2024年11月、ノルケインは「ワイルド ワン スケルトン 42MM グレー」「ワイルド ワン スケルトン 42MM ゴールド」の2モデルを新たに追加した。いずれもワイルド ワン スケルトンのバリエーションという位置付けではあるものの、副社長のトビアス・カッファーに両モデルについて話を聞くと、これらの新作はノルケインのチャレンジスピリットによって具現化された、外装デザインの進化形であることが分かる。
Photographs by Keisuke Tanigawa
竹石祐三:取材・文
Text by Yuzo Takeishi
[2024年12月21日公開記事]
ノルケイン史上一番明るいノルテックの色「グレー」
自動巻き(Cal.NB08S)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。グレーノルテック×ブラックラバーケース(直径42mm、厚さ12.3mm)。200m防水。90万2000円(税込み)。
「ワイルド ワン スケルトン 42MM グレー」は、ブラックのノルテック製保護ケースを用いていた従来モデルと比較すると明らかにその表情が一変している。ノルケインの独自素材であるノルテックはカーボン複合素材の一種だが、このノルテック製パーツの色をグレーに変えたことによってマテリアル特有のパターンを感じさせながらもマットな質感が際立ち、これまでのカーボン製ウォッチとは異なるオリジナリティーのある表情を生み出した。
本作は「ワイルド ワン、もしくはワイルド ワン スケルトンとして、どういった色合いがクールなのか?」という感性の部分にフォーカスし、色を選定することから開発がスタート。その後はノルテックを開発したBIWIと協議しながら製品の実現可能性を探っていったとトビアス・カッファーは説明する。
「ご存知の通り、カーボンは着色できない──つまりブラック以外のカラーで表現することができない素材なのですが、ノルテックには着色ができるという特性があります。しかも表面に塗装するのではなく、素材自体に色を付けられるうえに、着色しても耐久性を維持できるのが従来のカーボンとは大きく異なる点です。それでも、カーボン複合素材なので明るい色に仕上げるのは難易度が高いのも事実。新色のグレーはノルテックの中でいちばん明るい色になるのですが、これを実現させることは私たちにとって大きなチャレンジでした」
いままでのノルケインのモデルとは異なる「インダストリアル」な外観
多彩なカラーパレットの中でグレーを選択したのは、ルテニウム仕上げのスケルトンムーブメントとの相性の良さを考慮した結果だ。もっとも、グレーに限らず色の振れ幅は広いため、本作ではニュートラルなグレーからダークな色調までさまざまなトーンのグレーを試作し、トライアンドエラーを繰り返しながら製品化を目指したという。最終的には仕上がりの良さからブルーグレーのような色調が選ばれたが、それはワイルド ワン スケルトンに、従来のラインナップにはないインダストリアルな雰囲気を与えることにつながった。
「ラウドな(明るい)色のモデルは熱心なノルケインのファンからは支持されていましたが、この控えめなグレーであれば、従来のワイルド ワン スケルトンが派手だと感じていた人に対してもアプローチできるのではないかと感じています。やはり、ワイルド ワンはケースだけでも25のコンポーネントで構成されているので、製品開発の可能性は広がりましたね」
ゴールド素材でも耐衝撃性を備えたスケルトンウォッチ
自動巻き(Cal.NB08S)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。PX impact®18KRG×ブラウンラバー(直径42mm、厚さ12.3mm)。200m防水。236万5000円(税込み)。
もうひとつの新作が「ワイルド ワン スケルトン 42MM ゴールド」。2023年には18Kレッドゴールドのワイルド ワンが数量限定でリリースされたが、新作はこの限定バージョンと基本構造を共通としつつ、スケルトン仕様のムーブメントを組み合わせたモデルになる。とりわけ印象的なのが着用感とエレガントなルックスとのバランス。18Kレッドゴールド製のケーストップが落ち着いた表情を見せる一方、ノルテック製のケースバックとチタン製コンテナによってワイルド ワンらしい軽快な装着感を維持している。
