「デルフィン メカノ オートマティック」は2020年にリリースされた、エドックスを代表するモデルのひとつ。ブランドのアーカイブピースの系譜に連なるモデルでありながら、オリジナルとは印象を異にする現代的なデザインを取り入れたことで注目を集めた。発売から4年が経過した今もなお、安定した評価を得ている本作だが、その理由はどこにあるのか。実機を着用しながら、その魅力を探ってみた。
Photographs & Text by Yuzo Takeishi
[2024年12月26日公開記事]
「デルフィン」の印象を一変させた、コレクション初のオープンワークデザイン
本作の起源となる「デルフィン」の初代モデルが誕生したのは1961年のこと。独自の防水機構であるダブル-Oリングをリュウズ内部に備え、さらに衝撃吸収性能のある特殊な内部構造を持つケースを採用することで、当時としては画期的な200mの防水性を実現した。この初作は1960年代の時計に多く見られるクッション型のケースを採用していたが、1971年にリリースされたモデルではデザインを一新。当時のトレンドであったラグジュアリースポーツウォッチのデザインを強く意識したのであろう、6カ所をビス留めした十二角形のベゼルを取り入れ、スポーティーでありながらエレガンスも感じさせるルックスを作り上げた。
やがて、2014年にエドックスが創業130周年を迎えた際にはデルフィンが復活。その後はバリエーションを拡充しながら基幹コレクションへと成長を遂げるが、とりわけ初作の系譜に連なるモデルでは、特徴的なビス留めの十二角形ベゼルを踏襲しながら、よりモダンなデザインへとアップデートを続けていく。今回レビューする「デルフィン メカノ オートマティック」も、1971年モデルで初採用された特徴的なベゼルの意匠を取り入れているが、新たにコレクション初となるオープンワークデザインのダイアルを採用し、コレクションに新鮮味をもたらしている。
自動巻き(Cal.EDOX853)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径43mm、厚さ12.5mm)。20気圧防水。34万6500円(税込み)。
建造物のような雰囲気を与えたカットワークダイアル
ムーブメントの構造や駆動する様子を観察できるのは、スケルトンデザインを取り入れた機械式時計の醍醐味であることは理解しているつもりだ。その一方で個人的な話をすると、スケルトンダイアルの時計は好みではない。理由は単純。煩雑に感じてしまうからだ。しかし、レビュー用に本作を手渡された時は、これまでスケルトンダイアルの時計に抱いていた印象とは違う感覚があった。たしかに、テンプやガンギ車、香箱、アンクルといった精緻なパーツが目に飛び込んではくるものの、時刻はしっかりと判読できるし、何より本作のダイアルは均整の取れたデザインになっているため、すっきり……とまではいかないが、極端に煩雑さを感じさせないのが好印象だ。
これは、インデックスと針をケースやベゼルと同じ、ピンクゴールド色にしたことが大きいだろう。デザインに統一感を与えるのみならず、シルバー色を基調としたムーブメントパーツとの間にコントラストが生まれ、判読性を高めることにもつながっている。しかも本作では、エドックスのエンブレムに用いられている砂時計をモチーフとしたカットワークのダイアルを用いているのだが、これにより、一般的なスケルトンダイアルに見られる“いかにも機械”的な雰囲気は影を潜め、むしろモダンな建造物のような構造美を感じさせてくれる。
しなやかなラバーストラップがもたらす安定感
実際に本作を着けてみると、ピンクゴールド色のケースが肌に馴染みやすいうえに、ブラックの十二角形ベゼルが引き締まった印象を与えるからだろうか、サイズは直径43mm、厚さ12.5mmであるものの、手首に載せた時には大きさを意識させないことに好感を持った。しかも着用時には安定感があり、時計本体がぐらつくようなこともなかったのだが、これはラバーストラップのホールド感によるところが大きそうだ。シリコンを配合して作られたというラバーストラップは適度なしなやかさを持ち、肌あたりも良好。事実、長時間の着用でも快適さが失われることはなかったが、夏場に着けた際にどのように感じられるのかは、機会があれば試してみたいところだ。
もちろん初代モデルと同様、本作もねじ込み式のリュウズを装備しており、防水性は20気圧を確保。しかもケースには縦方向のヘアライン、ベゼルには円周状のヘアラインをそれぞれ施しているため、万が一細かい傷がついても目立ちにくいのがメリットだという。これならタウンユースに限定せず、ライトなアクティビティでも積極的に着けられそうだ。
これでアンダー40万円なら評価が高いことも納得
本作はスケルトンデザインに対する筆者の先入観を覆し、蓋を開けてみればトータルバランスのいいモデルだと実感できた。時刻は確認しやすいし、直径43mmというやや大きめのサイズを感じさせない、快適な装着感が得られた。それは、初めて着けた時計とは思えないほどだ。しかも、モダンな印象を与えるダイアルとスポーティーな外装デザイン、ローズゴールド色とブラックの組み合わせによる落ち着いたカラーリングによって、幅広い服装にコーディネートしやすいとなれば、これはもう、デイリーウォッチの快作と言えるだろう。そのうえで、エドックスらしい手の届きやすいプライスを実現しているのだから、それは発売から4年が経った現在も高い評価を獲得し続けているのは大いにうなずける。