控えめながら、相変わらず圧巻。パテック フィリップの2024年発表モデルを振り返り!

2024.12.22

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2024。「外装革命」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載していく。今回は、パテック フィリップの発表モデルを振り返り。例年に比べて控えめながら、いずれも抜けのない、同社の発表モデルとは?

奥田高文、三田村優:写真 Photographs by Takafumi Okuda, Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Chronos Japan Edition(Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


パテック フィリップの2024年発表モデルを振り返る

 各社とも抑えめな新作が目立った2024年のウォッチズ&ワンダーズ。老舗のパテック フィリップも例外ではなく、基本的には既存モデルのコスメティックチェンジに終始した。とはいえ、ドレスウォッチを中心とした新作群は相変わらず圧巻だ。とりわけ新しいブレスレットを備えた「ゴールデン・エリプス」は、ドレスウォッチの方向性を模索する他社に、大きな影響を与えるに違いにない。

外装に注力する本年、白眉は「ゴールデン・エリプス」

パテック フィリップ ゴールデン・エリプス

パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」Ref.5738/1
一見、ミラネーゼ風のブレスレットを合わせた新作。サイズ調整のためにブレスをカットする必要がないのは朗報だ。コマ数を増やすことで、ミラネーゼのようなウネウネした感触を再現している。価格は高いが、内外装の仕上げは比類ない。自動巻き(Cal.240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(縦39.5×横34.5mm)。3気圧防水。951万円(税込み)。

 ウォッチズ&ワンダーズ 2024の会期中、パテック フィリップの関係者はスイスのメディアに「今までの新作の在り方が異常だった」と明言した。これは同社の見解を反映したものに違いなく、果たしてパテック フィリップの新作は、今までに比べて控えめだった。とはいえ、外装の完成度を高める同社だけあって、どのプロダクトも抜けがない。

 地味だが目を引いたのは、新しいブレスレットが備わった「ゴールデン・エリプス」だ。一見ミラネーゼ風だが、これは361個のコマを連結させたもの。そのため、ミラネーゼ風でありながらも、コマを外してサイズ調整ができ、社内で「ヴィクトリー」と呼ばれるように、V字状のリンクが連なっている。パテック フィリップで開発責任者を務めるフィリップ・バラは「パテック フィリップのブレスレットを製作する、フォルツハイムのウェレンドルフから提案があった」とのこと。ネジでリンク調整ができるにもかかわらず、そのしっとりした装着感はミラネーゼに比肩する。またリンクが大きいため、カジュアルな服装にも似合うだろう。バラが「どの服装にも合うスタイル」と強調したのは納得だ。

「ワールドタイム」と「年次カレンダー」にも注目

パテック フィリップ 2024年新作

(左)パテック フィリップ「ワールドタイム」Ref.5330
2023年に《ウォッチアート・グランド・エキシビション》で発表されたポインターデイト付きワールドタイムのレギュラーモデル版。日付変更線に対応するカレンダー付きワールドタイマーはかなり複雑だが、クリック感のある、しかし軽快な操作感は残された。日付表示を加えたにもかかわらず、視認性も相変わらず良好だ。注目すべきはポインターデイト針。サファイアクリスタルでは納得できる仕上げが得られなかったため、あえて有機ガラスで成形される。自動巻き(Cal.240HU C)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ11.57mm)。3気圧防水。1213万円(税込み)。
(右)パテック フィリップ「レトログラード日付表示針付永久カレンダー、希少なハンドクラフト」Ref.5160/500
既存モデルの色違い。ケースを得意とするパテック フィリップだけあって、裏蓋のハンターケースは極めて精密な感触を持つ。また、外装の彫金から黒の彩色を省いた結果、18KWGモデルに比べて、時計の押し出しは抑えられた。ベースムーブメントは最新のCal.26-330に変更。自動巻き(Cal.26330 S QR)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KRGケース(直径38mm、厚さ11.81mm)。3気圧防水。3199万円(税込み)。

 昨年日本で開催された《ウォッチアート・グランド・エキシビション 東京(2023)》。ここで発表された日付付きの「ワールドタイム」もレギュラー化された。新たに製作されたカーボンパターンの文字盤は好みが分かれるだろうが、視認性は悪くない。

(左)パテック フィリップ「年次カレンダー」Ref.5396
5396の素材違い。ブルーグレーの文字盤も0.26ctのバゲットカットダイヤモンドをあしらったインデックスも従来に同じ。しかし、白系に統一された結果、時計のまとまりは明らかに改善された。上手いのは、インデックスに用いたダイヤモンドの固定方法。上下のみを爪で支えるのはロレックスなどに同じだが、下の台座をギリギリまで絞ることで、その存在を感じさせない。非常に洗練されたドレスウォッチだ。自動巻き(Cal.26-330 S QA LU 24H)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径38.5mm、厚さ11.2mm)。3気圧防水。1006万円(税込み)。
(右)パテック フィリップ「インライン永久カレンダー」Ref.5236P
傑作5236の文字盤違い。高い視認性を実現したのは、極めて大きなカレンダーディスク。しかし、曜日と月表示ディスクを支える軸をベアリング保持に改め、耐衝撃機構を加えることで実用性を高めた。視認性を追求する、今のパテック フィリップならではのモデルだ。また、搭載するムーブメントも、従来の31系に比べて、主ゼンマイのトルクを20%増加させている。11.07mmというケース厚も妥当である。自動巻き(Cal.31-260 PS QL)。51石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ptケース(直径41.3mm、厚さ11.07mm)。3気圧防水。2239万円(税込み)。

