2024年発表モデルのうち、「気になる1本」「お勧めの1本」を、著名な時計ジャーナリストらが取り上げる企画。今回は、フリーエディターの竹石祐三が、大いに頭を悩ませて選び抜いたG-SHOCK「MRG-B2100D」を掲載する。竹石に強烈な印象を残した、本作の要素とは?
Text by Yuzo Takeishi
[2024年12月21日公開記事]
2024年発表モデルのうち、G-SHOCK「MRG-B2100D」を勧める
2020年以降、海外の見本市には参加できずにいる。そのため実際に手に取って確認できる新作の数はぐっと減ったが、限られた中でもいくつもの印象に残るモデルに出合えているのはラッキーというほかない。……いや、それだけ各ブランドがクォリティーの高いモデルを数多く発表しているということか。それゆえ「2024年発表モデルからお勧めの1本を挙げよ」というミッションにはいつものことながら大いに頭を悩ませたのだが、そんな中で捻り出したのがMR-Gの「MRG-B2100D」である。
タフソーラー。フル充電時約22カ月駆動(パワーセーブ時)。64Ti×コバリオンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。57万2000円(税込み)。
ベースとなっているG-SHOCKの「2100」とは、初号機のフィロソフィーを継承しつつ、デザインを現代的にアップデートさせたシリーズ。これをG-SHOCK最高峰のMR-Gクォリティーで作り上げたモデルが、2024年5月にアナウンスされた「MRG-B2100B」で、八角形ベゼルを備えた特徴的なルックスはそのまま、外装素材にチタンとコバリオンを採用し、表示もアナログのみとした。筆者の推しであるMRG-B2100Dはその第2弾。基本的な仕様は前作と同様に、ベゼル、ケース、ブレスレットのカラーをシルバー色に変更したモデルだ。
2024年5月にローンチされた「MRG-B2100B」。MR-Gコレクションとして、初めて「2100」シリーズを採用したモデルだ。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti×コバリオン(ベゼルトップ)×64チタンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。64万9000円(税込み)。
「MRG-B2100D」の見どころ
他のG-SHOCKやMR-Gと比べてしまうと、実にらしからぬシンプルデザインなのだが、それでも見どころが多いのはさすがカシオ。とりわけ本作において特筆すべきはダイアルで、木組に着想を得たこの意匠は日本の伝統技術のエレメントを巧みに取り入れるカシオのセンスが表れており、立体的な格子状のデザインがソリッドな外装の中で主張しすぎることなく、ほどよいアクセントになっている。しかもソーラー発電に必要な光を格子の隙間からさりげなく取り込むという、機能とルックスを兼ね備えたデザインエレメントになっているのだから、その発想力はさすがというほかない。
また外装だが、これは2022年にリリースされて話題となった「MRG-B5000」と同じく、細分化したパーツを組み上げる構造が採用されている。これにより、細かな凹部までしっかりと磨き上げることが可能になり、さらにベゼルは、研磨することでプラチナに匹敵する輝きを放つコバリオンで製作したことで、G-SHOCK最高峰シリーズのMR-G……というより、高級時計にふさわしい質感に仕上がっている。実際に本作を手に取るとわかるが、マットな質感をメインに、ベゼルの斜面やブレスレットの一部を鏡面とする仕上げ分けのバランスも見事で、高級感を与えつつ、G-SHOCKらしいタフな印象やツールっぽさも失われていない。
ケースは直径が44.4mm、厚さは13.6mmと、小径モデルがトレンドとなりつつある昨今においてはやや大きめだ。だが、外装素材にチタンとコバリオンを用いたことで、公称値は122gと軽量。たしかに外装にチタンを使った他のMR-Gと同様、その佇まいこそソリッドかつマッシブだが装着感は軽快で、これなら積極的に身に着けたくなる。
なぜ“第2弾”モデルが推しなのか?
と、ここまではMRG-B2100の両モデルに共通する感想なのだが、その中でも2024年の推し時計として“第2弾”のMRG-B2100Dを選んだのはなぜか。それは第1弾モデルが外装をブラックでまとめたことにより、G-SHOCKらしさが色濃く出ていたから。G-SHOCKなのでそれは当然だし、ファンも“らしさ”を求めるだろうから、最初にフルブラックのモデルをリリースするのはうなずける。だが筆者は、シルバー色の外装を組み合わせた、よりベーシックなルックスだからこそ本作に惹かれた。つまりG-SHOCK“らしさ”が抑えられた、ごく普通の高級時計然とした佇まいのMR-Gがラインナップされたことに、ちょっとした驚きを感じたのだ。
本作についての取材を行った際、カシオの担当者から雑談レベルの会話の中で「これ、結構いいでしょ?」と訊かれたことが印象に残っている。スタンダードな高級時計らしいルックスに仕上がったことに対する満足感が伝わってきたからだ。MR-Gのクォリティーと性能を確保しながらもルックスは実にベーシック──そのギャップとインパクトが、本作を強烈に印象づけた。
竹石祐三氏のプロフィール