セイコー プレザージュの「Cocktail Time(カクテルタイム)」コレクションより、Ref.SARY243を着用レビューする。カクテルをイメージした表情豊かなブラウンダイアルを持つ本作は、上品かつ味わい深くまとめられた、機械式時計の1本目にもおすすめしたいGMTモデルである。
Photographs & Text by Kento Nii
[2024年12月17日公開記事]
「カクテルタイム」コレクション Ref.SARY243
セイコー プレザージュは国産腕時計メーカーのひとつ、セイコーが2010年より展開している機械式時計ブランドだ。同社の100年を超える腕時計づくりの伝統を継承し、世界に向けて日本の伝統美を発信することを標榜しており、セイコー プロスペックスやセイコー アストロンに比べて、クラシックさやミニマルさを特徴に持つコレクションを多様にそろえている。
そんなセイコー プレザージュで展開されているシリーズのひとつが、「Cocktail Time(カクテルタイム)」である。名前の通り、「ブルームーン」や「サイドカー」といった、有名なカクテルをモチーフとしたモデルがラインナップされており、バーカウンターに並ぶさまざまなリキュールを見るような、選ぶ楽しみのあるシリーズと言えるだろう。中でも、世界的に活躍するバーテンダーの岸久(きし・ひさし)氏がオーナー兼バーテンダーを務める銀座「STAR BAR」との限定コラボモデルは、特に人気を集める名物コレクションとなっている。
自動巻き(Cal.4R34)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ12.8mm)。5気圧防水。7万5900円(税込み)。
今回レビューを行うRef.SARY243は、このカクテルタイムへ2024年に加わったGMTモデルだ。ブラウンのグラデーションカラーを持つ味わい深いダイアルを備えており、バーカウンターでグラスを傾ける手元にも違和感無くなじむ、上品なデザイン性を魅力としている。価格は税込7万5900円と、これからお酒を始めるような年齢層にもおすすめしやすいレンジに収まっている一方で、筆者のように毎週酒を嗜む人間にとっても、数ヶ月ほど店呑みを我慢すれば買える価格ではないだろうか。
カクテルをモチーフとしたダイアル
Ref.SARY243のレビューするにあたり、まずは、行きつけの時計店のセイコー担当スタッフに本作について聞いてみた。本作はどうやら「ラスティ・ネイル」と呼ばれるカクテルがモチーフとなっているそうだ。調べてみると、スコッチ・ウイスキーと、「ドランブイ」と呼ばれるリキュールを使ったカクテルで、直訳すると“錆びた釘”という意味があるらしい。そういうわけで、ひとまずなじみのバーに駆け込み、このラスティ・ネイルを一杯飲んでみることから始めてみた。
カクテルを飲み、モチーフをあらかた理解できたところで、まずはRef.SARY243のダイアルを見ていく。ラスティ・ネイルの褐色の色合いを思わせるブラウンダイアルは、中央が明るく、外周が暗いグラデーションカラーを描いている。特筆すべきは、放射状に広がるよう施された、扇のようなパターンだ。光の当たり方によって表情を大胆に変えるこのダイアルは、グラスやロックアイス越しに見るカクテルをほうふつとさせる、何とも味わい深い仕上がりとなっている。
そして、ダイアルでもうひとつ注目したいポイントが、GMT機能に使用される24時間表示だ。各インデックスの間に1から23時までがひとつ飛ばしで表記されており、ダイアルの味わい深いパターンを広々と確保したまま、盤面にGMT機能が溶け込んでいる。これがまた絶妙なバランスであり、ブレゲ数字やゴールドのGMT針が、ブラウンカラー特有の渋さを程よく抑えているのである。これなら、腕時計を初めて買うような若年層であっても、コーディネートに取り入れやすいのではないだろうか。
なお、針、インデックスといった表示部は全体的にクラシカルな印象だ。インデックスはくさび形で、時分針は、中央で区切った左右で仕上げが変えられており、ドーフィン型のようにも見立てられる。いずれも、ダイアル上で際立つ要素だ。また、秒針はミニッツトラックに届くまですらっと伸びており、視認性、判読性ともに優れている。
本作を1週間ほど着用したが、このダイアルはやはり本作の目玉と言えるだろう。ラスティ・ネイルというカクテルを表現するにあたり、この味わい深いブラウンカラーはまさにうって付けだ。また、光の反射で大胆に変わる表情も、口の中に広がるカクテルの深い甘みを表現したかのようだった。さらに、GMT機能のレイアウトを、クラシカルな表情に違和感なく溶け込ませている点も、好ましいポイントであった。
唯一気になったのが、3時位置に配置されたカレンダーだ。ダイアルの中でここだけがモノクロカラーとなっており、豊かなダイアルを楽しむほど、どうしてもその異質さが際立った。しかし、7万円台という価格帯を考えると、これ以上の完成度の追求は欲張りすぎかもしれない。
着用感は十分
ケース造形は至ってシンプル。ダイアルを覆う風防にボックス型のハードレックスが採用されていることもあり、優美な曲線美が際立つ仕上がりだ。実際に着用してみると、柔らかに手首にフィットした。また、ラグも含めた全面にポリッシュ仕上げが施されており、クラシカルなダイアルも相まって、全体にドレッシーな雰囲気が漂っている。ケース直径は40.5mm、厚みは12.8mmと、シャツの袖口にすっぽりと収まるサイズ感で、スーツファッションを基本に、幅広いコーディネートに合わせやすいだろう。
ストラップは、スタンダードなブラックカラーのカーフレザーだが、これもダイアルの雰囲気によくマッチしている。より味わい深さや一体感を出すなら、ブラウンカラーのものに交換するのも良いだろう。またこのレザーには、フォールディングバックルが取り付けられている。しっかりと湾曲しているため、着用していて違和感が感じづらく、個人的に好ましいポイントのひとつだった。
日常使いのうえでは文句のない性能
Ref.SARY243はムーブメントにCal.4R34を搭載している。同メーカーにおいて、プレザージュの他にも「セイコー5スポーツ」のGMTモデルにも採用されているムーブメントだ。パワーリザーブは約41時間、精度は日差-35秒〜+45秒で、マジックレバーによる良好な巻き上げ性能を備えている。
リュウズの操作は2段階で引き出せるようになっており、1段階目で時計回りに回せば、GMT針を1時間ずつ進めることができ、反時計回りに回せばカレンダーを1日進めることができる。2段階目では、メインの時刻調整が可能だ。実際に合わせてみたが、リュウズの回転に遊びが少なく、時刻調整はしやすかった印象だ。
またRef.SARY243は、ケースが5気圧防水を備えていることに加え、ある程度の耐磁性も備えている。総じて、日常使いで選ぶうえで、不便は感じにくい仕様だろう。8万円以下の価格帯の機械式腕時計としては、文句のない性能を持つ1本である。
カクテルのように味わい深い魅力を持つGMTウォッチ
セイコー プレザージュより、カクテルタイムシリーズに属するGMTウォッチRef.SARY243を着用レビューした。上品かつ味わい深いブラウンダイアルを備える本作は、バーカウンターのお供にしたい腕時計である一方で、機械式腕時計の1本目にもぜひおすすめしたい1本であった。
また今回、実際に本作のモチーフとなったカクテルを口にしてみたが、味わった後にそのダイアルを見ると、セイコーの優れた表現技法をことさら実感したというものである。カクテルタイムシリーズに登場している他のモデルについても、ぜひモチーフとなったカクテルとともに嗜んでみたいところだ。