現行のクロノグラフウォッチより、ヴィンテージ感のあるデザインが魅力の5つのモデルを紹介する。人類や時計の発展に貢献した名作のデザインを受け継ぎ、現代の技術で製造されたこれらのモデルは、見て良し、使って良しの傑作ぞろいだ。
Text by Tsubasa Nojima
[2024年12月15日公開記事]
プロフェッショナルたちに愛されてきたクロノグラフを現代の技術で味わう
クロノグラフウォッチとは、任意の時間を計測することが可能なストップウォッチ機能を備えた時計である。機能自体が実用的であるうえに操作感を楽しむことが可能であり、かつ多くの針や積算計を備えたダイアル、そしてレバーを多用したムーブメントのデザインも、多くの時計愛好家を魅了する要素だ。
今回はそんなクロノグラフウォッチから、ヴィンテージ感のあるデザインが特徴の現行モデルを5本紹介する。かつてクロノグラフは、パイロットをはじめとする一部のプロフェッショナルに向けた特殊な機構のひとつであった。また、その複雑さからムーブメントの開発が難しく、その進化が時計史のマイルストーンになることもあった。そんな歴史を感じつつ、現行機らしく安心して使える名作たちに触れてみてはいかがだろうか。
ブレゲ「タイプ XX 2067」Ref.2067ST/92/3WU
1950年代にブレゲが発表したパイロットクロノグラフのデザインを忠実に再現。現行機としてふさわしい出来栄えの外装に、頑強なフライバック機構を備えたクロノグラフムーブメントを搭載している。自動巻き(Cal.728)。39石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。288万2000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
ブレゲが1950年代に民生用パイロットクロノグラフとして発表した「タイプXX」の復刻モデル。3時位置に配された大型の15分積算計や数字が振られた回転ベゼルなど、オリジナルの持つ意匠がふんだんに取り入れられている。
ブラックのダイアルには、ヴィンテージカラーの蓄光塗料を塗布したインデックスと針が組み合わされ、高い視認性を発揮している。6時位置の12時間積算計は、軍用の「タイプ20」には備わっていない、民生用だけの特徴だ。
細身のラグやポンプ型のプッシャー、つかみやすい大型のリュウズは、まさにクラシカルなパイロットクロノグラフらしいデザインだが、そのシャープな造形はさすがブレゲ。高級機らしいメリハリの利いた仕上げが施されている。
搭載するCal.728は、新規に開発された自動巻きクロノグラフムーブメントで、頑強なフライバック機構を特徴としている。クロノグラフはコラムホイールと垂直クラッチにより制御されており、耐磁性を持つシリコン製脱進機や外乱に強い毎秒10振動のハイビートなど、優れたスペックが与えられている。
ゼニス「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」Ref.03.3400.3610/38.M3200
伝説的なクロノグラフムーブメント、エル・プリメロの最新型を搭載したモデル。エレガントなデザインは、「A386」のデザインをモチーフとしたもの。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm)。5気圧防水。191万4000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
1969年に発表された、最初期の自動巻きクロノグラフムーブメントのひとつ、エル・プリメロ。その伝説的なムーブメントを搭載した初期モデルである「A386」を踏襲したデザインを持つモデルが、「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」である。
シルバーホワイトのダイアルにブラックのインダイアルを配したカラーリングは、いわゆる“パンダダイアル”と呼ばれるものだ。センターのクロノグラフ秒針は、毎秒10振動のダイナミックな動きを楽しめる1/10秒計として機能し、3時位置には60秒計、6時位置にはムーンフェイズと60分積算計、9時位置にはスモールセコンドが配されている。さらにモデル名が示す通り、2時位置に月、4時半位置に日付、10時位置には曜日の小窓が備えられており、カレンダー機能も充実している。
搭載するCal.エル・プリメロ3610は、エル・プリメロの系譜に連なる最新ムーブメントだ。ローターや受けは大きくスケルトナイズされ、シースルーバックから高速で振幅するテンプや輪列の動きを楽しむことができる。ハイビートでありながら、約60時間のパワーリザーブを達成していることにも注目だ。
ロンジン「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」Ref.L2.816.4.53.2
