気がついたらもう師走。もうすぐ終わりそうな2024年。『クロノス日本版』/webChronos編集長の広田が、月ごとの気になるトピックから一年を振り返ります。日々の忙しさのために忘れてしまっているアレコレを、きっと思い出すはず。それでは、広田的重大トピックをとくと見よ!
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2023年12月27日公開記事]
広田的重要トピック12カ月
『クロノス日本版』/webChronos編集長である広田雅将が、2024に起こったさまざまなアレコレを月ごとにピックアップ。1年を振り返ろう。
1月:LVMHの人事が大きく変わる
1月1日付で、タグ・ホイヤーのCEOだったフレデリック・アルノーがLVMH グループ時計部門の責任者に就任。代わりにゼニスのCEOだったジュリアン・トルナーレがタグ・ホイヤーの新CEOに、ブノワ ド クレークが、ゼニス新CEOに抜擢される。トルナーレの就任は妥当と思ったけど、彼は9月にウブロのCEOとなりましたとさ。この人事で、LVMHグループは次の成長エンジンが時計とジュエリーであることを宣言しましたとさ。
2月:トケマッチの問題が世間を騒がせる、そしてカシオトロンの発表
時計を貸してお金をもらえるトケマッチ。実はサービスを行っていなかったことが判明。借りた時計を売り飛ばすという自転車操業はついに破綻。10数億とも20数億とも言える被害を与えて、創業者はドバイに高飛びし、今なお潜伏中との噂あり。逮捕されないんですかね? ちなみに、時計を借りるサービスを提供している「カリトケ」さんは、極めて健全です。またこの月は、カシオが「カシオトロン」を限定復刻。サイズの小さな、そして今のトレンドであるセブンティーズなデザインを持つこのモデルは、今後間違いなく、カシオを支えるひとつの柱となるはずだ。
カシオ腕時計50周年を記念するのが限定モデルの「カシオトロンTRN-50-2AJR」だ。1974年のオリジナルモデルを忠実に再現するが、中身は最新の技術で武装されている。BLE電波ソーラー。SSケース(縦42.7×横39.1mm、厚さ12.3mm)。5気圧防水。世界限定4000本。完売。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925
3月:小さなサイズの「フィフティ ファゾムス オートマティック」
時計業界のトレンドは、明らかに小さく薄くになっている。それを意識したわけではないだろうが、ブランパンは「フィフティファゾムス」の42.3mm版をリリースした。ちなみに昨年発表したのは、ステンレス製の限定版。2024年のモデルはチタンとゴールドのレギュラー版だ。かつてのフィフティファゾムスは、耐磁性能を上げるために軟鉄製のインナーケースを採用していたが、シリコン製のヒゲゼンマイにより不要になった。結果として、フィフティファゾムスはまず軽くなり、続いてはケースの縮小にも成功した。個人的な意見を言うと、チタン製の新しいフィフティファゾムスはベストじゃないか。
自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径42.3mm、厚さ14.3mm)。300m防水。272万8000円(税込み)。
ブランパン「フィフティ ファゾムス オートマティック」(中)Ref.5010 12B40 98S
自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径42.3mm、厚さ14.3mm)。300m防水。チタンブレスレット:287万1000円(税込み)。
ブランパン「フィフティ ファゾムス オートマティック」(右)Ref.5010 12B30 98S
12B40 98S自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径42.3mm、厚さ14.3mm)。300m防水。チタンブレスレット:287万1000円(税込み)。(問)ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233
4月:ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2024
バーゼルワールドなきあと、一層存在感を増したジュネーブの時計見本市。4月9日から15日まで開催されたこのイベントには、54ものメーカーが参加。一般公開日も3日に延長された結果、参加者数は昨年より14%多い、約4万9000人となった。今年は、ヴァン クリーフ&アーペルやシャネル、エルメスなどがいっそうハイエンドに向かう一方、老舗の時計メーカーは、景気の悪化を見越してか、既存モデルの色違いなどに終始した。もっとも、愛好家に手堅く売れそうなモデルは2024年も多く見られた。カルティエの「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」が好例だろう。また、パテック フィリップの「ゴールデン・エリプス」は、よくできたゴールドのブレスレットで注目を集めていた。個人的にひかれたのは、カルティエのミニモデルだ。明らかに女性用にもかかわらず、カルティエはこれをユニセックスモデルとしてリリース。ウルトラミニウォッチのトレンドは、ごく一部の層には確実に広がりつつある。
