タイメックス「アイアンマン 8ラップ メタル」を実機レビューする。本作は、タイメックスを代表するデジタルスポーツウォッチコレクション、「アイアンマン」に属する2024年新作であり、ステンレススティール製の高級感あるケースをまとっている。
ステンレススティール製のケースを採用した2024年新作。オールブラックのカラーリングがクールな印象をもたらす。クォーツ。SSケース(直径39mm)。100m防水。5万8300円(税込み)。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2024年12月25日公開記事]
伝説的デジタルウォッチ「アイアンマン」
今回レビューを行うのは、タイメックスの「アイアンマン 8ラップ メタル」だ。本作は、タイメックスを代表するデジタルウォッチのひとつ、「アイアンマン 8ラップ」のデザインを受け継いだ、2024年新作である。
オリジナルは1986年に誕生し、発売初年度に40万本を売り上げ、スポーツウォッチの金字塔とまで呼ばれた存在だ。アメリカの第42代大統領を務めたビル・クリントンが愛用していたことや、同シリーズの時計をNASAの宇宙飛行士が宇宙へ携行したことなど、数多くの逸話を持つことでも知られている。
タイメックスは、そのルーツを1854年にさかのぼるアメリカの時計ブランド。長い歴史から、たった1ドルのポケットウォッチ「ヤンキー」や、1933年の「ミッキーマウス・ウォッチ」など、多くの名作を世に送り出してきたが、タイメックスと言えばアイアンマンを思い浮かべる方も少なくないのではないだろうか。
オリジナルを知る人にとっては懐かしく、また知らない人にとっては新鮮味すら感じるアイアンマン。現代の新作として登場したアイアンマン 8ラップ メタルは、どのような時計なのだろうか。本作にはゴールド、シルバー、ブラックの3種類のカラーバリエーションが存在しているが、今回はブラックカラーのモデルを取り上げてみたい。
フルメタルケースで高級感アップ!
本作は、ベゼルやケース、ベルトやボタンまで、オールブラックで統一したクールなカラーリングが魅力だ。アイアンマンと言えば樹脂製ケースの印象があるが、本作の場合は頑強なステンレススティール製。ただ単に素材を変更するだけではなく、十分な防水性を確保するために金型を新規に作り直し、ケースバックの構造も改めているとのこと。見た目の高級感が格段に向上しているのはもちろん、本作に対するタイメックスの熱意が感じられる。
オールブラックとはいえ、仕上げを変えることで表情にメリハリをつけているため、眺めているだけでも楽しめる。ベゼルは艶消し、ミドルケースやベゼルを固定するネジは艶のある仕上げとすることで、立体感を高めている。ケースはエッジがやや落とされ、ほのかに柔らかな印象だ。筆者の個人的なイメージでは、多色のカラーリングこそアイアンマンらしさを特徴づけるものと考えていたが、本作を見てその考えは霧散した。
では、アイアンマンらしさを感じさせるものは何だろうかというと、ネジ留めされたベゼルに配されたふたつのボタンではないだろうか。これは、主にクロノグラフ機能でのスタート、ストップ、ラップ、リセットなどの操作を行う際に用いるものである。着用した状態で押しやすい位置に配されたボタンは、アイアンマンのスポーツウォッチとしてのキャラクターを象徴する意匠だ。
そのほか、ケースサイドの2時位置にはライト点灯用、4時位置には時刻やカレンダーを修正する際に用いるセット用、8時位置にはモード切り替え用のボタンが配されている。使用頻度の高いボタンは押しやすく、反対に誤作動が重大な影響を及ぼすセット用のボタンは、小さく押しにくくされている。
ケースバックは地の色のステンレススティール製。ロゴやスペックに関わるテキストが刻まれている。四隅にマイナスネジを配し、ミドルケースに固定されている。
