センスの良い時計はコレだ! 『クロノス日本版』編集部が選ぶ、おすすめモデル10選

FEATUREその他
2024.12.13

時計専門誌『クロノス日本版』編集部のメンバーが、決められたお題に沿っておすすめモデルを選ぶ。今回のテーマは、「センスの良い時計」。メンバーは編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、編集の細田雄人、鶴岡智恵子、大橋洋介である。

ハイセンス 時計


『クロノス日本版』編集部おすすめの、センスの良い時計

 時計専門誌『クロノス日本版』の編集部が、テーマに沿って各自ふたつずつ、おすすめの時計を選ぶ「編集部おすすめ」連載。今回は「センスが良い」という、多分に主観的で、しかも時計愛好家の数だけさまざまなモデルが挙げられそうなテーマを設けた。

 日常的に時計を取材して、時計について日々勉強し続けているクロノス編集部が思う「センスの良い時計」とは? 選出メンバーは編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、編集部の細田雄人、鶴岡智恵子、大橋洋介である。


編集長・広田雅将おすすめの「センスの良い時計」

 時計ハカセ・広田雅将がオタク目線で選ぶ「センスの良い時計」は、オーデマ ピゲ「リマスター 02 オートマティック」とエクセルシオパーク「EP 884-SI」だ。

オーデマ ピゲ「リマスター 02 オートマティック」

オーデマ ピゲ リマスター 02 オートマティック Ref. 15240SG.OO.A347CR.01

Photograph by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
オーデマ ピゲ「リマスター 02 オートマティック」Ref.15240SG.OO.A347CR.01
自動巻き(Cal.7129)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18Kサンドゴールドケース(横41mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。世界限定250本。682万円(税込み)。

 センスの悪い広田に、センスの良い時計を聞かれてもなあと思ったけど仕事だから仕方ない。まず挙げたいのは、オーデマ ピゲの「リマスター 02 オートマティック」だ。これは、1960年にごく少数製造したモデルのリプロダクション。アシンメトリーなケースは、なんと全面サテン仕上げである。

 普通、サテン仕上げは紙ヤスリで施す。浅く施すと筋がきれいに入らないし、深く施すと角がダレてしまう。だから、多くのサテン仕上げのケースは、サテンとサテンの接するところにポリッシュ仕上げを加えている。きれいに見せるためでもあるが、ダレた角をうまくごまかすためだ。

 オーデマ ピゲは、ロイヤル オークのケースでほぼ全面サテンを実現した。しかも、サテンとサテンの間にはほとんどポリッシュを加えていない。時計のケースとしては途方もないレベルにあるが、リマスター 02 オートマティックはもう一段上なのだ。正直、どうやって作ったか筆者に想像できない。

 こういう時計をさらっと選んで、しかも傷つけないように扱うのは、かなりセンスが良いんじゃないか。この時計を普段使いできるような人は、無条件で尊敬します。それこそクロノスで勲章をあげたいぐらいには。

エクセルシオパーク「EP 884-SI」

エクセルシオパーク EP884-SI 01

エクセルシオパーク「EP 884-SI」Ref.95017M20
手巻き(Cal.ランデロンL21)。17石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径38mm、厚さ9.45mm)。10気圧防水。15万9500円(税込み)。

 誰にも気付かれず、自分だけがニヤけるというのはオタク的にはセンスが良い。で、これを突き詰めると、普通の時計をさらっと着ける、になるんじゃないか。何しろ誰も分からないのだ。レマニアのクロノグラフとIWCの「パイロット・ウォッチ」を愛用するナイジェル・ケーボンの気持ちはちょっと分かる。グランドセイコー(のRef.SBGW305)、バルチック、ノモス グラスヒュッテ、プリム、フレデリック・コンスタントにレイモンド ウェイル。そしてイエマとクロノトウキョウ、最近ならFukushima Watch。

 素敵な選択肢はいろいろあるけど、今回はエクセルシオパークの地味な3針を選んだ。今時あり得ないほどパッとしない時計だが、よく見ると作りは悪くない。時針と秒針は丁寧に曲げてあるし、文字盤とケースもぴったりくっついている。ふにゃふにゃなストラップも、1940年代風と思えば決して悪くない。そのくせ防水性能は10気圧もあるから、容赦なく使える。一般的な基準でのセンスの良さとは明らかに違うが、オタク的な視点で言うと、これは間違いなくセンスの良い時計じゃないか。誰も認めないだろうけど、僕がそう思ってるからいいのです。