 個人的に評価したいのは「年次カレンダー 5396」に加わった、18KWGにバゲットカットのダイヤモンドインデックスをあしらったモデルだ。本作の発表に伴い18KRGのダイヤモンドインデックスモデルはディスコン。通常の文字盤に比べてインデックスはかなり短いが、日付表示とインデックスの長さがそろった結果、デザインのバランスは明らかに改善された。デザインだけを言えば本作は5396のベストではないか。

意外な新作モデル

パテック フィリップ「ノーチラス フライバック・クロノグラフ」Ref.5980/6
従来の仕様違いと思いきや、スリムな造形を得たモデル。ベゼルをごくわずかに絞ることで、ノーチラスの複雑系に見られる重厚さを少し抑えた。大きな開口部と、明るいブルーグレー・オパーリン文字盤により、時計の印象はかなり異なる。普通、ケースが変わるとリファレンスは変更になるはずだが、本作は従来に同じ。18KWGケースのため、かなり重い時計だが、装着感は想像よりも悪くない。自動巻き(Cal.CH 28-520 C/522)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWGケース(直径[10-4時方向]40.5mm、厚さ12.2mm)。3気圧防水。1250万円(税込み)。

 意外だったのは、「ノーチラス フライバック・クロノグラフ」である。既存モデルの色違いと思いきや、ベゼルをわずかに絞ることで、文字盤の開口部を広げている。これは細いベゼルを好むティエリー・スターンの趣味を反映させたものだろう。そのさじ加減は絶妙で、ノーチラスの骨太な造形を邪魔しない程度に、わずかにスリムに見せている。重い18KWGのため、5711や5712のような装着感は望めないが、太いストラップのおかげで着け心地は決して悪くない。

抜けのないパテック フィリップの2024年発表モデル

パテック フィリップ「アラーム・トラベルタイム」Ref.5520
5520Pに追加されたバリエーション。18KRGケースに、加熱処理した18KWG製のプッシュボタンチューブを合わせたモデル。ミニットリピーターよろしく、ゴングで音を鳴らすアラームは従来に同じ。安全機構が設けられているため、誤操作で壊す心配は少ないだろう。非常に優れたモデル。しかし、あえてグリーンに改められた針とインデックスの夜光は、筆者の好みではない。自動巻き(Cal.AL 30-660 S C FUS)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KRG×18KWGケース(直径42.2mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。4104万円(税込み)。

 現行のパテック フィリップに関して、筆者は強いて言うことがない。2010年代の後半以降、ケースの磨きはさらに改善されたし、PVDを用いたブルーグレー文字盤の発色も群を抜いて良質だ。またラッカーによるグラデーション文字盤も境界線が全く見えない。セラミックスのベアリングを使っているにもかかわらずローター音は静かだし、シリコン製ヒゲゼンマイのおかげで、耐磁性にも優れている。強いて気になる点を挙げれば、デニム調のパターンが施されたレザーストラップぐらいだろうか。デニムに見えてレザーという驚きはあるし、この素材ならば、ゴールドケースは傷めないだろう。ただし、筆者の好みではない。

 さておき、今年も総じて抜けのなかったパテック フィリップ。今年の後半にも大いに期待したい。

(左)パテック フィリップ「アクアノート・トラベルタイム」Ref.5269
個人的には非常に引かれるモデル。旧作から貴石を省いただけだが、結果としてまとまりのあるトラベルウォッチとなった。時針の単独修正機能や、6時位置にあるホームタイムの昼夜表示も実用的。ただし「HOME」の表記は蛇足だろう。使える旅時計を探す人には申し分ない。クォーツ(Cal.E 23-250 SFUS 24H)。18KRGケース(直径[10-4時方向]38.8mm、厚さ8.77mm)。3気圧防水。560万円(税込み)。
(右)パテック フィリップ「アクアノート・トラベルタイム」Ref.5164
2011年に発表された5164の素材違い。併せてムーブメントが最新のCal.26-330 S C FUSに改められた。素材の変更にもかかわらず、装着感は秀逸だ。しかし、今回からアクアノート全般の防水性能が3気圧に下げられたのは惜しまれる。自動巻き(Cal.26-330 S CFUS)。29石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径[10-4時方向]40.8mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。998万円(税込み)。



Contact info:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109


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