時計専門誌『クロノス日本版』のライター・エディターに最近お願いしている「私の思い出の1本」企画。今回はフリーエディターの竹石祐三が自身の「ターニングポイント」で入手し、現在も飽きることなく着用するカルティエの「サントス ドゥ カルティエ」を取り上げる。
写真は2018年発売のWSSA0010。現行はWSSA0029で、時計本体のスペックは変わらないものの、付属するレザーストラップのバックルが仕様変更になっているようだ。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦42×横35.1mm、厚さ8.83mm)。10気圧防水。
Photographs & Text by Yuzo Takeishi
[2024年12月23日公開記事]
初めてのジュネーブ取材が決まって買った1本
時計を買うのは5年に1本と決めている。とあるモノ系情報誌の編集部で時計担当になったとき、うっかり2年連続で時計を購入してまあまあ金に困ったので、やはり5年に1本くらいが現実的だと考えたからだ。それに、5年に一度はターニングポイントになるような出来事があるため、自分を奮い立たせるためにも新しい時計を手に入れて──なんていう理由も考えたのだが、さすがにこれはカッコつけ過ぎか。
だが実際、独立を決意したのは2本目を購入してからちょうど5年後のこと。それゆえ、3本目の時計がフリーランスとして馬車馬のように働こうという決意を込めた、モニュメント的な1本になったのは事実だ。ただ、有給休暇もまともに消化しないままずるずるとフリーランスになり、その後はありがたいことに忙しい日々が続いたので、3本目の購入は先延ばしになっていた。
購入を本格的に考えたのは、独立して1年半が過ぎた2018年の秋。その翌年に初めてSIHH(Salon international de la haute horlogerie)の取材に行けることになったのだが、せっかくなら出展ブランドの時計を身につけて臨みたいと考え、思い浮かんだのが2018年に発表されたカルティエの「サントス ドゥ カルティエ」だった。
キラーフレーズは「シェアウォッチにするのはどうよ?」
この時計を選んだ理由はいくつかあるが、ひとつにはクロノグラフを2本立て続けに購入したので、そろそろシンプルな3針モデルが欲しいと考えたこと。そしてもうひとつは、1904年の誕生からほぼ変わらないそのルックスだ。上品でありながらインダストリアルな雰囲気も漂わせる、カルティエらしい絶妙なデザインバランスに一見して心を奪われたことが何よりも大きい。
ちなみに、このモデルの購入を考えた際には本誌・広田編集長にも相談している。「どうですかね?」という筆者の漠然とした問いかけに対し、「いいと思いますっ!」と即答いただき、さらにはムーブメントが耐磁性能を備えたことをはじめ、良化したポイントを端的に説明していただいたことで、いよいよ購入する肚が決まった。
もっとも、「買う」と決めたところでホイホイと買いに走ったわけではない。最難関となる家人へのプレゼンが残っていたのだ。とはいえ、この時計は他と比べて実にプレゼンしやすかった。ポイントは3つ。まず、カルティエを代表するコレクションのひとつであること。次に、ケースサイズが小さいので手首の細いの女性にもよく似合うこと。そして、クイックスイッチと呼ばれるシステムを備えているため、付属のカーフストラップに交換しやすいことだ。これらを総合して「シェアウォッチとして使うのはどうだい?」と締め括った。果たしてこのひと言が効果的だったのかは定かではないが、1カ月後には無事にサントス ドゥ カルティエを手にすることになる。そして、現在まで家人がこの時計を手にしたことは一度もない。
装着感の高さと完成されたデザインから、登板回数トップの時計に
2018年、カルティエはケースサイズやマテリアルを含め、サントス ドゥ カルティエを多彩なラインナップでリリースした。筆者が購入したのは、もっともベーシックなステンレススティール製のMMモデル。ケースは縦42×横35.1mm、厚さ8.83mmのスモールサイズで、それまでに購入した時計(いずれも直径42mm)と比較すると、当然のことながら手首への収まりがよく、着け心地も快適だ。
そして、手に入れて改めて感心させられたのがデザインだ。初作の誕生から100年以上が経過しているにも関わらず、全く古さを感じさせないどころか、今もなお──いや、この先もずっと先鋭的な印象を与え続けるのだろうと思わせる。繰り返しになるが、カルティエらしいエレガンスを保ちながらもインダストリアルな雰囲気を漂わせ、その佇まいは実にモダン。そのためスーツやジャケットはもちろん、Tシャツ&デニムなどのルーズなスタイルにも合わせやすく、所有する時計の中でも着用頻度が断トツに多いモデルとなった。
(今のところ)自分にとって最も大きなターニングポイントで手にした時計であり、とりわけ思い入れは強いのだが、それにしても購入から約6年、飽きることなく着用し続けられるというのは、それだけデザインの完成度が高いということなのだろう。