 というわけで、筆者はこの時計を買った。自分にセンスがあるとは全く思わないが、自分だけがニヤけられるというのは素晴らしい。年末年始、自分の世界に沈思したい人はぜひ。15万9500円だから、サラリーマンでも買える金額だしね。


副編集長・鈴木幸也おすすめの「センスの良い時計」

 2025年に20周年を迎える『クロノス日本版』の、創刊号から編集に携わってきた副編集長・鈴木幸也が選ぶ「センスの良い時計」は、パテック フィリップ「CUBITUS」とカルティエ「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」である。

パテック フィリップ「CUBITUS」

パテック フィリップ CUBITUS Ref.5821/1A

パテック フィリップ「CUBITUS」Ref.5821/1
自動巻き(Cal.26-330 S C)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(10時~4時の直径45mm、リュウズを含む9時から3時の幅44.5mm、ラグとラグの長さ44.9mm、厚さ8.3mm)。3気圧防水。653万円(税込み)。

 今回のお題は「センスの良い時計」。ある意味、非常に主観的なテーマだが、他者におすすめするのであるから、この腕時計をしていたらセンスが良いな、と思うモデルをつらつらと考えてみた。

 熟考した結果、今最も注目を集めている旬な腕時計に、文字通り“センスの良い”モデルがあったので、ご紹介したい。パテック フィリップが四半世紀ぶりに発表した、まったく新しいコレクション「CUBITUS」の最もシンプルなステンレススティールモデルだ。

 2024年10月17日に発表されて以来、SNSを中心にさまざまな意見が飛び交うことからも分かるように、画像を見ただけでは評価するのが難しいモデルだ。自分自身、実機を見ずに画像だけで判断するのは、ただの「主観的な感想」に堕してしまうので、評価を保留してきたのが正直なところだ。

 去る12月3日、日本で「CUBITUS」の展示会が開催され、プラチナ、SS×18KRGコンビネーション、ステンレススティールの3モデルの実機を初めて手にして、やっとその実像を語ることができるようになった。画像ではかなり大きく、かつ大味にも見えたが、実機の「CUBITUS」はバランスが良く、装着した際のフィット感も非常に自然に手首になじむ。

 最初にRef.5822Pを着けてみた。プラチナケースだけあって、それなりの重量感があるが、厚さが9.6mmと10mmを切っており、かつケースサイズ45mm(10時~4時の直径)に対して、ラグがケースと一体化しており、全長が見た目以上にコンパクトなため、手首への収まりが良く、これならフォーマルなシャツを着ていても袖口の邪魔にはならないことが容易に想像できた。

 その後、ステンレススティールモデルのRef.5821/1を試着したものだから、一層装着感は良好であった。SSモデルは厚さも8.3mmとPtモデルよりもさらに薄いから、輪をかけて腕なじみが良く、かつ軽量だ。角型ゆえに、言うまでもなく、フォーマルなスタイルにもよく合うが、SSブレスレットのため、インフォーマルな服装やシーンにも幅広くコーディネートできる。

 パテック フィリップ社長のフィリップ・スターン氏が「長年、スクエアな時計が欲しかった」と語り、満を持して発表された新コレクションの「CUBITUS」。加えて、スターン氏が「このモデルはアクアノートやノーチラスのいとこ」と明言するように、ノーチラスの系譜にあるこの意匠は、一部で議論を巻き起こしたが、実機を手にして初めて実感できた。これは確かに“新しい個性”だと。

 ケースサイズ45mm(10時~4時の直径)の角型で、確かに大きなケースながら、10mmを切る薄さとケースと一体化したラグゆえに、しっくりと手元に収まり、かつ一見ノーチラスのようで、しっかりと角型を主張し、パテック フィリップらしい存在感を放っている。

 この腕時計をしていたら、間違いなく手元に釘付けになってしまう。

カルティエ「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」

カルティエ プリヴェ トーチュ

カルティエ「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」Ref.CRWHTO0007
手巻き(Cal.1928 MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。18KYGケース(縦43.7×横34.8mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定200本。805万2000円(税込み)。

 もう1モデル、「センスの良い時計」として思い浮かんだのが、カルティエ「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」だ。1928年に発表されたモノプッシャークロノグラフを復活させただけあって、見た目はクラシックながらも、中身は現代のカルティエが自社開発したクロノグラフムーブメントCal.1928 MCを搭載している点もポイントだ。

 古典的な外装と、今やマニュファクチュールであるカルティエだからこそ開発できた機械式クロノグラフムーブメントの組み合わせは、見た目も中身も本当にセンスが良い!と胸を張って太鼓判を押すことができるモデルだ。

