「ムーブメントのジャガー・ルクルト」が熱量を注ぐ、外装設計の重要性【2024年新作モデル振り返り】

2024.12.16

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2024。「外装革命」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載していく。今回は、ジャガー・ルクルトが復活させた「デュオメトル」から、同ブランドにおける外装革命をひもといていく。

奥田高文、三田村優:写真 Photographs by Takafumi Okuda, Yu Mitamura
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


復活を遂げた「デュオメトル」が象徴する、外装設計の重要性

「ムーブメントが強み」の印象から脱却し、外装仕上げの質を高める。時計に精通した若いユーザーが求めるポイントに、最も精力的に取り組んでいるのが、現代のジャガー・ルクルトだろう。その象徴となる新しいプロダクトラインが、復活を遂げた「デュオメトル」だ。ムーブメントの基本設計はそのままに、19世紀のサボネットウォッチを模したニューケースに載せる。今や試作段階における外装設計の重要性は、ムーブメントと同等か、それ以上の熱量が注がれているのだ。


新しい「デュオメトル」とは?

 技術と伝統、そしてモダニティを同時に表現できるプロダクトとして、「デュオメトル」を復活させた今年のジャガー・ルクルト。プロダクトのマッピングとしてはハイブリスの次点。つまりパーマネントコレクションの中では最高位に位置する、ブランドのシグネチャーたる存在だ。全モデルでケース構造を見直し、19世紀のサボネットウォッチ(懐中時計)を想起させるようなプロポーションを目指した。

 最も困難な挑戦だったのは、大きく盛り上がったボンベシェイプのダイアルに、ボックスサファイアガラスの曲率をピッタリと沿わせることだ。同様のデザインアプローチは、すでに昨年の「タグ・ホイヤー カレラ」や、今年のIWCでも試みられているが、それらの場合は、いわゆるインナーベゼルに相当するフリンジ部分の曲率のみ。しかしデュオメトルの場合はダイアル全体でそれを実現させようとした。コンセプトはケースの曲率と一体化したかのようなオープンなダイアル。検討された外装試作は30種にも及び、最終形が出来上がってきたのはW&WG開幕の1週間前だったとか。

ジャガー・ルクルト デュオメトル

ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオ トゥールビヨン・パーペチュアル」
新機軸の3軸キャリッジとビッグデイト式の永久カレンダーを載せたフラッグシップ。このモデルには秒針がないが、輪列構造としては、ふたつの香箱を活かす理由でデッドビートセコンドが備えられている。将来的な拡張性まで見越した設計だ。手巻き(Cal.388)。89石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。18KPGケース(直径44mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。

 ラインナップされる3種のうち、クロノグラフとムーンフェイズは2007年初出のムーブメントに小改良を加えたのみだが、フラッグシップである「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」はまったくの新機軸だ。まずシリンダーヘアスプリングを搭載する3軸のヘリオトゥールビヨンは、旧スフェロトゥールビヨンに比べて天真の傾きを10度強増やしたことで、軸の移動距離が飛躍的に増えている。スフェロの傾けた歯車3枚に対し、ヘリオには自在継ぎ手が採用されている。

ジャガー・ルクルト

(左)ジャガー・ルクルト「デュオメトル・カンティエーム・ルネール」
こちらも2010年初出のCal.381を搭載したニューケース版。ダイアルのオープンワークが最も少ないため、よりケースとの連続性が感じられる。ダイアル表面に大きな段差を付けることを避け、色味や下地を細かく変えて、表情に奥行き感を持たせた。手巻き(Cal.381)。42石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ13.05mm)。5気圧防水。695万2000円(税込み)。
(右)ジャガー・ルクルト「デュオメトル・クロノグラフ・ムーン」
2007年初出のCal.391をニューデザインのケースに搭載。6時位置のカウンターは、ふたつの香箱をつなぐ目的で設けられたフドロワイヤント。クロノグラフ作動時は1/6秒計測が可能になる。大きく迫り出したボンベダイアルが印象的だ。手巻き(Cal.391)。54石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KPGケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。

