タグ・ホイヤーの2024年発表モデルを、ラトラパンテ搭載の「モナコ」を中心に振り返る

2024.12.21

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2024。「外装革命」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載していく。今回は、ラトラパンテ(スプリットセコンドクロノグラフ)を搭載させた「モナコ」によって、アヴァンギャルドへの回帰を見せたタグ・ホイヤーを取り上げる。広田雅将による、キャロル・カザピへのインタビューも、併せてお届けする。

奥田高文、三田村優:写真 Photographs by Takafumi Okuda, Yu Mitamura
鈴木裕之、広田雅将(本誌):取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Chronos Japan Edition(Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


アヴァンギャルドに回帰した腕時計ラトラパンテ

 タグ・ホイヤーの基幹コレクションの中でもクラシックな雰囲気を維持し続けてきた「モナコ」。もう一方のアイコンである「タグ・ホイヤー カレラ」が時代に合わせてケースデザインを一新させてきたのとは対照的に、モナコのデザインは不可侵なものだった。しかし2024年の新作で、同社はそこに手を入れた。ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエのエボーシュをベースとする「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」では、ケースバックをサファイアクリスタルに刷新。ケース自体もエッジを効かせた新造形に進化を遂げている。ノンリミテッドだが、極小生産モデルで、年間20本程度(受注生産)となりそうだ。

タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」Ref.CBW2182.FC8339
ブランド初となる機械式の腕時計ラトラパンテ。エボーシュの地板とケースにTi素材を採用し、ムーブメント重量で約30g、時計全体でも約85gの軽量化を実現。トランスパレント化されたダイアルデザインも斬新だ。自動巻き(Cal.TH81-00)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約65時間。Tiケース(縦41×横41mm、厚さ15.2mm)。30m防水。要価格問い合わせ。

 今年のヒーローピースは「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」の新作で、ジャック・ホイヤーのお気に入りだったRef.7753SNがモチーフ。グラスボックスタイプのケース仕様で初のブレスレットモデルとなった。 

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」Ref.CBS2216.BA0041
2024年のヒーローピース。ジャック・ホイヤーのお気に入りだったRef.7753SNをモチーフとするが復刻版ではなく、グラスボックス仕様のニューケースで再現。同仕様のケースでは初のブレスレットを採用する。自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm)。100m防水。93万5000円(税込み)。

タグ・ホイヤー カレラ

(左)タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」Ref.CBS5011.FC6566
1月のLVMHウォッチウィークで発表された自社製トゥールビヨンクロノグラフ搭載モデル。メタリックな質感を持つティールグリーンダイアルは、同時期に登場した「DATO」と同色。インダイアルは同色のアズール仕上げ。自動巻き(Cal.TH20-09)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。336万500円(税込み)。
(右)タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ スキッパー」Ref.CBS2241.FN8023
2023年にSSで復刻された「スキッパー」の18KRGモデル。1967年にイントレピッド号でアメリカズカップに優勝したクルーは「アクアスター」を着用。翌68年に発売された記念モデルがモチーフだ。自動巻き(Cal.TH20-06)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径39mm)。100m防水。302万5000円(税込み)。

タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 GMT

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 GMT」Ref.WBP5114.BA0013
新しいアクアレーサーは、ミドルケースのプロファイルを刷新した42mmケースを採用。ケース厚では12mm程度のボリュームがあるが、ラグのフォルムは特に薄く調整され、適切な装着感を実現している。自動巻き(Cal.TH31-03)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径42mm)。300m防水。58万8500円(税込み)。


キャロル・カザピをインタビュー。「私たちは、再びオートオルロジュリーの世界に戻ってきた」

 タグ・ホイヤーで辣腕を振るうキャロル・カザピ。「トゥールビヨンの女王」だった彼女は、今やモダンなオートオルロジュリーの旗手になろうとしている。今回タグ・ホイヤーがW&WGで発表したのは、モナコのラトラパンテ。機構もさることながら、価格も飛びぬけている。ベースになったのは、2023年のオンリーウォッチでお披露目されるはずだったモデル。しかし、それをそのまま量産するとは思ってもみなかった。

[タグ・ホイヤー/ムーブメントディレクター]Carole Kasapi(キャロル・カザピ)
1969年、フランス生まれ。ラ・ショー・ド・フォン時計学校を卒業後、1990年にコンセイユレイに入社。1992年からルノー・エ・パピに在籍。その後、カルティエ、ヴァン クリーフ&アーペルなどを含むリシュモン グループの設計責任者となる。2020年にはタグ・ホイヤーに移籍した。2021年にガイア賞を受賞。現在、筆者が最も尊敬するムーブメント設計者のひとり。

「ラトラパンテの計画は3年前に始まりました。というのも、オートオルロジュリーの世界に、良いコンプリケーションと共に戻ってこようと思ったからですね。そしてタグ・ホイヤーと言えばクロノグラフ」

 しかしなぜ、あえてラトラパンテを選ぼうと思ったのか?

「不思議なことに、タグ・ホイヤーは腕時計のラトラパンテを作ってこなかったのです。これが唯一のものになるでしょう。ちなみにクォーツには存在していた。(アイルトン・セナ)が着けていた『S/el』ですね。でも機械式ではこれが初になる」

 しかし、なぜヴォーシェのエボーシュをベースに、ラトラパンテを作ろうと思ったのか。タグ・ホイヤーにはキャリバー02 やTH20といった、優れた自社製ムーブメントが存在する。

「もっと深い理由があるのよ。私たちは高級時計のセグメントに戻ってこようと思った。であれば、品質は妥協したくないし、ベストなメーカーと働きたい。ノウハウもそうですね。結果として値段に反映された。でもコストは一切考えなかったのよ」

 彼女の姿勢を示すのが、ムーブメントの装飾だ。機械的な仕上げを良しとするタグ・ホイヤーだが、今回は驚くほどの仕上げが施されている。しかし、あえて工業的にまとめてある。

「スイスのアータイムでムーブメントの装飾を行ったのです。パーツのひとつひとつに、30〜40時間をかけて手作業で磨き上げました」。担当したのは、同社のファブリス・デシャネルとステファン・マチュレル。超高級ブランドが頼む装飾メーカーに、あえて依頼したのもやはり、妥協したくないらだろう。「装飾に関して言うと、一番だと思いますよ」。彼女はあえてヴォーシェのエボーシュを選んだ理由に戻った。

「では私たちタグ・ホイヤーは、高級時計製造の世界で何をすべきなのか。作るべきは、スポーツシーンで使える高級時計だと思ったのです。ベースとなるムーブメントの振動数は5Hz(3万6000振動/時)で、緩急針のないフリースプラングテンプです。だからショックに強いし、等時性にも優れる。ムーブメントの受けと地板もチタン製だから軽い」

 こういった試みは今回きりと思いきや、実は今後も用意されているようだ。「私たちはオートオルロジュリーの計画を考えています。それを担うのはモナコ、カレラ、そしてモンツァになります」。



Contact info:LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030


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