2024年を代表する1本を『クロノス日本版』/webChronos編集長広田雅将が勝手に選出。今年の1本は「時針の単独調整機能」と「日付の瞬時送り」を組み合わせた、チューダーのGMTウォッチ「ブラックベイ 58 GMT」に決定! と思いきや、広田の心は揺れている様子⋯⋯。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2023年12月13日公開記事]
海外取材で大活躍! 「時針の単独調整機能」と「日付の瞬時送り」の組み合わせ
年末のお題として、2024年のベストを挙げろと言われた。メカで考えると、カルティエの「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」とグランドセイコーのいわゆる白樺の手巻き、デザインならばオーデマ ピゲの「リマスター02 オートマティック」、あるいはクレドールの「ロコモティブ」だろう。「45GS」の復刻版は文句なしだが、今さら買える時計じゃない。広田の買えそうな金額で考えると、残ったのはチューダー「ブラックベイ 58 GMT」となる。
この時計については再三書いてきた。そもそも筆者は、ロレックス流のGMT以外は普段使いに向かない、と思っている。リュウズを一段引き出して短針を単独調整できるこのGMTは、すぐに現地時間に合わせられるだけでなく、短針の動きに連動して日付を進め、戻すことが可能だ。今や自社製ムーブメントを載せるGMTウォッチが、ロレックス流になったのは当然だろう。
そこに、日付の瞬時切り替えを付けたのが今年のブラックベイ 58 GMTとなる。筆者の知る限り、時針の単独調整機能と日付の瞬時送りを組み合わせた時計は、グランドセイコーの「SBGN027」と「SBGN029」、それとチューダーのGMTに新しく追加されたブラックベイ 58 GMTの3つしかない。日付だけの単独修正機能はないが、どの時間でも日付を調整できるから、時計を壊す心配がない。
自動巻き(Cal.MT5450-U)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.8mm)。200m防水。64万3500円(税込み)。
ブラックベイ 58 GMTは、「ブラックベイ GMT」と同じ機能を載せているのに、ケースの直径は2mm減の39mm、厚さは1.8mm減の12.8mmしかない。ブレスレットにはテーパーが付いているけど、裏蓋が平たく、ブレスレットには“T-fit”クイックアジャストクラスプが付いているため、腕馴染みは良さそうだ。いわゆる“裏スケ”、トランスパレントバックでないことを残念がる意見もあるが、チューダーはソリッドバックだからこそ良いと思っている。これぞ実用時計じゃないか。
加えて言うと、これはマスター クロノメーター規格を通っているため、1万5000ガウスという強い磁気にも耐えられる。つまりこのGMTウォッチはどこでも使えるのである。さすがに温泉はダメそうだけど。
仮にこの時計を買ったら、海外取材ではめちゃくちゃ役立つはずだ。一応、日本と海外の時差は頭に入っているけど、お酒を飲みすぎたり、寝不足だったりすると頭が混乱する。そんなとき、単独24時間針を持つGMT時計があれば、情報解禁時間と日本時間のズレがすぐ分かる。パテック フィリップの「ワールドタイム」、しかも日付表示の備わった最新作はいっそう便利そうだが、価格を考えると筆者には現実的でない。それに強盗に時計を取られるのも怖いし、そもそも走ったり叫んだりが当たり前の海外取材では、金無垢の高級時計なんて着けてられないのである。
「ペラゴス FXD」のGMT仕様もよいかも⋯⋯
じゃあめでたしめでたし、とはならないのが困ったところだ。というのも、今年の秋、チューダーは「ペラゴス FXD」にGMTモデルを追加したのである。直径は42mmと大きいが、ケースの厚みはより薄い12.7mmで、しかも外装はステンレススティールではなく軽いチタン製である。これもマスター クロノメーター規格を通っているし、ベゼルのインサートはアルミではなくセラミックス製、加えてストラップはバネ棒のない引通しとなっている。つまり、こちらのGMTは、より良心の呵責なく、温泉に浸けられるんじゃないか。実際そんな人はいないだろうが、筆者はぜひそうしたいし、なんだったらアイスランドの温泉に持っていきたい。
自動巻き(Cal.MT5652-U)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.7mm)。200m防水。65万1200円(税込み)。
話を戻したい。ちょっとぐらぐらしてしまってるが、2024年の暫定ベストは、ブラックベイ 58 GMTになるだろう。機能と価格を考えれば、これはかなり良い選択じゃないか。唯一の問題は、入手が難しいこと。人気があるのは納得だが、もう少し数が増えてくれればありがたい。ちなみに、クロノス日本版の最新号では、この時計も改めて取り上げています。ご興味のある方はぜひお求めください!