こちらは北半球と南半球の月齢を同時に表示する「ダブルムーン」の図面。巨大なムーブメントサイズにより、月齢表示のギアの歯はさらに増えた。のみならず、北半球・南半球の同時表示という、独創的な機能を盛り込むことに成功した。この精密なムーンフェイズは、他社の設計に大きな影響を与えた。
1985年に発表されたIWCの「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」は、さまざまな点で画期的な永久カレンダーであった。まずは、リュウズひとつですべてが操作可能な点。これには、リュウズによるすべてのカレンダーの早送りも含まれる。そしてもうひとつが、極めて精密な月齢表示だ。
一般的なムーンフェイズは、ムーンディスクの外周に59枚の歯を設けている。そのため、ムーンディスクは29日と12時間で半周(月齢1周期)することになる。実際の月齢の1周期は29日12時間44分2.88秒(=29.5305891…日)であるため、ひとつの月齢周期につき約44分のずれが生じる。対して、ジュネーブ時計学校の教授であったフランソワ・ルクルトは「こういったムーンフェイズはファッションであり、正確ではない」と断言した。
では、どのような設計にすれば、ムーンフェイズは正確になるのか。答えは簡単で、中間車を増やして、ギアの数を増やせばいいのである。フランソワ・ルクルトは精密なムーンフェイズの例として、中間車を含めたムーンディスクの歯数を、135歯に増やしたものを挙げた。歯が増えると、ムーンディスクの回転は、29日と12時間45分で月齢1周期となり、ほぼ実際の月齢と近しい動きになる。