ブランドとモータースポーツとの深いつながりを示すアイコンとして、誕生から半世紀以上が経った今もなお、厚い支持を得ている「タグ・ホイヤー カレラ」と「タグ・ホイヤー モナコ」。とりわけ近年は、インパクトのあるデザインを駆使しながらラインナップを拡充してコレクションの魅力を高めているが、それはタグ・ホイヤーが長年にわたって貫くアバンギャルドな姿勢の再訴求にもつながった。
竹石祐三:編集・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
伝統的意匠の再解釈がもたらした、新生カレラのモダンなスタイリング
インスピレーションソースは、1960年代後半に発表されたカレラの第2世代モデル「7753SN」。このモデルの特徴であった、シルバー×ブラックのパンダデザインを踏襲しつつ、グラスボックスデザインを取り入れることでクラシカルとモダンが共存する佇まいに。自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm、厚さ13.86mm)。100m防水。93万5000円(税込み)。
(右)タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ×ポルシェ パナメリカーナ
カレラ パナメリカーナ メヒコにおけるポルシェの初勝利70周年を記念して製作された限定モデル。ポルシェ 550 スパイダーをモチーフとしたカラーリングに加え、特徴的なオープンワークダイアルも同車のホイールに着想を得た意匠だ。自動巻き(Cal.TH20-09)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm、厚さ15.10mm)。100m防水。世界限定255本。536万8000円(税込み)。
1950年代のメキシコで、わずか5回のみが開催された伝説の公道レース、カレラ パナメリカーナ メヒコ。その名称を冠して63年にデビューし、以後、ブランドとモータースポーツとのつながりを示すアイコンとしてのポジションを築き上げたのが「タグ・ホイヤー カレラ」だ。この基幹コレクションが誕生60周年の節目を迎えたのは2023年。同年に発表された新作は、レーシングツールとしての使いやすさを考慮した機能的かつ視認性の高いダイアルや、ケースから大胆に伸びるラグなど、初代カレラが備えていた特徴的な意匠を踏襲しながら、よりモダンなアプローチを取り入れることで、コレクションの新章にふさわしいアップデートを果たした。
とりわけ象徴的なのが、往時のカレラに用いられたグラスボックスを範とした、サファイアクリスタル風防だ。しかも風防をタキメータースケールの曲面に沿うように成形するのみならず、フランジとインデックスにも緩やかなカーブを持たせたことで、あたかもガラスとダイアルが一体化したかのような、フューチャリスティックなルックスを作り上げたのである。
24年のタグ・ホイヤー カレラは、この新奇な意匠をアイコンとしながらコレクション全体の充実を図り、新たなフェーズでの歩みを本格始動させた。中でも象徴的なのが「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」と「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ×ポルシェ パナメリカーナ」だ。前者は、1960年代後半に発売されたカレラの第2世代モデルをインスピレーションソースに、シルバー×ブラックのパンダデザインを取り入れた、コレクションの系譜にダイレクトに連なるモデル。一方の後者は、オープンワークダイアルが目を引くトゥールビヨン搭載モデルで、カレラ パナメリカーナ メヒコで勝利を飾った「ポルシェ 550 スパイダー」に着想を得た、シルバー×イエロー×ブラックの大胆な配色を特徴としている。いずれもグラスボックスを取り入れてモダンなスタイリングへと進化を遂げているが、一方ではカレラのレガシーを現代に伝えるエレメントを配すことにより、コンセプチュアルでひときわ強い存在感を放つモデルに仕上げた。
タグ・ホイヤー カレラの魅力を強めているのはこの2モデルだけではない。特に2024年はトゥールビヨン搭載モデルに力強い作品が加わった。先陣を切ったのは「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」で、色鮮やかなティールグリーンのダイアルでトレンド感を打ち出しつつコレクションに新鮮味を加え、「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ エクストリーム スポーツ」は、ケース両サイドにケースと異なる素材を組み込み、耐久性を高めた構造や、大胆なフレームワークを施したダイアルによって躍動感のあるルックスを提示した。
マガモの頭から首にかけての羽色に由来して名付けられた、鮮やかなティールグリーンのダイアルが印象的。ダイアルにはサーキュラーサテン仕上げが施され、フランジを覆うグラスボックス風防との相乗効果でコンテンポラリーなスタイリングを際立たせる。自動巻き(Cal.TH20-09)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.33mm)100m防水。336万500円(税込み)。
(中・右)タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ エクストリーム スポーツ
エクストリーム スポーツ」は、シリーズのコンセプトにふさわしいビビッドな色調のモデルがラインナップされる一方で、ローズゴールドとブラックを基調としたモデルも用意された。レーシングカーを想起させるフレームデザインが印象的なオープンワークダイアルやタキメーター付きベゼルはそのまま、落ち着いたトーンでまとめることにより力強さとエレガンスが強調された。自動巻き(Cal.TH20-09)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGまたはTiケース(直径44mm、厚さ15.10mm)。100m防水。(中)457万6000円(税込み)。(右)364万6500円(税込み)。
また、クロノグラフモデルではレッドの差し色を施した日本限定バージョンを、3針モデルでは初作の36mmサイズを継承したユニセックスラインを追加するなど、スタンダードモデルの充実ぶりも目を見張るものがある。これまでも多彩なバリエーションを展開してきたタグ・ホイヤー カレラだが、その新章ではあらゆるモデルが現代的なニュアンスを強め、今まで以上にインパクトのあるコレクションにしている。
