2024年の傑作コンプリケーションウォッチ5選！　各社のプライドと技術力が体現された複雑機構に注目

2024年新作より、傑作コンプリケーションウォッチ5本を紹介する。多くの新作が発表された2024年、ギネス世界記録に認定されたものから優雅なオートマタを搭載したものまで、魅力的なコンプリケーションウォッチの話も欠かせない。

時計愛好家を魅了する複雑機構

　時刻表示を目的としたツールである時計。しかし、中には時刻表示にプラスしてさまざまな機構を搭載しているものもある。カレンダーやクロノグラフ、GMT、ワールドタイムなど、知恵と技術を結集させて誕生してきたこれらの複雑機構は、利便性を高めるだけではなく、その機構特有のダイアルやムーブメントのデザインと審美性、さらには操作感など、時計自体を楽しむいくつもの切り口をもたらしてくれる。

　今回は、2024年に発表された新作のコンプリケーションウォッチより、5本の傑作を紹介する。これらを通じ、いくつもの歯車が重なり合うことで紡がれる神秘の世界に触れてみてはいかがだろうか。

IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」

　IWCの2024年新作の中でも特に注目度の高かった「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」。本作は、現代で一般的に用いられるグレゴリオ暦のルールに対応したコンプリケーションウォッチだ。

　グレゴリオ暦は、原則4年に一度の閏年を挟むが、その例外として100で割り切れる年は平年、その中でも400で割り切れる年は閏年とするというルールがある。本作が搭載するムーブメントには、この複雑なルールが機械的にプログラミングされている。

　さらに、4536万1055年に1日の誤差という超高精度なムーンフェイズを搭載していることも、本作の特徴のひとつ。この並外れた精度は、「最も精密なムーンフェイズの腕時計」としてギネス世界記録に認定されたことでも話題となった。

　ポルトギーゼらしい細いベゼルを備えたケースは、プラチナ製。これだけ複雑な機構を搭載していながらも、直径44.4mm、厚さ15mmと実使用にも適したサイズ感を持ち、5気圧防水を達成している点には、優れた実用時計を多く手掛けてきたIWCらしさが垣間見える。

ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」

　複雑機構の搭載と、安定した精度の発揮を両立させるジャガー・ルクルトのデュオメトル機構。これは、時刻表示と複雑機構に対し、別々の香箱と輪列を与えることで、複雑機構の作動による計時精度への影響を排除するものである。

「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」の中で一際目を引くのは、3軸上で回転するヘリオトゥールビヨンだ。ダイアルを大きく包み込むドームサファイアクリスタルと、ケースサイドの開口部より、ダイナミックに動くトゥールビヨンを鑑賞することができる。

　また、本作にはパーペチュアルカレンダーも搭載されている。6時位置のインダイアルによって西暦と月、12時位置のインダイアルによって曜日と月齢を示す。時刻は、3時位置のインダイアルに表示される。パーペチュアルカレンダーの多くは、時刻を戻す操作をすることで内部の破損につながる場合があるが、デュオメトル機構を搭載した本作ではそのような心配がない。

ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ」

　ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ（GPHG）2024のレディース コンプリケーション ウォッチ賞のグランプリに輝いたオートマタウォッチ。8時位置のボタンを押下することによって、ダイアル上の蝶が飛び交うなど、神秘的なアニメーションが展開される。マザー・オブ・パールのダイアルを彩る花々は、ミニアチュールペインティングによってブルーのグラデーションが施されている。職人の手作業による緻密なペインティングを楽しむことができる1本だ。

　花びらはヴァロネエナメル、蝶はプリカジュールエナメルなど、パーツによって技法を使い分けていることも本作の魅力のひとつ。繊細な色味は、明るいトーンから暗いトーンまで一色ごと丁寧に焼成を繰り返すことで実現されている。エナメルの焼成は、その日の気温などの諸条件によって仕上がりが変わってくる。そのタイミングの見極めには、エナメル職人の技が生きている。ムーブメントは、自動巻きの機械式が採用されている。

ジェイコブ「アストロノミア レギュレーター」Cal.JCAM56

　ムーブメントの上に複数の構造物を配し、それらを回転させるという奇想天外な構造を特徴とする、ジェイコブの「アストロノミア」。本作は、その機構をベースとしつつ、時・分・秒をそれぞれ独立させたレギュレーターウォッチである。ムーブメントの上には、時と分のディスクに加え、フライングトゥールビヨンが取り付けられ、60秒かけてダイアル上を時計回りに周回する。秒表示は、6時位置から伸びる針によって示され、60までの目盛りが振られたディスクが反時計回りに回転する。

　このユニークな構造と動きは、あらゆる角度から鑑賞することが可能だ。18Kレッドゴールド製のケースには大胆なスケルトン加工が施され、ダイアルの上面はもちろんのこと、ケースサイドに至るまでサファイアクリスタルで覆われ、内部構造を明らかにしている。

　構造物や秒ディスクを高速で回転させるアストロノミア レギュレーター。本作は、ジェイコブの技術とユニークな発想力を象徴する1本なのである。

アーミン・シュトローム「デュアルタイム GMT レゾナンス ファースト・エディション」

　ブランド創立15周年を記念し、世界限定25本のみが販売される希少モデル。最大の特徴は、アーミン・シュトロームを象徴する複雑機構であるレゾナンス機構を搭載しつつ、直径39mmのコンパクトなケースを実現している点にある。右半分と左半分でそれぞれ独立した香箱、テンプ、ダイアルが配されている。隣接した2つのテンプが共振状態を作り出すことで互いに精度を調整しているのが、レゾナンス機構の特徴だ。

　スカイブルーカラーのダイアルは、グレナージュ仕上げによって豊かな表情を与えられている。それぞれのダイアルの6時位置には、太陽と月がエングレーブされたナイトアンドデイ表示が配され、簡単に昼夜を判別できるようにしている。右側のダイアルと左側のダイアルは、それぞれ別のリュウズを用いて時刻調整をすることが可能だ。これによって、異なる2つのタイムゾーンの時刻を同時に表示することができる。一般的なGMTウォッチでは分針を共用することが多いが、本作の場合は分針が独立しているため、第2時間帯を分単位で設定することができる。