ミリタリーを出自に、独自のスタイルと機能性を貫くパネライも近年、小径薄型化など、新たな魅力を展開する。発表された複雑機構やブレスレットもその文脈に沿う。さらに拡充する個性に熱い注目が集まる。
柴田 充:文 Text by Mitsuru Shibata
大橋洋介(クロノス日本版):編集 Edited by Yosuke Ohashi(Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
実用本位のパネライが見せる、複雑機構とエレガンス
クッションケースにワイヤーラグ、ガードレスの円錐型リュウズを特徴とする。ゴールドテック™は、ゴールドにプラチナと銅を独自配合し、芳醇な赤味と耐久性を備える。自動巻き(Cal.P.4100)。55石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ゴールドテック™ケース(直径45mm、厚さ15.96mm)。10気圧防水。757万9000円(税込み)。
パネライは、イタリア海軍に納入され、特殊潜水部隊の過酷な使用環境で培われた実用的な機能とデザインの様式美で高い人気を誇る。民生時計においても30年以上を経て、魅力のベクトルは広がる。新作「ラジオミール」が搭載する永久カレンダー機構もそのひとつだ。
パネライがこの機構を初めて搭載したのは、2021年発表の「ルミノール パーペチュアルカレンダー」だ。質実剛健なスポーティーウォッチと繊細な複雑機構の組み合わせは、パネライの得意とするところである。研究開発部門ラボラトリオ ディ イデーが、5年以上の開発期間をかけた自社製自動巻きムーブメント、Cal.P.4100はそれだけ完成度が高い。
文字盤は、通常の時刻表示のほか、デイデイト表示と2000年代初頭以降、代表的な機能になっている24時間表示付きGMT針に絞り、シンプルを極める。そこに“CALENDARIO PERPETUO”の表記がなければ、永久カレンダー機構を秘めるとは気付かないだろう。しかしケースバックには、マイクロローターやパワーリザーブ表示とともに、年号やリープイヤー、月表示を満載するのだ。
このユニークな永久カレンダー機構を搭載したラジオミールは、「ルミノール」がブルーやグリーンの文字盤によるスポーティーイメージなのに対し、ゴールドケースとホワイト文字盤はドレッシーな印象を与える。それも1935年にブランド初の腕時計のプロトタイプとして誕生した来歴にふさわしいだろう。ちなみにラジオミールは昨年、アニュアルカレンダーを発表している。文字盤の外周に回転式の月表示リングを備えたスタイルに比べると、パーペチュアルカレンダーはよりスマートだ。
文字盤に記されたBiTempoはイタリア語でデュアルタイムを意味し、現代的な実用性とほどよいサイズ感はビジネスシーンでも人気が高い。ストラップとの容易な換装もトラベルユースに最適だ。自動巻き(Cal.P.900/GMT)。23石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。148万5000円(税込み)。
(右)パネライ「ルミノール ドゥエ メタルブレスレット 42㎜」Ref.PAM01539
ブレスレットはPAM クリックリリース システムを搭載し、同仕様のストラップに容易に交換できる。異なる手首のサイズにも対応することで、シェアウォッチとしても人気が高い。自動巻き(Cal.P.900)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径42mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。124万3000円(税込み)。
もうひとつの新鮮な魅力がブレスレットだ。近年ラグジュアリースポーツのブームでブレスレットが注目を集める。季節やシーンを問わない実用性とデザインの多様化、装着感の向上も人気の理由だ。
パネライは、1999年にブレスレットを発表した。半円をモチーフにしたリンクを採用し、独創性をアピール。2008年に実用性を重視したシンプルなデザインになったが、2017年にその進化形として形状と機能を両立したスタイルが生まれた。今回採用するのはさらに熟成を重ねた最新ブレスレットだ。
ケースからバックルにかけて幅を細くするV字型デザインを採用し、スタイリッシュな見た目と心地よい装着感を併せ持つ。リンクも厚みを抑え、軽量化を図るとともに、動きも滑らかだ。
いわゆる“ラグスポ”がケースとの一体型ブレスレットを基本スタイルとするのに対し、パネライはシンボリックなリュウズプロテクターの半円フォルムとリンクのパターンを統一することで、ケースのデザインを崩すことなく、一体感を演出する。極めて洗練されたイタリアンデザインを感じさせるのである。
カラー文字盤や40mm径ケースに合わせることでエレガンスをさらに増し、ドレスアップした装いにも応える。ある意味ではパネライらしからぬ、だがそれ以上に魅力の可能性をそこに秘める。それもオリジンを大切にし、過去から現在、そして未来につなげんとするブランドらしさにほかならない。