ジャガー・ルクルト マスター

ジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・パーペチュアルカレンダー」
ムーブメントのきめ細やかな熟成が感じられる隠れた傑作。ガンギ車やアンクルにシリコン素材を採用し、オープンタイプの香箱を用いることで、パワーリザーブを飛躍的に延ばした。ムーンフェイズの月は銀色に。やや厚めに吹かれたザポンが良い雰囲気だ。自動巻き(Cal.868)。46石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ9.2mm)。5気圧防水。444万4000円(税込み)。


ジャガー・ルクルトCEOをインタビュー。「歴史あるメゾンであると示すこと。これが重要なのです」

 2024年の驚きは、なんとジャガー・ルクルトによる「デュオメトル」の復活だ。しかしなぜ、14年経った今、リバイバルさせたのか?

「私たちには多くのコレクションがあります。しかしデザイン、伝統、そしてモダンさを十分に満たすモノはなかった。そこでデュオメトルを復活させたのです。もっとも、プロダクトが良いことが前提ですから、5年から6年かけてプロダクトの見直しをしました」

[ジャガー・ルクルト/CEO]Catherine Rénier(カトリーヌ・レニエ)
フランス生まれ。1999年にボストン大学を卒業。北アメリカのカルティエを皮切りに、ヴァン クリーフ&アーペルでアジア・パシフィックのコマーシャルディレクターなどを経て、アジア・パシフィック全体の統括責任者に就任。2018年5月から現職。就任以降、女性用のコレクションを充実させてきた彼女だが、今年は複雑時計をいっそう強く押し出した。

 復活したデュオメトルには、4つのモデルがある。「ソリッドなデザインだけど、現代的なところとヒストリックなところを組み合わせた」とカトリーヌ・レニエは語る。

「現在、ジャガー・ルクルトには、ポラリス、レベルソ、シグネチャーなどのコレクションがあり、機構で分けると、メティエラール、ハイブリスメカニカなどがあります。デュオメトルが含まれるのはシグネチャーコレクションですね」

 現在、ジャガー・ルクルトは、複雑時計でコレクションを広げようとしている。デュオメトルは、その枠を広げるもの、というわけだ。ただし、既存のコレクションと異なり、デュオメトルは、明らかに古典を意識した造形を持っている。

「デザインのバランスを取るため、ケースの造形を見直したのです。ベースになったのは、19世紀末に作られた、サボネット型の懐中時計。この造形を使うと、複雑な機構を加えても、ケースは薄く見えるのです。そしてディテールを良くして、メカニズムを見ることができるようにしました」。筆者はジャガー・ルクルトを大変好むが、とりわけ複雑系において、ケースの造形が平板だったことは否めない。

「昔はムーブメントにフォーカスしていましたね。でも今は違う。デザインチームが気を付けているのは文字盤の視認性。そしてケースの造形です。デザインを上手く使えばケースは薄く見せられる。でも、ムーブメントの開発と同じぐらい時間がかかる」。しかし、全く新しい造形を盛り込んだデュオメトルは、完成してみるまで正直不安だったとのこと。

「もちろん、今は3Dツールでシミュレーションができる。でもボンベ状のドームガラスや、文字盤の仕上げが指定したとおりになっているかは分らなかったのです。実際に出来上がったプロダクトが、予想を超えていたのは本当にうれしかったですよ」

 2024年のデュオメトルは、言ってしまえば、既存モデルの質をさらに高めたものだ。しかし、同社が続けてきた投資がなければ、この完成度は得られなかっただろう。

「私たちはツールの導入やR&Dなどに膨大な投資を続けてきました。それらは外装、ラボ、プロトタイプの完成度を上げるためです。そして今後は、コミュニケーションなども変えていきますよ。ジャガー・ルクルトが歴史あるメゾンであることを示すこと。これが私たちにとっては重要なのです」



Contact info:ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


2024年 ジャガー・ルクルトの新作時計を一気読み!

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