1930年代のパイロットクロノグラフをモチーフとするモデル。大型の30分積算計やシンプルなデザインのケースなど、20世紀初頭の飛行士たちを支えた意匠がちりばめられている。自動巻き(Cal.L688)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。SSケース(直径41mm、厚さ14.5mm)。3気圧防水。45万9800円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
航空界の発展に大きく貢献してきたロンジンの歴史を受け継ぐ、パイロットクロノグラフ。“ビッグアイ”の名の通り、3時位置に配された大型の30分積算計を特徴とする。
蓄光塗料を塗布したアラビア数字インデックスを配した視認性に優れるダイアルだが、レコード状の溝が施されたインダイアルや長く伸びる針など、手の込んだディティールも魅力だ。ボックス型のサファイアクリスタル風防が採用され、ヴィンテージ感を強めている。
直径41mmのステンレススティール製ケースは、程よい厚みが持たされた力強いデザイン。ポンプ型のプッシャーや大型のリュウズなど、操作性を意識した要素がツール感をもたらしている。ケースバックに刻まれた航空機のモチーフや、ピンバックル仕様のブラウンのカーフレザーストラップなど、細部に至るまでクラシカルな意匠でまとめられている点も魅力だ。
搭載するムーブメントは、自動巻きクロノグラフのCal.L688。クロノグラフの制御にコラムホイールを採用していることに加え、約66時間のパワーリザーブを備えるなど、実用性に優れたムーブメントだ。
ジン「356フリーガー・クラシックAS.E」
1940年代のパイロットウォッチを彷彿とさせる、ヴィンテージ感が魅力のコンパクトなクロノグラフ。強化アクリル製の風防が、グラデーションダイアルに柔らかな印象を添える。自動巻き(Cal.SW510)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ15.6mm)。10気圧防水。60万5000円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174
ジンは、プロフェッショナル向けのパイロットウォッチを多く手掛けるドイツの時計ブランドだ。Arドライテクノロジーやマグネチック・フィールド・プロテクションをはじめとする独自技術を多く開発してきた同社だが、「356」はそれらのジンテクノロジーを搭載していない、クラシカルなパイロットウォッチとしてのピュアな魅力を堪能できるコレクションである。
今回紹介する「356フリーガー・クラシックAS.E」は、バイコンパックス仕様のグラデーションダイアルと、ヴィンテージカラーの蓄光塗料を塗布したインデックス・針を特徴とするモデルだ。そのデザインは、1940年代のクラシックなパイロットウォッチを彷彿とさせる。サンドブラスト仕上げが施された直径38.5mmのコンパクトなケースは既存のモデルに同じだが、ダイアルが違うだけで雰囲気はガラッと変わった。
ストラップは、起毛が柔らかな印象をもたらすヌバック・ボアレザー製。アンスラサイトからブラックへとグラデーションするダイアルにマッチした色味が魅力だ。
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ」Ref.CAW211P.FC6356
1969年に誕生した最初期の自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載した、世界初のスクエア型防水クロノグラフウォッチという、エポックメイキングなモデルのデザインを復刻。9時位置にリュウズを配した構造は、自動巻きであることを強調するもの。自動巻き(Cal.11)。59石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(縦39mm×横39mm、厚さ14.3mm)。100m防水。112万7500円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030
世界初のスクエア型防水クロノグラフウォッチとして知られる、タグ・ホイヤーの「モナコ」。そのファーストモデルを復刻したのが、本作である。特にユニークなポイントは、9時位置にリュウズを配したデザインだ。これは、オリジナルモデルが搭載した最初期の自動巻きクロノグラフムーブメントのひとつ、キャリバー11の特徴を踏襲したものである。モナコは、そんなエポックメイキングなモデルというだけではなく、1971年に公開された映画作品『栄光のル・マン』において、主演のスティーブ・マックイーンが着用したことでも注目を集めており、当然ながらその復刻モデルである本作はファン垂涎の逸品である。
ノスタルジックな色味のブルーダイアルには、スクエア型のふたつのサブダイアルを配し、随所にレッドを取り入れることでスポーティに仕上げている。ポリッシュとヘアラインに仕上げ分けられたケースは、シャープなエッジが現代的な工作精度の高さを感じさせる。パンチングが施されたレザーストラップも、レースシーンを想起させる意匠だ。
本作のムーブメントは、汎用の3針ムーブメントにクロノグラフモジュールを重ねた構造を持つ。クロノグラフモジュールはダイアル側に配されているため見ることができないが、自動巻きローターの動きや受けに施された仕上げなどは、シースルーバックから鑑賞可能だ。