最近、1970年代風デザインの時計が静かなブーム(?)になりつつある。このタイミングだからこそ、自分が所有するオーデマ ピゲのヴィンテージウォッチを再評価してほしい。そんな想いを胸に、クロノス日本版編集部の細田雄人が、誰も見向きもしなかったオーデマ ピゲ版“オヤジ時計”の良さを記載する。
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
編集部細田の秘蔵っ子、ヴィンテージ「オーデマ ピゲ」
webChronosの切り込み隊長より、「編集部が所有するお気に入りの時計」を各自紹介しろとお達しが出て、慌てて原稿を書いている。確かに貧乏人ながらも時計は何本か所有しており、その中にはお気に入りと言えるものもいくつか所有している。真っ先に思いついたのは大塚ローテックの「6号」。しかし6号の記事はwebChronos内で既に時計趣味の大先輩たる堀内氏の素晴らしいレビュー記事が既に上がっており、隊長からは「さすがにもうお腹いっぱい」だと言われてしまった。
https://www.webchronos.net/features/115405/
堀内俊氏による渾身のインプレッション。片山次郎がどのような意図でこの時計をデザインし、実機に落とし込んでいったのかを、着用者の堀内氏が片山本人になりきって考察する。
次に思いついたのはH.モーザーの懐中時計や、ツァイトヴィンケル。ところがこれも、ニッチすぎるから誰も読まないと言われ没。愛してやまないジンの「EZM3」も既に細田所有の個体を使って、佐藤氏がインプレッションしてしまっている。おまけにこれは広田編集長がEZMシリーズとしてアイコニックピースの肖像で紹介し、webで読める状況だ。相手が悪すぎる。
https://www.webchronos.net/features/50360/
運動不足のライター、佐藤しんいちがコロナ禍でミッションウォッチを着用。その使い勝手の良さを伝える。
https://www.webchronos.net/iconic/116200/
『クロノス日本版』広田雅将編集長による、大人気連載。ジンのEZMシリーズを初作「EZM1」から最新作まで振り返る。「EZM16」までの全モデル解説は圧巻。
さて困ったぞ、とぼーっとしていたら、ふと思い出した。まだwebネタにしていない、良い時計があるじゃないかと。それがオーデマ ピゲのヴィンテージウォッチだ。今まで積極的に出してこなかったのは、この時計のことを自身が全く知らないから。1970年代風のデザインと手巻きという構成を気に入り、そしてなによりヴィンテージウォッチながらも堅牢なケースの作りで、これなら安心して着けられると購入したものの、発売年はおろか、リファレンスすら分かっていない。
わざわざ無知を晒す必要もないだろうとwebChronosでネタにしてこなかったオーデマ ピゲの時計だが、70年代風デザインが流行りつつあるこの状況で出さなければいつ出すということで、今回紹介することにした次第だ。
野暮ったいケースと文字盤のヘアラインがキュート
このヴィンテージモデルのCラインと呼ばれるケースの野暮ったさは、今のシャープでスタイリッシュなオーデマ ピゲでは考えられないデザインだ。しかし前述のように、筆者はデザインを気に入ってこの時計を購入している。そう、この野暮ったさがたまらないのである。
1970年代風デザインの面白さは、丸いケースと3つの針の組み合わせでしかなかった従来の意匠をどのように打ち壊し、可能性を広げようとしたか、試行錯誤した様子が見えてくるところにあると思っている。
極端に短いラグも、当時としては大きかったであろうケースサイズも、クォーツ革命後に生き残るべくもがいたオーデマ ピゲの挑戦の証しなのである。
文字盤のヘアライン仕上げも、70年代風を強く感じさせるディテールのひとつだ。3-9時位置方向に入れられる、いわゆる横向きのヘアラインは今でも文字盤でよく見られる仕上げのひとつだが、縦方向のヘアラインは現代の時計ではあまり見られない仕上げだ。
このヴィンテージAPでは、縦と横方向にそれぞれ細かくヘアラインが入れられている。こうすることによって、まるでシルクで作られた生地のようなパターンが文字盤上に生まれるため、金属の塊感のある時計に柔らかなニュアンスを与えることが可能だ。パテック フィリップがこの仕上げを「山東絹仕上げ」と呼ぶのも納得だ。
ロストテクノロジーなんて大袈裟なものではないが、現在、手間もかかるであろうこの仕上げを取り入れているモデルはほとんどない。前述したパテック フィリップが、「年次カレンダー 4947/1A」で採用するくらいではないか。
今こそオヤジ時計が輝く時
これは完全に細田の肌感覚だが、今は1970年代風デザインがちょっとしたブームになる、その少し手前くらいの感じだと思っている。ピアジェの「アンディ・ウォーホル ウォッチ」しかり、オリジナルのデビュー年はちょっと早いけどグランドセイコーの45GSしかり。
加えて世界的なヒップホップ(ファッション)ブームの到来で、金無垢ブレスレットのロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト」のような典型的な“オヤジ時計”も小さい波が来ている。ならば、“70年代風デザインのオヤジ時計”である、このオーデマ ピゲは今こそ注目を浴びる時なのではないか?
現に細田が購入した2021年からの3年間で、この時計の二次マーケットでの価格はじわじわと上昇中。あまりにもサンプルが少ないため、それは相場とは言えないと言われてしまったらそれまでだが、実は気になっている人が増えているんじゃないかなと淡い期待をしている。
もしかしたら「リマスター03」にこの時計が選ばれ、世界中のコレクターがこぞって欲しがる未来が……くるわけないな。でも、この時計が世間から評価されようがされまいが、細田はこの時計を野暮ったいと思いながら愛でていくことには変わらないわけで。
ただ、やっぱりオーナーとしては人気が出て、この時計に関しての情報が世に溢れる方がうれしいとも思っています。そんな未来を待たなくても、この本を読めば色々と書いてあるよ、といった情報があれば是非教えてくれると大変助かります。