッドの部分はムーブメントもボックスサファイアクリスタルも文字盤も多分、金かかってるんですよ。その分をブレスレットでバランス取ってる。それで100万円切ってますから。
鈴木 税込みで93万5000円。今、自社キムーブメントで100万切って、しかもこの外装だったら、全然アリです。もちろん、ブレスレットが良くなったらもっと良いけど、それだと100万超えちゃう。今のままでも十分バランスは取れてるからね。
細田 今や100万円のクロノグラフと言うと、ノルケインのフライバッククロノがそのくらいの価格帯になので、本当に競争力のある時計だなって思います。
トータルの完成度の高さに満場一致の高評価!
広田 ケース直径は39mmだけど、全長を短くしているので食わず嫌いの人もトライしてほしいなって思います。良いんじゃないの、ホイヤー!
細田 この時計に関しては、着けてる人間みんなからの称賛の声があって。我々は普段、ホイヤーに対しては辛口ですけど、このモデルに関しては非常に好評ですよね。
広田 カザピさんは「トータルのパッケージを考えた」みたいなこと言ってましたけど、その通りの時計になったと思う。
鈴木 カザピさんが加わってるのはやっぱり大きいっすよね。今回はホイヤー大絶賛でした!