ベルトは、ケースと同じくステンレススティールをブラックで仕上げたもの。7連タイプだが、両端をマットに、中央を艶のある仕上げとすることで表情を付けられている。ベルトのつくりは至って簡素だ。板を丸く折り曲げたようなコマで構成された、いわゆる“巻ブレス”である。ただし腕回りの調整はコマの抜き差しによるものではなく、ベルトの中腹に取り付けられた金具の位置をスライドさせて行うスライド式。マイナスドライバーなどで金具のロックを外し、任意の位置にスライドさせた後にロックを押し込んで固定するだけだ。調整自体が簡単であることに加え、無段階で調整できるため、腕回りにも合わせやすい。ちなみに、ゴールドカラーケースのモデルとシルバーカラーケースのモデルには、ステンレススティールではなくラバー製のストラップが装着されている。
使ってこそ輝くマルチな機能
多機能ゆえになかなか操作が複雑なデジタルウォッチ。それは本作であっても例外ではない。ボタンが多い分、慣れれば使いやすいが、初見で扱いこなすことは困難だろう。
本作には通常の時刻表示のほか、クロノグラフとカウントダウンタイマー、アラームの3つのモードが備わっている。各モードは8時位置のボタンを押下するごとに切り替わり、液晶に“CHRONO”、“TIMER”、“ALARM”の文字が順に表示される。説明書を確認しながら何回か操作をすれば、おおよその使い方はマスターできるはずだ。特にクロノグラフは、簡単にラップタイムを計測できるため、さまざまなものを計って楽しむことができる。
時刻やカレンダーの調整をする際には、4時位置のボタンを長押しする必要がある。長押しのため、誤って触れてしまって気付かぬうちに時刻調整が開始されているということも発生しないだろう。
コンパクトなケースはスポーツシーンにも寄りそう
本作のケースは直径39mmだが、腕に載せるとそれよりも小さな印象を受ける。恐らくケースに対してダイアルが小さく見えるためだろう。アナログウォッチでは大抵、円形のダイアルにインデックスと針が並び、視認性を確保するためにもある程度の面積を要する。しかしデジタルウォッチである本作では、長方形の液晶が実質的なダイアルであり、面積で考えればアナログウォッチよりもだいぶ小さくなる。
コンパクトなケースは、日常使いだけではなく、スポーツシーンでも活躍する。ブレスレットウォッチを着けて走ると腕元で時計が暴れて気になるが、腕回りぴったりに調整しやすく軽量な本作であればそれほど気にならない。もっとも、スポーツシーンでの着用をメインとするのであれば、ラバーストラップに変更したほうがさらに良いだろう。
ボタンの操作性も十分だ。2時位置や8時位置のボタンは、中央をわずかに窪ませることで、指で押し込んだ際に滑りにくくしている。
腕に装着する際の注意点としては、スライド式ブレスレットに慣れる必要があるということくらいだろう。三つ折れ式ブレスレットはクラスプを解放しても輪が解かれることはないが、スライド式はクラスプを解放した時点でブレスレットの6時側と12時側に分離される。そのため、ピンバックルの付いたレザーストラップと同様、片手でサッと装着することが難しいのだ。
密かに盛り上がりを見せるデジタルウォッチ
ここ数年で、デジタルウォッチは一気に盛り上がりを見せているように感じる。筆者はスマートウォッチの普及に伴い、真っ先にデジタルウォッチが影響を受けるのではないかと思ったが、その予想と反してこれまでにあまり見られなかった高価格帯のものも含め、新作が次々に投入された。復刻ブームの延長上ということもあるのだろう。黎明期のデジタルウォッチには、従来のアナログウォッチには見られなかったユニークなデザインを持つモデルも少なくない。針と歯車という制約から解き放たれ、その自由と可能性を謳歌するようなデザインは、現代の時計愛好家の心をもつかむものだったのだ。
その背景を思えばこそ、本作の登場はある意味で必然だったのかもしれない。アイアンマンは以前より復刻されていたが、より現代的にステンレススティール製のケースを採用した本作は、アイアンマンという存在を懐かしむ大人の時計愛好家が着用するにもふさわしい重厚感を備える。懐かしさと新鮮さを併せ持つ本作は、このアイコニックなデザインを後世にまで伝えていくための語り部なのだ。