 しかも、古典的な意匠のクロノグラフと言いつつも、一般的なラウンドシェイプではないところに、ハイジュエラーを出自とするカルティエらしい“美徳”が最も象徴されているのだ。

 この腕時計は、あえて「センスが良い時計」なんて言う必要がないほど、イカしているのだ。


細田雄人おすすめの「センスの良い時計」

 編集部のメンバーのうち、最も多趣味で物欲も強め(!?)の細田雄人が選んだ「センスの良い時計」は、ブレゲ「クラシック ミニッツリピーター 7637」とTASAKI「FACE OF TASAKI」である。

ブレゲ「クラシック ミニッツリピーター 7637」

ブレゲ「クラシック ミニッツリピーター 7637」

ブレゲ「クラシック ミニッツリピーター」Ref.7637BR/2N/9ZU
手巻き(Cal.567/2)。31石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ12.35mm)。非防水。4183万3000円(税込み)。

 ハイセンスな時計という過去最大に難しいお題に、随分と悩んでしまった。1本目は自分の中で「ひと目見て特定のブランド or モデルであると分かる確立した個性」と、「シンプルさ」を高い次元で両立している時計の中から選ぼうと決めた。ということで、この2要素を持ちながら、さらにはハイコンプリケーションまでを載せているモデルとして、「クラシック ミニッツリピーター 7637」を個人的に推したい。

 ラウンドケースに針が2本だけ。あとはブランドロゴとインデックスなど、時計として最小限の構成ながら、誰がどう見てもブレゲのクラシックと分かる圧倒的な個性。そして、ここまでシンプルな見た目ながらミニッツリピーターという超複雑機構をさらっと載せてしまっているという事実。この巧みなパッケージングは、ハイセンスと言って差し支えないだろう。

 18KRGケース+ブラックダイアル仕様をブラックタイに合わせてパーティーに出席し、時刻を知るときは文字盤を見ずに音で確認する。自分とは住む世界が違いすぎるほどにハイセンスなおじさまは、かっこいいに違いない。

TASAKI「FACE OF TASAKI」

TASAKI FACE OF TASAKI

TASAKI「FACE OF TASAKI」Ref.WAC-0122
自動巻き(Cal.FK:μ:T001)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(縦35.6×横24mm、厚さ6.2mm)。5気圧防水。357万5000円(税込み)。

 時計専業メーカーとは異なる、独特の意匠が魅力的な宝飾ブランドの時計には、ハイセンスなモデルが多いように思える。中でも個人的に注目しているのが、TASAKIの「FACE OF TASAKI」だ。レクタンギュラーのケースに細長いラグが生えているデザインは、見慣れたようで新鮮。相反する感想を抱かせながら、これっぽっちも違和感を覚えさせないところに、同作のハイセンスなデザイン性を感じさせる。

 文字盤に目を移せば、一見、スモールセコンドかと思いがちな謎の円がある。これは日の裏側に配された自動巻きローターの上に貼られた真珠モチーフで、ローターの動きに合わせて回転するギミックとなっている。この仕掛けと裏蓋側からムーブメントを見た時の“どう見ても手巻き”感。このような遊び心感じさせるひらめきは、保守的な時計専業メーカーでは決して思い浮かばないだろう。

 ブランドの象徴たる真珠をテーマに、シンプルなのに全く新しいデザインと、全く新しいギミックを与え、見事なドレスウォッチを作り出したTASAKI。掛け値なしにハイセンスでかっこいい時計だ。


鶴岡智恵子おすすめの「センスの良い時計」

「おしゃれな時計を買おう」と思いつつ、いつも渋めのセンター3針時計(これだってオシャレだけどね)を買いがちな編集部の鶴岡智恵子が選ぶのは、パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」とジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」だ。

パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」

パテック フィリップ 新作 ゴールデン・エリプス 5738/1

パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」Ref.5738/1
自動巻き(Cal.240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(縦39.5×横34.5mm、厚さ5.9mm)。3気圧防水。951万円(税込み)。

 「編集部おすすめ時計」の連載のお題は、いつも私が決めている。読者からのリクエストに応えたり、作成時の時計市場におけるトレンドを考慮したりして決めることが多いのだが、今回はこのパテック フィリップから2024年にリリースされた「ゴールデン・エリプス」を勧めたいがゆえに、そして本作を目にしてまず「センス良すぎ!」と思ったがゆえに、無理やり(皆さんごめんなさい)「センスの良い時計」をお題としてしまった。もっとも、普段さまざまな時計を目にするクロノスメンバーが、どんなデザインやコンセプト、あるいは機能を「センス良い」と感じているのか、知りたかったということもある。

