2024年9月、グランドセイコーから発表された「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」。1968年に同ブランドから発売された「45GS」を現代によみがえらせたと言える本作は、オールドセイコー好きにはたまらない1本であった。
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年12月10日公開記事]
グランドセイコーの2024年新作「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」
グランドセイコーは2024年9月、ふたつの新作モデルを数量限定で発売した。「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」だ。この2種は、1968年に同ブランドから発売された「45GS」を現代技術で再現していることが特徴である。
手巻き(Cal.9SA4)。47石。36000振動/時。平均日差+5~-3秒。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径38.4mm、厚さ10.4mm)。3気圧防水。世界限定1200本。134万2000円(税込み)
手巻き(Cal.9SA4)。47石。36000振動/時。平均日差+5~-3秒。パワーリザーブ約80時間。18KYGケース(直径38.4mm、厚さ10.4mm)。3気圧防水。世界限定200本。423万5000円(税込み)
「45GS」とは?
1960年、「世界最高級の腕時計を作り出す」という決意の下に誕生した、グランドセイコー。初代モデルの価格は2万5000円と、当時の大卒初任給の2倍近くの値付けで販売された。
その後、1967年に「44GS」をリリース。この44GSは、現在の同ブランドのデザイン文法として受け継がれている「グランドセイコースタイル」を確立したモデルであった。なお、この44GSをベースとした「44GS 現代デザイン」は、現在「ヘリテージコレクション」で展開されている。
44GSが発売された翌年にあたる1968年に登場したのが、今回の限定モデルにおいてオリジナルとなる「45GS」だ。
44GSが、当時の多くの腕時計のように毎時1万8000振動のロービートな手巻きムーブメントを搭載していたことに対し、45GSは毎時3万6000振動と、今なおハイビートに分類されるCal.4520を搭載。このムーブメントはCal.44系に比べて、薄く仕立てられてもいた。
まるでオールドセイコーを手に取るような。雰囲気も再現された限定モデル
そんな44GSをオリジナルとする、ふたつの限定モデル。「現代技術で再現」とグランドセイコーが標榜するように、1968年発表当時の意匠を、今の踏襲していることが特徴だ。
例えば最大の特徴であるケースは44GSの「グランドセイコースタイル」を踏襲しており、ラグから続くケースサイドのラインは少し膨らみを持ちつつ、ポリッシュ仕上げが与えられ、エンドピースはヘアライン仕上げが施される。ポリッシュ仕上げのドーフィン針や切り込みを入れたインデックスなどと併せて、グランドセイコースタイルの醍醐味である「光と影が生み出すコントラスト」を楽しめる仕様となっている。
このケースの「面」を見ると、グランドセイコーの上質な仕事がよく分かる。オリジナルの45GSのスタイルも、もちろん優美だが、この意匠を現代技術で再現するとあって、しっかりと磨かれた面と丁寧なヘアライン仕上げのコンビネーションが際立っており、グランドセイコースタイルを強調する。
もっとも、そういったグランドセイコーの現代技術による“仕上がり”を備えつつ、オリジナルをほうふつとさせる“雰囲気”を持つことに、多くの時計愛好家が引かれたのではないだろうか。
この雰囲気は、「意匠を再現している」ということが大きい。半面、ディテールまで再現されているからこそ、往年の雰囲気まで醸し出せていると言える。
「ディテールの再現」を思わされた最大の点が、ストラップだ。本作には柔らかい、クロコダイル製のストラップが備わっている。最近はしっかりと芯の入ったストラップが多い中で、あえてオールドセイコーに寄せるために、柔らかな革に仕立てているのだろう。なぜ最近の腕時計にしっかりとしたストラップが多いかを考えると、ヘッドの重量が重くなっており、そのバランスを取るためと思われる。しかし本作は手巻きムーブメントを搭載し、かつ大きすぎないサイズ感のケースを有していることから、柔らかなストラップを合わせても快適に着用できる設計となていると予測できる。個人的に、ストラップに「竹ふ」がしっかり出ているのも、昔っぽくて好ましいと感じる要素だ。
ちなみにDバックルではなく尾錠となっているのも、当時の雰囲気を出すことに寄与しているポイントだ。尾錠ももちろんオリジナルを再現しており、梨地パターンの上にSEIKOのロゴがあしらわれている。
手巻きムーブメントCal.9SA4を搭載
もうひとつ、オリジナルの雰囲気として欠かせない要素が、毎時3万6000振動の手巻きムーブメントCal.9SA4を搭載していることだ。Cal.9SA4は4月に開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2024でお披露目された新開発のムーブメントで、本作のために製造されたというわけではない。しかし、コハゼを新規設計してまで主ゼンマイの「巻き味」を追求したこのムーブメントは、オールドセイコーに見られる「カチカチカチカチ……」という、音も感触もしっかりとした巻き上げを楽しめる。
なお、トランスパレント式のケースバックから、このムーブメントを観賞することができる。手巻き機構も分かりやすく、香箱車が回転する様子を眺められるとともに、グランドセイコースタジオ 雫石が位置する岩手県盛岡市の鳥、「セキレイ」をイメージしたコハゼの愛らしい造形が楽しめるのだ。ムーブメントの仕上げも特別で、ストライプ装飾は雫石側の流れを表現している。
「現代技術」によって、フリースプラングテンプやパワーリザーブ約80時間を備えていることも、特筆すべき点だ。
これは欲しいぞ「45GS」復刻デザイン
グランドセイコーの2024年発表モデルのうち、「ヘリテージコレクション 45GS復刻デザイン 限定モデル」を振り返った。
時計ジャーナリストからも、時計愛好家からも高い評価を得ている本作(ちなみに、『クロノス日本版』2025年1月のChronos Top10 Watches Rankings」で「傑作ムーブメント」をお題とした際、本作が3位となった)。45GSのデザインや雰囲気を現代技術で再現し、かつ新開発の手巻きムーブメントCal.9SA4を搭載しているとあって、その評価も納得の1本だ。
グランドセイコーの「進化の歴史」と「今」を感じられる本作は、オールドセイコー好きにとっても、現在のセイコーファンにとっても、所有欲をくすぐられる2024年新作モデルであろう。