『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回は、ジラール・ぺルゴの「ロレアート クロノグラフ 藍色 ジャパン リミテッド エディション」を着用した。シックな色味の文字盤はもちろんのこと、成熟した外装とムーブメントも高く評価された1本だった。
hotographs by Kazuma Okita
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
[2024年12月30日公開記事]
スイスと日本の国交樹立160周年を記念した限定モデル。1860年に横浜にオフィスを開設したジラール・ペルゴとして、日本文化への敬意を伝統色の藍色で表した。本作は深い藍色の文字盤にチタンの外装を組み合わせ、落ち着いた印象と軽快な装着感を両立させた。自動巻き(Cal.GP03300-0141)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.1mm)。100m防水。100本限定。280万5000円(税込み)。
日本の“藍色”に着想を得た「ロレアート 藍色 ジャパン リミテッド エディション」
細田今回は、日本とスイスの国交樹立160周年を記念した「ロレアート クロノグラフ 藍色 ジャパン リミテッド エディション」です。モデル名の通り、文字盤に藍色=ジャパンブルーをあしらっています。クロノグラフのほか、SSケースでグラン・フー エナメル文字盤の3針も同時に発表していますね。皆さん、実際に着けてみていかがでしたか。
広田装着感は良かったですね。
鈴木ブレスレットも滑らかで自然に着けていられました。
大橋外装がチタンと聞いて着用前はすごく軽いのかなって思っていたら、意外と心地よい重さがあるというか、絶妙な重さで調整してるんだなって思いました。
広田良い表現ですね。
細田通常のSSのロレアートも装着感は良い部類に入りますが、チタンになることで一層化けたなと感じました。
広田そうそう! 昨今のラグスポってテーパーをかけたブレスレットがすごく多くて、それは重いヘッドには向かないと思ってるんだけれども、ロレアートは元々ヘッドもそんなに重くないし、さらに外装が全部チタンになってかなり軽快になった。ただ、僕の場合はドンピシャに腕幅にハマったんですけれども、割とブレスレットのコマが大きかった……。
鈴木コマが大きい分、調整が効かないから、バックルに微調整機構があったらなお良かった。
細田最近は観音開きのバックルでも微調整を入れられますからね。チタンだから加工的に難しいのは分かるけど、バックルにもう少し工夫はあって欲しいかも。ただ、全体的に軽いので、少し緩めにしても装着感はあまり損なわれないかなとは思います。
鈴木軽いっていうのは全てにおいて利点だし、ケースも12.1mmと薄めだから、ピタッとタイトに着けたい人にとってはバックルで微調整ができるようになれば、なお良い装着感が提供できるかな。ここまで外装が成熟したので、バックルも更なる成熟を期待したい。
鈴木ところで、おいくらなんでしたっけ?
細田280万5000円でございます。100本限定。
鈴木値上がりが著しい昨今を考えると、チタンケースのクロノグラフで300万円以下なら妥当ですかね。
広田そう思います。悪くないなという印象。
巧みな磨き上げと、八角形を上手く効かせたデザイン
細田それから外装の色味も良かった印象です。結構白くて一見するとチタンっぽくない。
鈴木仕上げも綺麗で満足感が高かったですね。ベゼルにリュウズが歪みなく映っているのも、上手にポリッシュされている証拠です。
大橋あと、ヘアライン仕上げを横方向に入れているので特別な輝きがあるように感じました。遠くから見た時に妙に存在感を発揮するので、その満足感は実際に着けてみると大きいです。
鈴木さらに、ベゼルには同心円状にヘアラインを入れているのも面白いですよね。そこにポリッシュが効果的に組み合わされていて。ロイヤル オークほどシャープじゃなく、良い意味で緩さがあって、これもまた悪くないかなという気はします。
広田デザインとしては良くできています。
細田これ、イタリア・フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の天蓋(クーポラ)をモチーフにした、建築家によるデザインなんですよね。