 さておき。ゴールデン・エリプスは1968年に、パテック フィリップから登場した腕時計だ。薄いオーバル型のケースは今見ても独創的で、決して派手ではないのに、一度見たら忘れられない腕時計のひとつである。その後ゴールデン・エリプスは、この誕生当初のデザインを受け継ぎつつ、時代とともにアップデートされる中で、たくさんのバリエーションが用意された。このバリエーションの中にあったミラネーゼブレスレットのモデルが、2024年、現代技術でよみがえった。掲題のRef.5738/1だ。

パテック フィリップ ゴールデン・エリプス Ref.5738/1

発表会で撮影させてもらった、新しいゴールデン・エリプスのブレスレット。オールドウォッチの“金ブレス”の雰囲気を楽しめつつ、新開発の技術によってコマを外して調整できる。手触りがよく、可動部分は滑らかで、改めてパテック フィリップの、パッケージングがいかに完成度が高いか、思い知らされた。

 アイコニックな角形ケースにドレッシーな“金ブレス”と、センスの良さにあふれるこのモデル。ただハイセンスなだけではなく、実用性に配慮されているという点でも、非凡な1本となっている。

 というのも、編み込んで製造するミラネーゼブレスレットをはじめ、昔のメタル製ブレスレットには、カットしなくてはならないものが結構あった。特にレディース向けの、ドレッシーな“金”ブレスに多く、デザインや雰囲気は好きなのに、購入をどこか躊躇していた。後年、広田が書くところによると、ミラネーゼブレスレットの終端に普通のコマを連結させて調整できる仕様としたモデルが出てきたようだが(参考記事:https://www.webchronos.net/features/113956/)、本作は一見するとミラネーゼ風なのに、編み込むのではなく、水平方向のピンで連結させることで、カットすることなく手首回りに合わせてブレスレット調整することが可能なのだ。

 なお、このブレスレットはドイツのハイジュエラー・ウェレンドルフが設計・製造し、特許も取得しているとのこと(この情報も、広田の記事で知った)。新作展示会で見た本作のブレスレットは滑らかで優美で、昔見たゴールデン・エリプスのミラネーゼブレスレットモデルの雰囲気そのままで、懐かしくなるとともに、絶対にこのモデルを何かの記事で取り上げようと決意して、本企画に至る。

 ジャケットの袖口からゴールデン・エリプスをさりげなくのぞかせる……そんなシーンを想像するに、センスの良さしか感じられない。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」Ref.Q7168420
手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦40.1×横24.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。139万9200円(税込み)。

 細田も記しているが、時計において「センスが良い」と考えた時、シンプルなのにひと目でそのブランドの製品であると分かる、アイコン的な性格を備えていることが大切ではないかと思った。その点で、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」は、まさにセンスの“とても”良い時計だ。

 他社も手掛けているものの、時計市場のシェアは丸型には及ばない角型ケースに、さらに「くるっとひっくり返す」というギミックを与えられたレベルソ。シンプルながらも、ラグとケースがつながった直線的なラインや、ケースに合わせて長方形に作られた文字盤は、一度見たら忘れられない独創性にあふれている。奇抜さがないのに個性的って、実はとても難しいことだ。

 そんなレベルソはジャガー・ルクルトで最も有名なコレクションだけあり、非常に多彩なバリエーションが展開されている。

 ケースをひっくり返すと、また別の文字盤が表れる“デュオ”や、ムーンフェイズを搭載したモデルも良いけど、選んだのはThis is the シンプルウォッチ! な、「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」。2024年10月に発表された新作モデルで、ノンデイト、秒針すら持たないというミニマルなレベルソだ。レベルソは1931年、ポロの激しい試合中、風防が壊れないよう、ケースを反転させられる腕時計として誕生した。この1931年に製造された初期モデルに近い、小径な縦40.1x横24.4mm、厚さ7.56mmというサイズ感も、時計的「センスの良さ」に寄与しているだろう。

ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・モノフェイス Ref.Q7168420

シンプルとはいえ、見えない場所にも放射状の装飾を施すところに、ジャガー・ルクルトの丁寧な仕事ぶりがうかがえる。オーナーだけが楽しめる、特別な仕様だ。

 ちなみに、個人的に手首回りが細くても太くても、小径ケースを着用している人はセンスが良いと感じる。身長185cm、体重は不明だが大柄な知人がパテック フィリップ「カラトラバ」の、ケース径33mmのモデルを以前着用していて、素直にかっこいいなと思った。

