2024年に発表された新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ企画。今回は時計ジャーナリストの菅原茂が「比較的近づきやすい価格」の中から、ムーブメントとブランドが持つ歴史&ストーリーをポイントに選出した。選ばれたのは新型手巻きムーブメントを搭載するグランドセイコー「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」やタイプ21に準拠したエイレンなどだ。
1位:グランドセイコー「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」
ルーツ復刻の秀逸な例。「44GS」のクラシカルなデザインと「45GS」の10振動ムーブメントに基づき60年代の全盛期を今に再現。手巻きで3万6000振動/時、約80時間パワーリザーブの最新Cal.9SA4にも注目。
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径38.4mm、厚さ10.4mm)。3気圧防水。世界限定1200本(うち国内425本)。134万2000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
2位:チューダー「ペラゴス FXD GMT "ZULU TIME"」
時計好きは必見。フランス海軍の特殊部隊との共同開発による「ペラゴス FXD」。海軍航空隊向けの最新作は、GMT機能が加わり、COSCおよびMETAS認定の高精度自社ムーブメントを搭載するハイスペック。良さ満載の秀作。
自動巻き(Cal.MT5652-U)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.7mm)。200m防水。65万1200円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
3位:ロンジン「ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラルパワーリザーブ」
歴史的機能を再発見。「コンクエスト」の誕生70周年を記念して、2枚の回転ディスクによる独創的なパワーリザーブ表示を復刻。ヴィンテージルックとユニークな機能、最新の高性能ムーブメントが同時に楽しめる。
自動巻き(Cal.L896.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.3mm)。5気圧防水。59万5100円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
4位:タカノ「シャトーヌーベル・クロノメーター」
素晴らしき復活。国産時計の歴史に名を残す「タカノ」ブランドを浅岡肇の東京時計精密が再興。クラシカルなデザインも良好だが、フランスのブザンソン天文台によるクロノメーター認定のムーブメントも価値ありだ。
自動巻き(Cal.90T)。24石。28800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径37mm)。3気圧防水。88万円(税込み)。(問)タカノ https://takanowatch.jp/
5位:エイレン「タイプ21」
自動巻き(Cal.AM-2)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約63時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ14.77mm)。50m防水。66万円(税込み)。(問)ユーロパッション Tel.03-5295-0411
稀少価値ならこれ。ブレゲによって再び注目される1950年代の仏軍用フライバッククロノグラフだが、エイレンもサプライヤーのひとつ。タイプ21を当時のデザインと最新の手巻きムーブメントで再現するのはこのモデルだけ。
総評
リストアップしているうちに気付いた。2024年も賞賛すべきモデルは数あれど、ん? どれも高額で非現実的ではないか! 小ロットで利益率の高い高額品に力を入れるのは、高級ブランドの昔からのお約束ではあるが、そうした傾向が目立つのは、このところの市場動向もあるのだろう。しかし手が届かない時計ばかり見ていても、楽しいはずはない。そこで選考をリセット。比較的近づきやすい価格で、時計愛好家にとって満足度の高い秀作はないだろうかと。けっこうありましたね、スポーツウォッチから味わい深い復刻まで。
まず注目したのはムーブメント。グランドセイコーは手巻き10振動のハイビートで長時間パワーリザーブ、復刻版タカノはブザンソン天文台によるクロノメーター認定、チューダーはCOSCおよびMETAS認定マスター クロノメーター、ロンジンはシリコン製ヒゲゼンマイと長時間パワーリザーブなど、実用に適した十分な高性能である。
さらに選考で重視した点のひとつは、ブランドの歴史にまつわるストーリーをもっているかどうかだ。時計は趣味の対象であり、嗜好品であると考えれば、語れるストーリーの有る無しで価値も違ってくる。ラインナップは偏っているが、テクニック、エステティック、ストーリーの三拍子がそろい、コストパフォーマンスも良好というこれら5本をひとまず私的ベストとしたい。
菅原茂のプロフィール
1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。休日はランニングと登山に精を出す。