あっという間に多くのバリエーションを擁するG-SHOCKの定番コレクションに成長した、オクタゴン(八角形)ベゼルの「2100」シリーズ。そのフルメタルモデルに、3つのインダイアルを備えた「GMC−B2100D」が登場した。高級感あふれる外装にありったけの最新機能を盛り込んだこのモデル、次にG-SHOCKを買うならフルメタルの“カシオーク”がいいなぁと漠然と考えていた筆者にとって、ベストバイとなり得るだろうか。
Photographs & Text by Iwao Yoshida
[2024年12月19日公開記事]
気になるフルメタルの“カシオーク”
筆者は50代後半。1990年代後半の異常とも言えるG-SHOCKブームを直で体験した世代だ。そういえばライターとして初めて書いた時計記事もG-SHOCKだった。レアモデルを狙って開店前のホームラン商会に並ぶほどの熱狂的コレクターではなかったが、「スピード」モデルを苦労して入手したり、出たばかりのBABY Gのスケルトンを嫁さんにプレゼントしたりと、それなりに甘酸っぱい思い出はある。好みは初代角形モデルの系譜を継ぐ5000/5600系で、樹脂ケースが加水分解で割れて断末魔のターミネーターみたいな様相となったモデルを含め、今も手元に何本か残っている。時計の記事を多く書くようになってすっかり主ゼンマイ好きになってしまったが、G-SHOCKは別腹であり、何かデザインのピンと来るモデルと出逢ったら、1本くらいは最新機能を投入したものが欲しいと常々思っていた。
今回そんな自分のもとに新作の「GMC−B2100D」の黒文字盤タイプが届けられた。
G-SHOCKの初代モデルである「DW-5000」のコンセプトを受け継いで開発された、アナログモデル「2100」シリーズのフルメタル&クロノグラフデザイン。ベゼルとケースの間にファインレジンの緩衝材を実装することで、メタル外装による耐衝撃構造を可能にした。ベゼルと同じ八角形のネジロック式りゅうずなど、細部まで緻密に造形され、非常に質感の高い仕上がりだ。Bluetooth通信により専用アプリと接続し、正確な時刻情報を取得。タフソーラー、高輝度LEDライトなども搭載。タフソーラー。フル充電時約18カ月駆動(パワーセーブ時)。SSケース(縦51.3×横46.3mm、厚さ12.4mm)。20気圧防水。10万4500円(税込み)。
念のために説明すると、「2100」シリーズの登場は2019年。スタイリッシュなデザインはG-SHOCKの初号機「DW−5000」を現代的なアナデジモデルへとアレンジしたものだったが、その八角形ベゼルや、G-SHOCK史上最薄となるスリムなプロポーションが、奇しくも“ラグスポ”の名作を彷彿とさせ、たちまちファンの間で“カシオーク”のニックネームで呼ばれるヒット作となったのはご承知の通り。凄まじい人気を背景にメタルカバード版やミッドサイズ版などバリエーションがどんどん拡充され、2022年には遂に、タフソーラーとBluetoothによるモバイルリンク機能を搭載したフルメタルモデル「GM-B2100」も登場した。
「GMC−B2100D」は、その「GM-B2100」を、フルアナログ表示のクロノグラフに進化させたバージョンだ。ちなみにストップウォッチ機能を搭載するからクロノグラフと呼ぶが、通常の時刻表示モードでは、6時位置インダイアルはワールドタイム表示となる(ストップウォッチ作動時はここが積算計となる)。
筆者は初代角形モデルのフルメタル版が2018年に登場したとき、かなり食指が動いたクチだ(周りの編集者やスタイリストが先に買っていたので断念)。また最近の“カシオーク”人気も気になっていた。そんなわけで次にG-SHOCKを購入するなら、フルメタルのカシオークか? などと夢想していた。
デカい。されど悪くない装着感
だから本作のインプレッションをとても楽しみにしていたのだが……ん、ちょっとデカくないか。資料を読むとケースサイズは縦51.3×横46.3mm。G-SHOCKの中では比較的コンパクトなサイズだが、フルメタルとなると迫力が増すのか、手元でのお目立ち感が半端なくて少々落ち着かない。
重量は171g。これも普段手巻きのアンティークばかり着けている身には、かなりずっしりと重く感じる。真面目な筆者はこれから1週間毎日このモデルを着用するつもりだが、慣れるだろうかと不安になる。もっとも最新の高機能モジュールを搭載する割に、ケースの厚さは12.4mmに抑えられ、重心もケースバック側にあるので、着用感は悪くない。
早速セッティングしてみる。といってもこのモデルはモバイルリンク機能を搭載するため、時刻の調整は至極簡単。自分のスマホに「CASIO WATCHES」というアプリをダウンロードする手間はあるが、ここに時計を登録してしまえば、Bluetoothを介して正確な時刻を同期して表示し、アプリ側でワールドタイムやアラームなどの各種設定も簡単に行える。GPS電波受信機能は備えていないが、スマホの電波が届かない地域に出かけることがほとんどない都市生活者にとっては、これで十分だと思う。
ビカビカと輝き、質感は非常に高い
