憧憬×2のゼニス「パイロット オートマティック ポーター エディション」を着用レビュー!

2024.12.12

2024年10月、スイスの時計ブランドZENITH(ゼニス)と、日本が誇るバッグブランドPORTER(ポーター)のコラボレーションモデルが誕生した。世界500本限定の「パイロット オートマティック ポーター エディション」に選ばれたモデルは、2023年にリニューアルを果たした「新生パイロット」。“有名人同士”のコラボレーションは、どんなモデルに結実したのだろうか? そのインプレッションをお届けする。

ゼニス パイロット オートマティック ポーター エディション

小泉庸子:文・写真
Text & Photographs by Yoko Koizumi
[2024年12月12日公開記事]


憧憬×2がやってきた!

 それは1985年あたりのことだったと思う。友人に連れられて、東京・自由が丘のかばん屋を訪れた。いわゆる「街のかばん屋さん」で、有名無名を問わず、いろいろなメーカーのバッグが並んでいて、店の一番いいところに吉田カバンのコーナーがあった。

 そこで、友人になんと言われたかの詳細は覚えていないが、とにかくポーターは良いバッグであること、注目しておいた方がいいことなどを私に説明してくれた。

 1983年に誕生した「タンカー」シリーズがいくつか並んでいて、その翌年に出た「ラゲッジレーベル」があり、素材が面白いと感じたこと、しかしどれも当時の私にとって驚くほど高く、「とても手が出ないな」と思ったことを覚えている。

 友人は『メンズクラブ』や『ポパイ』、『ホットドッグプレス』などを読み込んでいて、また、おしゃれな友人も多かったので、当時の流行に精通していて、時折、そうして新しいブランドを教えてくれた。そしてそれらはその後、例外なく人気ブランドになっていったので、先見の明があったのだろう。その後は編集者となった私の、良き情報源となってくれた。

 1980年代後半はバブル経済へと向かっていて、有名ブランドのネックレスを求めて長蛇の列を作る若者たちの姿が当たり前のように見られたことから思えば、結構、世の中は浮かれていたんだろう。私はまだ働いていなかったので、バブルの実感はなかったけれど。そんな中で、ポーターは「浮かれていない」ところにいるブランドとして印象に残っている。

 ここまでダラダラと書き連ねたのは、私にとって、そして広くアラカン世代にとっても、ポーターは「憧憬の的」であったということを理解していただきたいからだ。

 そして、ゼニスである。これも同様にアラカン世代にとっての憧憬の対象ではないだろうか。

 出版社に入社して、時計の編集部に異動。そこで単なる品番ではない、「エル・プリメロ」という固有の名を持つムーブメントに出会う。

「なんでこれだけ、名前なのよ?」

 普通は「オメガの『スピードマスター』がほしい」とか、「ロレックスの『デイトナ』がほしい」とか、「ブライトリングの『ナビタイマー』がほしい」など、ブランド+シリーズ名で時計を言うところに、それらを取っ払って、いきなりのムーブメント指名である。

 釈然としなかったが、徐々に「エル・プリメロ」への時計愛好家の想いを知るようになると、納得せざるを得ない名機であることを知る。もちろん、今も多くのブランドから画期的なムーブメントは登場しているけれど、どうも「エル・プリメロ」に匹敵するものは表れていないように思う。アラカンには同意いただけるのではなかろうか。

 前置きが非常に、非常に長くなってしまったが、若き日の憧憬がふたつ一緒にやってきたのが、コラボレーション限定モデル第1作の「パイロット オートマティック ポーター エディション」というわけである。

ゼニス パイロット オートマティック ポーター エディション

ゼニス「パイロット オートマティック ポーター エディション」Ref.49.4001.3620/63.I001
「エル・プリメロ 3620」を搭載した「パイロット オートマティック ポーター エディション」。ドーム型サファイアクリスタルガラスには、両面無反射コーティングが施されている。また、ワンタッチで着け外し可能なインターチェンジャブルストラップ2本が付属(左はブラックPVD仕上げがされたスチール製フォールディングバックル付きのコーデュラ・エフェクト カーキラバーストラップ、右はコラボレーションオリジナルのカーキナイロンファブリックストラップ)する。自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3620)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径40mm)。10気圧防水。世界限定500本。149万6000 円(税込み)。


年を重ねても、カーキ色!

「パイロット オートマティック ポーター エディション」のベースとなっているのは、2023年に全面リニューアルを果たした「パイロット」コレクションだ。

 このリニューアルで採用したのが、新しいケースデザインだ。ステンレススティール製もしくはセラミックス製のケース・ベゼルの2タイプが用意され、特徴となっているのがタフな印象を与えるケース上に供えられたフラットトップ ラウンド型ベゼルである。また、リュウズは手袋をしたままでも行いやすい操作性はそのままに、よりモダンで角ばったフォルムに仕上げられている。

 もうひとつの特徴は横方向に溝が刻まれた文字盤だ。これは、古い航空機の機体を構成する波型のメタルシートをイメージしたもので、パイロットコレクションのアイコニックなデザインとなっている。

 6時位置にある「PILOT 」の文字、実はゼニスにのみ記載が許されていることをご存じだろうか。ゼニスは1888年にフランス語の「PILOTE」、1904年には英語の「PILOT」を商標登録している。ちなみにライト兄弟が人類初の有人飛行に成功したのは1903年のことだから、新たな場所を開拓していこうというゼニスのモノづくりの精神性が見えてくる。

 採用される数字は、1900年代初頭からゼニスのパイロットウォッチやダッシュボード計器に使われてきた、オーバーサイズのアラビア数字だ。時針・分針・秒針とともにスーパールミノバ®︎SLN C1が塗布され、暗所でもその視認性は格別だ。