自動巻き(Cal.240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(縦39.5×横34.5mm、厚さ5.9mm)。3気圧防水。951万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
5月:NH Watch新作発表と、ロコモティブのリリース、そしてTAKANOの復活
春のイベントといえば、NH Watchの新作発表だ。SNSで当たった落ちたという報告を聞くと、春が来たという気分になる。今年はスクエアの「NH TYPE 5A」をリリース。合わせてユニークなバックルも発売した。時計としての出来が良いだけでなく、装身具としても細部を詰めてきたのはさすが。加えてこの月には、セイコーが伝説的な「ロコモティブ」を発表した。ジェラルド・ジェンタのオリジナルデザインを再現しただけでなく、ブレスレットなどの仕上げも、歴代のセイコーではピカイチではないか。国内200本、海外100本の限定生産のため即完売。転売ヤーが目立つのはちょっとよろしくなかったですけど。そして月末には、あのTAKANOが復活。名前だけを借りたと思いきや、内外装も良質で、高級時計然とした仕上がりとなっていた。これが売れるのは納得。
手巻き(Cal.2524SS)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(全長33mm、全幅26mm、厚さ9.1mm)。3気圧防水。330万円(税込み)。(問)NAOYA HIDA & Co.naoyahidawatch.com
6月:ブライトリングが創業140周年を迎えました
2024年は、ブライトリングの140周年。それを記念して、ヴィンテージウォッチ展がブティック表参道と大阪で開催された。合わせて不肖広田も講演をしましたとさ。もっとも一層見るべきは、140周年記念としてリリースされた3つの限定モデルだろう。これらの金ケース入り永久カレンダークロノは、ベースムーブメントにCal.01の改良版を、そして全くの新規設計である永久カレンダーモジュールを搭載していた。リュウズを回すだけですべてのカレンダーが切り替わるだけでなく、瞬時送りも付いているというから、これはひょっとして、現行で最もよくできた永久カレンダーかもしれない。
自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ15.6mm)。10気圧防水。要価格問い合わせ。
(中)ブライトリング「スーパー クロノマット B19 44 パーペチュアルカレンダー 140周年アニバーサリー」Ref.RB19301A1G1S1
自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径44mm、厚さ15.35mm)。10気圧防水。要価格問い合わせ。
(右)ブライトリング「ナビタイマー B19 クロノグラフ 43 パーペチュアルカレンダー 140周年アニバーサリー」Ref.RB19101A1H1P1
自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径43mm、厚さ15.6mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
7月:キングセイコーはデザインを目指す
マニアには受けの良いキングセイコーだが、グランドセイコーとの被りは否めなかった。というわけで、セイコーは文字盤のカラーバリエーションを増やし、7月にはジェンタの「Cライン」風ケースを持つ新モデルを追加した。文字盤で圧倒的な競争力を持つセイコーが、外装で違いを出すようになったのは当然だろう。合わせてセイコーは、キングセイコーのデザイン展を開催。若手のデザイナーが出てくる時計メーカーは間違いなく伸びます。
自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径39.4mm、厚さ9.9mm)。5気圧防水。39万6000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012。
8月:実はプロマスターの35周年、そしてジュネーブ・ウォッチ・デイズ開催
筆者が好きなプロマスターは、2024年で35周年を迎える。それを記念して、シチズンは「プロマスター エコ・ドライブ電波時計 35周年記念限定モデル」をリリースした。搭載するのは傑作デジアナのCal.U680で、価格も安いし、仕上げもいい。独自路線を貫くシチズンらしい1本と思ったが、ちょっと大きいのは残念。そして月末には、ジュネーブ・ウォッチ・デイズが開催された。主催はブルガリやブライトリング。加えて今年はブランパンや、なんとブレゲも加わった。見本市には参加しないと決めたスウォッチ グループだが、ひょっとしてジュネーブウォッチデイズはその受け皿になるのか? ちなみに8月は「ロンジン スピリット ズールー タイム」にチタンモデルが追加された。これはかなり良い時計。
光発電エコ・ドライブ(Cal.U680)。フル充電時約3.5年駆動(パワーセーブ作動時)。SSケース(直径45.7mm、厚さ13.8mm)。20気圧防水。世界限定5600本。12万1000円(税込み)。数量限定のため生産終了。
