2024年にヴァシュロン・コンスタンタンから発売された限定モデルをまとめて振り返る。「トラディショナル」のプラチナモデル、ハイジュエリーモデル、「メティエ・ダール」の4作、そして「パトリモニー」コレクション20周年を記念した限定モデルが登場した。
Text by Yukaco Numamoto
[2024年12月31日掲載記事]
2024年の限定モデル7本全てを紹介
ヴァシュロン・コンスタンタンは2024年、7作の限定モデルを発表した。特にブランドのファンにとっては「パトリモニー」コレクションの誕生20周年を記念した年であったことが心に強く残ったのではないだろうか。1957年に発表されたタイムピースから着想を得たパトリモニーの20周年記念限定モデルが見せたミニマリズムとメカニカルの卓越性の融合はメゾンのアイデンティティを感じさせる。また、「トラディショナル」コレクションにもプラチナモデルとハイジュエリーモデルが限定モデルとして発売された。ラグジュアリーな世界観と職人技を凝縮したタイムピースを振り返りたい。
トラディショナル・トゥールビヨン・クロノグラフ コレクション・エクセレンス・プラチナ
手巻き(Cal.3200)。39石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ptケース(直径42.5mm、厚さ11.7mm)。3気圧防水。世界限定50本。
世界限定50本で発売された「トラディショナル・トゥールビヨン・クロノグラフ コレクション・エクセレンス・プラチナ」は12時位置に大型のトゥールビヨン、3時位置に45分積算計、6時位置にパワーリザーブインジケーターが配されている。外装にはプラチナがふんだんに使用され、ストラップのステッチまでがプラチナ製である。
搭載されるムーブメントは創業260周年に当たる2020年に開発された薄型ムーブメントCal.3200で、トゥールビヨンとモノプッシャー・ロノグラフが併載されている。これら2つの複雑機構を備えながら、パワーリザーブは約65時間を確保。Cal.3200は292の部品から構成され、厚さは6.7mmに抑えられている。
トラディショナル・トゥールビヨン・ハイジュエリー
自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18Kホワイトゴールドケース(直径41.0mm、厚さ12.46mm)。3気圧防水。ブティック限定。
ブティック限定として「トラディショナル」コレクションに300を超えるバゲットカットダイヤモンドを敷き詰めたタイムピースが登場した。超薄型ムーブメントCal.2160にはトゥールビヨンが搭載。インヴィジブルセッティングされたバゲットカットダイヤモンドによって、ミステリアスな輝きを放つラグジュアリーな1本だ。
同作ではラグからケース本体、ベゼルからクラスプ、リュウズから文字盤まで、外装の目に見えるほとんどの部分に、放射状のモチーフを描きながらバゲットカットダイヤモンドでパヴェセッティングが施されている。熟練の職人たちが、キュレット(底部分のファセット)の両側に溝をつけてカットしたダイヤモンドを、同じく職人が作成したT字型のレールにひとつずつスライドさせることで、つなぎ目なく敷き詰めた。このジェムセッティングには、緻密に計算されたカットと高い技術が必要だ。
トゥールビヨンを中心として、サイズが徐々に大きくなるようバゲットカットダイヤモンドを放射状にセッティングした点は特筆すべきポイントだ。このために、ダイヤモンドを選ぶ際に複数のキャリブレーションが必要だったという。
メティエ・ダールコレクション「 - 伝統的シンボルに敬意を表して - 永遠の流れ」
自動巻き(cal.2460)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.88mm)。3気圧防水。世界限定各15本。
(右)ヴァシュロン・コンスタンタン「メティエ・ダール - 伝統的シンボルに敬意を表して - 永遠の流れ」Ref.2400A/000G-H023
自動巻き(cal.2460)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWGケース(直径38mm、厚さ9.88mm)。3気圧防水。世界限定各15本。
芸術的な時計製造技術を称え、芸術、歴史、文化からインスピレーションを得たヴァシュロン・コンスタンタンの「メティエ・ダール」コレクションに新作「メティエ・ダール-伝統的シンボルに敬意を表して-」が加わった。14世紀から20世紀初頭の中国最後の王朝時代の歴史と文化の旅へと誘うモデルで、この時代特有の装飾に対する造詣を深める中、メゾンが特に関心を持ったのは装飾美術だった。宮廷建築のほか、調度品や磁器、特に龍袍(りゅうほう)と呼ばれる皇帝や皇族の吉服(祭礼時などに着用する装束)にも見られる「海水江崖」文様を採用している。
本作では満点の星空を背景に、生姜の芽をかたどった植物に縁取られた山々の頂が、高波に現れている様子が描かれている。中国発祥の「景泰藍」とも呼ばれるクロワゾネエナメル技法を用いて色鮮やかに描かれている。「海水江崖」文様を形成するエナメル装飾を描く220本の金線画を敷き詰めるのに、輪郭形成だけでも50時間以上の作業を要し、豊かな色合いが完成するまでには70時間を費やしている。
メティエ・ダールコレクション「 - 伝統的シンボルに敬意を表して - 月光」
自動巻き(cal.2460)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.88mm)。3気圧防水。世界限定15本。
(右)ヴァシュロン・コンスタンタン「メティエ・ダール - 伝統的シンボルに敬意を表して - 月光」Ref.2405A/000G‐H021
自動巻き(cal.2460)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWGケース(直径38mm、厚さ9.88mm)。3気圧防水。世界限定15本。
「メティエ・ダール」コレクションの新作として世界限定各15本で発売された「月光」はベゼルに74個、文字盤には238個ののブリリアントカットダイヤモンドがセットされたモデルである。22K製ローターにも波や潮の流れを想起させるモチーフが繊細に彫金され、ダイアルの意匠と呼応している。
本作で目指されたのはモノクロームのベースに奥行きを見せることだった。山々と波飛沫、立体的なブルーのエナメルが融合し、繊細でありながらダイナミックな海の躍動感ある一瞬を切り取っている。潮流を彩るブリリアントカットダイヤモンドの煌めきは、灰がかった月光の柔らかな輝きを放ち、ベゼルとの調和を一層強いものとしている。
「パトリモニー・オートマティック」20周年記念限定モデル
自動巻き(cal.2450 Q6/3)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KYGケース(直径40mm、厚さ8.55mm)。3気圧防水。世界限定100本。
2019年にスタートした「One of Not Many(少数精鋭のひとり)」広告キャンペーンに起用されたフランス人デザイナー、オラ・イトとのパートナーシップにより実現した、レトロなタッチが添えられたワントーンのイエローゴールド製モデル。世界限定100本の本作はイエローゴールド製の40mmケースに収められたワントーンのダイアルが、光を取り込む無数の同心円で輝くことで、ドーム状のダイアルの表面にシンプルな円形の幾何学模様が波紋のように広がっている。
「パトリモニー」コレクションが2004年に発表されてから20周年にあたる2024年に発売されるにふさわしいヴィンテージテイストが感じられるレアピースだ。
2024年を彩ったヴァシュロン・コンスタンタンの限定モデル
2024年はヴァシュロン・コンスタンタンにおいて「パトリモニー」コレクションの誕生から20年という記念の年だった。限定モデル以外にも多くの新作が発表され、コレクションの幅が一層広がった。限定モデルとして発売された「パトリモニー・オートマティック」はフランスで芸術文化勲章を受章したオラ・イトとのパートナーシップによって実現したスペシャルな1本で、わずか世界限定100本というマニアにとっては垂涎のモデルとなった。
メゾンのシンボルであるマルタ十字を使用して70周年、創業270周年にあたる2025年はヴァシュロン・コンスタンタンにとってまたスペシャルな1年になるだろう。