最も有名なムーブメントのひとつ「エル・プリメロ」。50年以上にわたってゼニスの基幹ムーブメントとして活躍してきたこの技術遺産は、復刻時計に他社にはないキャラクターを与えた。
「A386」のデザインを踏襲する「クロノマスター オリジナル」の最新作。オリジナルのCal.3019PHFと同様の文字盤レイアウトとなっているが、6時位置のカウンターは12時間積算計ではなく60分積算計。ムーンフェイズが同軸に配される。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース( 直径38mm)。5気圧防水。191万4000円(税込み)。
Photographs by Masanori Yoshie
鶴岡智恵子(本誌):文
Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]
ゼニス「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」
1969年、ゼニスが生み出したムーブメント、エル・プリメロ(Cal.3019PHC)。このエル・プリメロを搭載した初期モデル「A386」の意匠を、現代の技術で復刻した「クロノマスター オリジナル」は、他社には真似できない優位性を持つ。各社が過去の製品の意匠を〝復刻〞させる中、ゼニスの“復刻”は外装の再現にとどまらないからだ。
本作は、クロノマスター オリジナルに、日付、曜日、月表示の小窓と、ムーンフェイズを配した最新の「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」である。エル・プリメロは、1969年の誕生当初からトリプルカレンダーとムーンフェイズが組み込めるように設計されており、実際に製品化されたCal.3019PHCが、本作のアーカイブとなる。
なお、エル・プリメロは、最初期の自動巻きクロノグラフとして知られている。1960年代、各社が開発に鎬を削りながら、容易に実現し得なかった自動巻きクロノグラフ。ゼニスはクロノグラフの伝達に、自動巻き機構のスペースを確保しにくいキャリングアーム式の水平クラッチを備えつつ、小型のリバーサーを採用することで、開発を成功させた。
本作には、その誕生から50周年の節目に登場した後継機をベースとする、エル・プリメロ3610が搭載される。10秒で1周するクロノグラフ秒針によって、精密な1/10秒まで計測できる、最新ムーブメントだ。一方で、古典的な設計のエル・プリメロを採用し続けることで、ゼニスの復刻時計はデザインのみならず、ムーブメントもオリジナルの直系という独創的な存在となったのだ。
技術遺産を尊重しつつ、“遺産”で終わらせないゼニスによるエル・プリメロの伝説は、これからも続いていく。