9月:世界の時計市場は大きくダメージを受ける
2024年の9月は、アジアを中心にスイスの時計業界の出荷額と本数が激減した。とりわけ目を引いたのは中国。本数ベースでも、金額ベースでも約半分となった。一方、アメリカと日本は堅調。春のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、多くの関係者は下半期に景気は悪化すると予想していた。8月は持ちこたえたが、ついに9月は大きく下落、来年の新製品を見直すメーカーも出てくるようになった。結果として、来年の新製品は、今年に同じく、景気の関係ない超富裕層向けはいっそう華やかに、普通の人向けのモデルは、コスメティックチェンジが主になるのではないか。
10月:ユニバーサル・ジュネーブ本格始動、グレゴリー・キスリングがブレゲのCEOに! そしてキュビタス
香港資本の買収後、鳴りを潜めていたユニバーサル・ジュネーブ。しかしブライトリングを買収したCVCが傘下に加えた2023年以降、本格的に動き出すようになった。2024年の10月には、プレスラウンジが開設。加えて、ロジェ・デュブイのグレゴリー・ブルタンを招聘し、商品開発を加速させようとしている。スポーツウォッチよりも、シンプルな時計が注目される昨今、新しいユニバーサル・ジュネーブは次なる台風の目となるのではないか。そして10月1日には、なんとオメガで辣腕を振るったグレゴリー・キスリングがブレゲのCEOに就任。彼ほど時計が分かっているCEOはいないはず。今後ブレゲは大化けする可能性あり。また10月には、パテック フィリップが「CUBITUS(キュビタス)」をリリース。賛否両論あるも、その存在感は「ノーチラス」とは別物だ。
自動巻き(Cal.26-330 S C)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径45mm、厚さ8.3mm)。3気圧防水。653万円(税込み)。
(中)パテック フィリップ「キュビタス」Ref.5822P
自動巻き(Cal.240 PS CI J LU)。52石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ptケース(直径45mm、厚さ9.6mm)。3気圧防水。1399万円(税込み)。
(右)パテック フィリップ「キュビタス」Ref.5821/1AR
自動巻き(Cal.26-330 S C)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS×18KRGケース(直径45mm、厚さ8.3mm)。3気圧防水。970万円(税込み)。(問) パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
11月:ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで、なんと大塚ローテックの「6号」がチャレンジウォッチ賞を獲得、そしてシチズンは100周年記念モデルを発表。
規模が拡大し、ジャンルも増えたジュネーブウォッチグランプリが、以前に比べて面白くなくなったのは否めない。しかし、これは今まで以上に、時計メーカーには重要なイベントとなりつつある。今年は、なんと大塚ローテックの「6号」がチャレンジウォッチ賞を獲得。日本でしか売られない時計がまさか賞を取るとは誰が予想しただろうか? もっとも、そのユニークさと価格を考えれば、受賞は当然か。ちなみに金の針賞は、IWCの「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」だった。これも妥当だろう。なお、11月はシチズンが100周年記念モデルの「メカニカルモデル Caliber 0200 『CITIZEN』ブランド時計 100周年限定モデル」をリリースした。これはほんとにいい時計です。
自動巻き(MIYOTA9015+自社製レトログラードモジュール)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径42.6mm、厚さ11.8mm)。日常生活防水。44万円(税込み)。(問)大塚ローテック https://otsuka-lotec.com
12月:サウナ時計リリース、しかし即完売
カシオがクラウドファンディングでサウナ時計を発売するも即完売。冗談のような企画に思えるが、摂氏125度まで耐えられる耐熱電池に、湿気に強い樹脂製外装と、カシオらしい本気の時計だった。商品の発送は来年6月とのこと。正直これはレギュラー化して欲しい。またセイコーは、1月に開催された「専用すぎる腕時計展」の第2弾を20日から開催。カシオにせよ、セイコーにせよ、若いデザイナーや企画者たちが前面に出る会社は、間違いなく伸びます。ちなみにこの月は、IWC「インヂュニア・オートマティック 40」に新色が加わった。あわせてバックルにもエクステンションが追加されている。今後各社は、IWCの路線に追随するだろう。
クォーツ。樹脂ケース(直径35.4mm、厚さ12.8mm)。5気圧防水。完売。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925