1963年の初代モデルと同様の36mmサイズを踏襲しながら、ダイアルにマザー・オブ・パール、インデックスに11個、フランジに76個のダイヤモンドをセットしたユニセックスモデル。華やかさと上品さが共存するルックスに仕上げた。自動巻き(Cal.7)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SS×18KRGケース(直径36mm、厚さ10.60mm)。50m防水。95万7000円(税込み)。
(右)タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ ジャパン リミテッドエディション
真っ白なダイアルにビビッドな赤色のサブダイアルを組み合わせ、さらに12時のインデックスとケースバックには24時間や二十四節気を連想させる「24」の数字を配した日本限定モデル。2023年のリニューアル以前のデザインを踏襲しており、すっきりとした表情が際立っている。自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。100m防水。日本限定240本。99万円(税込み)。
ダイアルデザインに込められた、タグ・ホイヤーのアバンギャルドな姿勢
「カレラ」と並ぶ、もうひとつの基幹コレクションに位置付けられているのが「タグ・ホイヤー モナコ」である。誕生したのはカレラの発表から6年後の1969年。この年、世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント3種類がほぼ同じタイミングで発表されたが、そのひとつがホイヤーとブライトリング、ハミルトン-ビューレン、そしてデュボア・デプラの4社共同開発によるクロノマティックーーすなわちキャリバー11であり、このムーブメントを搭載したのが、防水性を持たせた世界初のスクエア型自動巻きクロノグラフモデル「モナコ」だった。そのネーミングはF1モナコグランプリに由来。しかも71年公開の映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが着用したことで、モナコもまた、モータースポーツに結び付くコレクションとして認知されていく。
コレクションが誕生50周年を迎えた2019年、タグ・ホイヤーはこれを記念したイベントを世界各地で開催。それに合わせた数々の限定モデルを発表してファンを驚かせたが、24年もまた、特徴的なデザインはそのままに表情豊かな新作を投入することで、コレクションを華やかなものにした。
その筆頭に挙げられるのが、現代的なルックスにリファインされた「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ」だ。特に目を引くのがオープンワークのダイアルで、コレクションの特徴でもあるスクエアのサブダイアルを踏襲しつつ、スピード感と近未来感あふれる表情を作り上げている。また、ダイアルを彩るダークブルーは初代モデルに対するトリビュートの念が捧げられたカラーだが、新モデルではさらに、F1モナコグランプリの開催地であるモンテカルロ市街地から望む地中海の海岸をイメージした、一段階鮮やかな色合いに仕上げており、これもまた、本作をモダナイズさせた重要なクリエイションといえるだろう。
そしてモナコ クロノグラフの新バージョンは、コレクションの伝統を受け継ぐダークブルーモデルだけにとどまらず、11月にはビビッドなピンクを施した新作も追加された。イメージソースとなったのは、色とりどりのネオンが街全体を彩るアメリカ・ラスベガス。カジノとエンターテインメントで知られる世界的観光地だが、23年にはF1ラスベガスグランプリが開催された場所でもあり、鮮烈なカラーによってインパクトを与えるだけではなく、モータースポーツとのつながりも盛り込んだモデルに作り上げた。
20世紀初頭にイギリスのレーシングカーを彩っていた上品なグリーンをクロノグラフカウンターとストラップにあしらった限定モデル。その新鮮な色使いに加え、左リュウズやホイヤー時代のロゴなど、初代モデルを踏襲した意匠も魅力を放っている。自動巻き(Cal.11)。59石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦39×横39mm、厚さ14.35mm)。100m防水。世界限定1000本。130万3500円(税込み)。
(中)タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ
ダイアルの3時と9時位置に、ビビッドなピンクオパーリンのクロノグラフカウンターをレイアウトした新作。その色使いとオープンワークダイアルによって、眠らない街ラスベガスを表現した大胆なデザインは、先鋭的なモナコのルックスに遊び心を加えている。自動巻き(Cal.TH20-00)33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(縦39×横39mm、厚さ15.2mm)。100m防水。予価160万6000円(税込み)。
(右)タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ
オリジナルのスクエアフォルムとブルーのアクセントカラーを継承しつつ、モナコの新時代を告げるかのようなオープンワークダイアルが目を引く2024年モデル。ケースにはブラックDLC加工が施されたグレード2チタンを採用し、軽快な装着感を約束する。自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(縦39×横39mm、厚さ15.2mm)。100m防水。157万3000円(税込み)。
一方で、オリジナルに範を取ったクラシカルなモデルもラインナップを拡充させている。「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ レーシンググリーン」はそのひとつ。20世紀初頭から1960年代までのレーシングカーがナショナルカラーで彩られていた歴史を踏まえ、2023年の「モナコ クロノグラフ レーシングブルー」では、往時のフランスの車体に着想を得たブルーをまとっていた。本作はその第2弾で、英国のレーシングカーにオマージュを捧げた色鮮やかなグリーンをアクセントとし、モナコに新鮮味を与えている。
ユニークなカラーやデザインワークをダイアルに取り入れることで、カレラと同様に同時代性を強めているタグ・ホイヤー モナコ。それは、アバンギャルドな精神が今もなお受け継がれていることの表れでもある。