外装は、さすが10万円超えのG-SHOCKだけあってまったく隙がない。ベゼルの天面を円周状のヘアライン、斜面をミラー研磨とするなど、随所を細やかに仕上げ分けたことで、光の角度でビカビカと輝いて高級感たっぷりだ。
文字盤も美しい。ベース部分と3つのインダイアルはともに円周状のギヨシエが施され、立体的なインデックスと相まって、とても奥行き深く仕上げられている。タフソーラー搭載モデルだが、どこにソーラーセルを搭載しているのか分からないほど、質感の高い文字盤といえよう。
各機能の操作方法を細かく説明するとキリがないので割愛するが、自身がそうだったように、説明書を軽く読めば、よほどメカ音痴な方でもすぐにマスターできるはずだ。もし、しばらくこの時計を使っていなくて操作方法を忘れたとしても、スマホで先ほどの「CASIO WATCHES」を開けば、登録した自分の時計の操作ガイドが載っているので安心だ。こういうところも最新のG-SHOCKはありがたい。
さまざまな機能のうち、とくに気に入ったのが携帯電話捜索機能だ。たとえば自宅でスマホをどこに置いたか分からなくなった場合、時計のケース右下、ベゼルに“FIND”と書かれているところのプッシュボタンを長押しすると、スマホ側の音が強制的に鳴り、所在を知らせてくれる。実際に筆者はこの機能を使ってソファの隙間に隠れていたコイツを見つけることができた。
逆にちょっと使いづらいなと感じたのが、ライト発光ボタンだ。このモデルは針とインデックスに蓄光塗料のネオブライトを塗布しているが、2時位置のプッシュボタンを押すとスーパーイルミネーターがバキッと発光し、さらに盤面の視認性を高めてくれる。ただその発光時間は約1.5秒。ボタンを押し続ければもう少し長く発光するのかと思いきや、実はこのボタンには長押しでホームタイムとローカルタイムを入れ替える機能も持たせており、時刻が入れ替わった盤面を見てとまどうことがあった。
スーツよりセットアップが似合う
筆者は余程の豪雨じゃない限り、毎日バイクでオフィスまで通勤している。お借りした時計ゆえに少し躊躇したが、そこはG-SHOCKだから大丈夫と判断し、借用期間中はずっとこれを着けてバイクを運転した。大きさが邪魔になるかと感じたが、意外と気にすることなく着用できた。G-SHOCKらしい無骨さも残しているので、ライダースやアウトドアジャケットとの相性はやはりいい。アナログ表示の視認性も大変よく、バイクを走らせている間、スピードメーターやタコメーターの他、腕にもうひとつ計器を着けている感じで気持ちがよかった。
そうして通勤に使いつつ、筆者ほど服装の自由度が高くない職種の方が、これをビジネスでも使うのはどうなんだろうとも考えていた。ビジネススーツにも馴染むと評価するリポートも見かけるが、個人的には難しいと思う。確かに高級感ある外装だが、サイズが大きく、デザイン的にもかなりインパクトがあるため、手元の主張が強くなりすぎてしまう気がするのだ。若いビジネスマンがファッションの外しとしてモード系のスーツにチャラリと着けるならまだしも、年配ビジネスマンの正統的なスーツ姿には浮くと思う(もっとも大径の高級スポーツ時計をスーツに着けている人は世の中にいっぱいいるので、あくまで筆者の感想です)。もし自分がドレス方向の装いに合わせるなら、今どきのアンコンジャケットや機能素材のセットアップなど、ややカジュアルな服を選ぶ。インナーも、シャツではなくニットなどを合わせて。
いずれにしろ、この「GMC−B2100D」は、G-SHOCKの最高峰ブランド「MR−G」にあるフルメタルアナログモデルの「MRG-B2100B」を除けば、今販売されている“カシオーク”の中で最も完成度が高いモデルであることは間違いない。だから久々にG-SHOCKを買う、かつてのGファンがこれを選ぶのは正解。G-SHOCKで10万円オーバーということにビビるかもしれないが、その価格以上のプレシャス感ある佇まいであることは確か。着用して馴染みの飲み屋にでも出かければ、周囲が食いついて鼻が高いだろう。もちろん機能面の猛烈な進化ぶりにも感動するはずだ。
一方、自分のように華奢な腕のオッサンだと、この時計のサイズはやや持て余すかもしれない。Bluetoothとタフソーラーを搭載した最新の高機能モジュールをさらにコンパクト化するのは相当難しいと思うが、機能を多少割愛してもいいので、このデザインと外装の仕上がりでもう一回りか二回り、小ぶりなカシオークが出たらいいのになぁと願う。いや、カシオならきっとやってくれるはずだ。
調べたところフルメタルの従来モデル(GM−B2100)もなかなかのサイズ感(縦49.8×横44.4mm、厚さ12.8mm)。なので現時点では、メタルカバードモデルのミッドサイズ版である「GM−S2100」(縦45.9×横40.4mm、厚さ11mm)あたりが、自分にとってのカシオークのベストバイとの結論に至った。でもやっぱり、バンドまでフルメタルで、なおかつフルアナログ表示のカシオークが欲しい……。カシオ様、本作「GMC−B2100D」の小径化、ぜひご検討をお願いいたします。