ゼニス パイロット オートマティック ポーター エディション

スーパールミノバにより、抜群の視認性を確保している。

「パイロット オートマティック ポーター エディション」では、素材にセラミックスを採用。色はポーターのシグネチャーカラーでもあるカーキ色をチョイスしている。セラミックスではブラック系やブルー系などはよく見るが、カーキ色は珍しく、パイロットコレクションでも初の試みだという。

 最初、ケースから出した時、非常によくできたプラスチックかと思った。しかし手に取ってみると、当然ながらさにあらず。マイクロブラスト仕上げが施されており、プラスチックのような濁った反射がないのだ。これだけ強い太陽光を当てても、光を吸収しているのがお分かりになるだろう。

ゼニス パイロット オートマティック ポーター エディション

マイクロブラスト仕上げより、非金属の特性を生かした質感が得られている。文字盤とともに光を反射せず、視認性の高さは抜群だ。

 また、文字盤も同じカーキカラーに統一されているが、ケースの色よりも彩度と明度が抑えられ、かつマットに仕上げられているので、こちらも反射がなく、落ち着いた印象になっている。

 実はカーキ色は年齢を重ねると着こなすのが難しい色になっていく。「若いからこそ、カーキのように微妙にくすんだ色も似合う」のであって、今回も「う~ん、カーキか~」と前向きにはなれなかった。

 しかし。しかし、である! このモデルでは悪目立ちしないのである! 素材の質が良いことが最大の理由ではあるが、カーキ色に対して前向きな気持ちにさせてくれたことは確かだ。こういう機会でもないと、思い込みを払拭することは難しい。ありがとう、「パイロット オートマティック ポーター エディション」。


良い時計ってこういうところで分かる!

「パイロット オートマティック ポーター エディション」のケースは直径40mmと、ちょうど良いサイズである。また、文字のサイズや日付表示なども含めてのバランスの良さも、時計の本質をよく知るゼニスと感心させられた。

 また手首に載せた時に偏りもなく、すっと装着できる。こうした何でもない行為がスムーズで、ムーブメントの良さが感じられるわけだが、さすがの「エル・プリメロ」である。「クロノグラフじゃなきゃ、エル・プリメロじゃない」という向きもあろう。出自をたどればそうかもしれない。しかし運針もスムーズで美しく、リュウズを引いた途端にピタッと秒針が止まる様は気持ちがよく、時刻合わせの際のリュウズの回転と針の進み具合のバランスもちょうどいい。これがエル・プリメロでなくて、なんなのか。

「良い時計って、こういうところなんだよな」と独り言ちる。

 ただし、名門ウォッチメーカーの実力はストラップにもあった。こんなに簡単に取り外しができるのかと驚愕。いや驚いたというよりも、唖然という方が近いくらい。写真を見ればお分かりになる通り、プッシュボタンも大きく、不器用な指先でもどうぞどうぞと受け入れてくれる。

ゼニス パイロット オートマティック ポーター エディション

ワンタッチで着け外し可能なインターチェンジャブルストラップ。大きめのプッシュボタンにより、装着は簡単だ。

 そしてうれしくて何度も着けたり、外したりを繰り返してしまったけれど、そのたびにしっかりした操作性にも感心した。ともすると小さいパーツは精度が甘くなり、遊びが生じるなど、操作に確実性が感じられない場合があるが、そんな心配はご無用である。残念ながら、ポーターのロゴ入りのストラップを使うことは叶わなかったが、すぐに取り換えられることは容易に想像できた(編集部注:今回小泉氏にインプレッションを依頼した個体が、コーデュラ・エフェクト カーキラバーストラップが付いたモデルであった)。

 同様のことはストラップに付属するフォールディングバックルにも言える。バックルの開閉はサイドにつくプッシュボタンを押せば良いのだが、これがまたよくできている。いろいろバックルはありますが、これはノーストレス。本当に素晴らしい!

 そしてもうひとつ。ストラップにはコーデュラの型押しが施されたラバーを採用しているが、これがラバー特有の跳ね返りがなく、手首への馴染みがいい。後からリリースを読んで、ラバーと気付いたほどだ。

「良い時計って、こういうところでも分かるんだよな」と、再び独り言ちる。

 針に使われているオレンジは、ポーターのバッグの内部に使われているシグネチャーカラーであり、ゼニスは文字盤でもポーターを表現している。

 当初はゼニスとポーターのコラボモデルと聞いて、共通点はどこだろうと考えたけれど、使ってみるとモノづくりの姿勢が同じなんだと気が付いた。吉田カバンの社是は「一針入魂(いっしんにゅうこん)」。ひと針ひと針を丁寧に縫い合わせていく作業のように、素材選びからデザイン、縫製にいたるすべての工程に手を抜かないという姿勢は、ゼニスからも伝わってくる。「パイロット オートマティック ポーター エディション」は単なるコラボウォッチではなく、互いのモノづくりが感じられる良い時計でした。

本作のウォッチボックスには、ポーターがデザインしたオリジナルショルダーバッグが付属。バッグの内装・外装ともに小物や工具を収納できる多数のポケットを備え、細部まで凝ったディテールは、実用性を重視したポーターらしいデザインだ。バッグの外側はポーターのシグネチャーカラーのひとつであるカーキに、内装はゼニスのための特別仕様として、夜空を思わせるマニュファクチュールのシグネチャーブルーに仕上げられる。バッグにはポーターとゼニスのロゴがあしらわれたオリジナル巾着が付属する。



Contact info: ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861


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