「ワイルド ワン スケルトンはコレクションの中でもよりスポーティーなテイストのモデルとして位置付けていますが、そこにエレガントな要素をミックスさせることで、ワイルド ワン スケルトンの持つスポーティーな雰囲気を別の文脈で表現してみようという狙いがありました。ゴールドなので耐傷性こそありませんが、耐衝撃性はワイルド ワンの他のモデルと同じく5000Gですし、重量もノルテック製のワイルド ワン スケルトンは78gですが、このモデルも106gに抑えています」
トレーサビリティに優れたPX impact®ゴールドを採用
本作のもうひとつの特徴が、ケーストップに使われている素材だ。PX impact®ゴールドと呼ばれるこのゴールドはパートナーの1社であるPXグループから調達した素材で、原石から金の抽出時に水銀を使用していないうえ、採集した鉱山や職人のトレーサビリティが明確なマテリアルとなっている。
「ノルケインは企業、ブランドとして透明性を担保したい考えがあり、だからこそ、どこで、誰が、どのコンポーネントを作っているのかを公開しているのです。プロダクションプロセスをきちんと伝えられるようにするというのは、今やどの業界でも企業理念として重要なことだと思いますが、PX impact®ゴールドもそうした透明性の一環として採用しています。たしかに、トレーサビリティが明らかではないゴールドと比較すると単価は上がりますが、企業理念や価値観を共有できるチームと活動を共にしていくことが何より重要ですから」
躍進を続けるブランド、ノルケインとは?
ノルケインは2018年に設立されたインディペンデントブランドだ。創業者はトビアスの実兄であるベン・カッファー。父は20年以上にわたってスイス時計協会FHの理事を務めたマーク・カッファーで、ベン自身もブライトリングでセールスマネージャーを務めた経歴を持つ。こうしたバックグラウンドもさることながら、ノルケインの名を世界中の時計愛好家により強く印象付けることになったのが、2022年にアナウンスされたジャン-クロード・ビバーの取締役会顧問就任であり、彼のアイデアを具現化したワイルド ワンであった。
ジャン-クロード・ビバーのブレインチャイルド「ワイルド ワン」
革新的な素材と構造が注目され、デビュー後ほどなくしてブランドの基幹コレクションへと成長を遂げたワイルド ワンを、トビアスは「ジャン-クロード・ビバーのブレインチャイルド」であると説明する。
「ビバーが長年温めていた『軽くて耐傷性に優れ、しかも絶対に割れない素材を使った耐衝撃性の高い腕時計』というアイデアを、彼とBIWI、ノルケインでディスカッションしながら具現化していったのがワイルド ワンで、完成に至るまでには2年を要しました。2022年にこの腕時計をローンチした際に彼とのパートナーシップも発表しましたが、その開発は2020年からスタートしていたのです」
サプライヤーとの協力体制により、高いクォリティを実現
もっとも、ワイルド ワンが製品化に至るまでの道のりは相当にハードなものだったそうだ。それは複雑な形状に成形されたノルテックを確認するだけでも容易に想像できる。事実、ステンレススティールのケースを製作する際にはCNCのツーリング(切削工具とのインターフェイス)が2種類で済むのだが、ワイルド ワンでは実に13種類が必要になるという。
「つまり、ワイルド ワンのプロダクションプロセスはより複雑化しているのです。そのためには相当な投資が必要ですが、にもかかわらずこの腕時計は100万円以下のプライスを実現しています。これはBIWIだけではなく、ケニッシとのパートナーシップも同様で、つまりノルケインにはロングタームビジョンがある──数モデルの製造を依頼して終わるのではなく、長期的に協力していこうという信頼関係が築けているからこそ、クォリティの高い製品をこの価格設定で提供できるのです」
2025年には小径モデルを発売! 別のビッグサプライズも
今回、新たに発表された2作のように、カラーバリエーションのひとつに位置付けられるモデルについてもサプライズを与えてくれるノルケインだが、今後の商品展開についてはどのようなビジョンを描いているのだろうか。「今、少しだけお話しできるとすると……」と前置きしたうえで、トビアスは次のように語ってくれた。
「小さいサイズの新作モデルを2025年に発表します。でも、それだけではありません。カラー展開も含め、もっとクールなプロダクトを次のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでは披露するので期待していてください」