 そんな「センスの良い」かつ「小径ケース」を持った腕時計の事始めとして、「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」を選択肢に入れてほしい。


大橋洋介おすすめの「センスの良い時計」

「時計のセンス『は』良いね」と言われていると噂の大橋洋介が選んだのは、モンブラン「アイスシー オートマティック デイト」とゼニス「デファイ エクストリーム ダイバー」である。

モンブラン「アイスシー オートマティック デイト」

モンブラン「モンブラン アイスシー オートマティック デイト」Ref.MB130793
自動巻き。26石。SSケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。300m防水。48万9500円(税込み)。

 私ごとで恐縮だが、数ある趣味のひとつに、古いグラフィックエフェメラ集めがある。横文字にするとなんだか気取った雰囲気になるが、要するに、マッチや飲料のラベルといった“紙もの”のことを指す。紙ものの持つ魅力はいくつかあるが、そのうちの大きなひとつがレタリングだろう。パソコンや写植が導入される前の、「自由」な「手業」による表現に感心されっぱなしなのである。

 それだけに、パソコンで出力可能なフォントを、安易に用いて文字盤上の表記に採用した腕時計を見かけると、デザイナーでもないくせにちょっとがっかりしてしまう。もう少しフォントに気をつかうなり、それ用にレタリングを施したロゴを用意するなりすれば、より良くなったかもしれないのに、と半可通の考えながら思ってしまうのである。

 そんな私にとって理想的な腕時計が、モンブランの「アイスシー オートマティック デイト」だ。その魅力は文字盤上に配されたロゴとマークの意匠から歴史を、そしてその利用に「ひねり」を感じるからである。

 まずは12時位置のロゴから。モンブランといえば「あの」ゴシック体のフォントを用いたロゴである。だがこのモデルにはそのロゴは使用されておらず、中央に山のイラストを添えた、古いロゴが採用されている。

 また、6時位置にはモンブランが買収した、ミネルバの輸出用商標をアレンジしたマークが採用されている。このマークは精緻な銅版画を思わせるものであり、見ているだけでうっとりしてしまう。

 通常のコレクションでよく用いられるロゴやマークを採用せず、アーカイブから引用してきた古いそれを用いるという「ひねり」。そしてそのロゴやマークは「見る楽しみ」に満ちたものをチョイスするというモンブランの心憎さ。そのセンスには一目置かざるを得ない。

 ところで、腕時計の中で用いられる「書体」の中で、割と取り上げられやすいインデックスの数字に加えて、文字盤に用いられるレタリングを採集したり、用いられているフォントを解説したりする、そういうレファレンス本、どこかでやりません? 

ゼニス「デファイ エクストリーム ダイバー」

ゼニス デファイ エクストリーム ダイバー Ref.95.9600.3620/01.I300

ゼニス「デファイ エクストリーム ダイバー」Ref.95.9600.3620/01.I300
自動巻き(Cal.エル・プリメロ3620-SC)。27石。Tiケース(直径42.5mm、厚さ15.5mm)。60気圧防水。156万2000円(税込み)。

 腕時計のデザインを見ていると、その造形感覚のルーツのようなものが、なんとなく見える。このブランドなら、伝統的な時計製造の延長線上、このコレクションは意外にもプロダクトデザイン的な発想がふんだんに盛り込まれているぞ、といった具合だ。だが、ものすごく冴えたデザインにもかかわらず、そのルーツを探れないものがある。それがゼニスの現行「デファイ」だ。その最良の例として「デファイ エクストリーム ダイバー」を挙げよう。

 確かに、多角形ベゼルの採用など、オリジナルのデファイを踏襲していることは分かる。だがそのDNAを大幅に変更する「ミュータント」化とも呼ぶべき要素がふんだんに盛り込まれているのだ。

 その分かりやすい例のひとつが、文字盤上に規則正しく、それこそタイルのように並んだ四芒星を思わせる切り込みだろう。これほど前例のない意匠はなかなかない。そして、それを机上の空論に終わらせず、実現させてしまうゼニスというブランドのセンスには脱帽せざるを得ない。

 そしてもうひとつ。恐らくではあるのだが、デザイナーはパーツ同士を組み合わせたときに、均整が取れる何らかの比率を意図的に用いているように思える。そして、その比率は、腕時計界の常識の埒外から持ってきたもののように思える。

 デファイには他とは違う「何か」があるのだ。その突然変異を言葉で説明することは容易いことではない。だが、それに挑戦(=Defy)することは、十分価値あることに思える。デファイを手掛けたデザイナー、彼は一体何者だ?


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