鈴木ジェンタ説っていう嘘も流布していますが(苦笑)。
広田ジラール・ペルゴとしてはデザイナーの資料は残ってないと言っていますが、以前色々調べた結果としては建築家によるものです。
鈴木丸の中に効果的に八角形を入れたデザインですよね。特にクロノグラフの方はカウンターとスモセコにも同心円状の溝が入って余計に丸が強調される中で、文字盤はクル・ド・パリでスクエアな要素も入れているし、この組み合わせがなんか良いよね。建築的なモデルと言われると非常に納得できます。
細田皆さんご存知だとは思いますが、ロレアートのデザインって初代はここまでガチガチのラグスポの文法には則っていなかったんですよ。90年代頃に第2世代、第3世代が出た時にマッシブになりすぎたりして、なんだか変な方向に行っちゃってたけど、2016年に限定モデルが出て、翌年からレギュラー化されて。16年以降にデザインが一気に洗練された感じがあります。まだラグスポブームが盛り上がる前だったから、さっき幸也さんが言ったみたいなデザイン上の良い意味での緩さや丸みにつながったのかと思います。
鈴木ロレアートはアントニオ・カルチェさんがいた頃とか、ちょっと変な方向に行ってたもんね(苦笑)。今、良い形で着地してくれて、外装も成熟してとっても良かった。
広田ラグスポって文脈で捉えられがちだけれども、意外と普通に使えるモデルとしてロレアートを触ってみるのは良いと思います。
古典的な構成ながら、成熟を感じさせるムーブメント
広田それから、搭載ムーブメントは自社製の3300系ムーブメントで、パワーリザーブは約46時間と短いけれども、針合わせの感触やローター音は高級機らしい味付けになってた。デスクワーク中心でもよく巻き上がったし。
鈴木3300系で3時位置のスモセコだからDD(デュボア・デプラ)ですね。でも全然悪くなかった。ちょっと設計やモジュールは古いけど、むしろそれが安定感になるぐらいには成熟してます。
広田そうですね。3300系は、3100の厚みを増したバージョンで、基本設計は1993〜4年に作られています。それから、DDのモジュールにありがちな置き回りはそんなに気にならなかった。置き回りってつまり、秒針が動き出してから時分が動き出すまでのタイムラグがあることですね。最初の3100搭載系はリュウズを押し込んだ時点で置き回りがあったし、そこにDDのモジュールを載せるとめちゃくちゃズレまくってた。だから、僕はDDを見る時には置き回りに結構注意しますが、今回はあんまり気にならないレベルまで抑えられていたので結構優秀だと思いました。
鈴木連結部とかの精度が上がってきてるんですかね。
広田そう思います。自社製ムーブメントにDDのモジュールって、90年代によく見られた構成ではあるけれども、細かく直している印象でした。無理のない改良としては今ぐらいが限界かなと思いますが、あとはパワーリザーブがもう少し増えてくれるとうれしい。
細田サイズ感には設計の古さを感じざるを得ないんですけども、着けてみると良い機械です。マニアックなところで言うと、DDモジュールのクロノグラフって、ETA7750系よりもベースがちっちゃいので、どんな時計にでも載せられる。そういう意味では汎用性が高くて良いムーブメントですよね。
広田はい。それからメンテナンスの観点で言うと、デクラッチの部分はETA式の結構シンプルなやつなんですけれども、3300系って基本的にデクラッチのところに注油できる箇所を設けている。ジラール・ペルゴは実はちゃんと考えてるんです。
鈴木やっぱり、長く使ってきた分の成熟度はありますよね。
限定色“藍色”はスーツにも似合う落ち着いたトーン
細田では、肝心の文字盤の色味はどうでしたか。今回の限定2モデルは藍色をあえてそろえていないのでちょっと論じにくい部分もありますが。
鈴木でも、藍色にも何回染めとかあるじゃない。明るい色から黒に近い色まで。染めた後も何回か洗っているうちに色が変わったりしますしね。とはいえ、なんとなく深いブルーの方が藍ってイメージに合う気はします。
細田クロノグラフに関しては、彩度低めというか色が濃かったので、落ち着いた雰囲気で視認性も良かったですね。クル・ド・パリ自体も光の乱反射を抑える特性があるから、そういう意味で使い勝手も良い色だとは思います。
鈴木カウンターの黒とも相性が良いですね。
広田これで、あえて逆パンダとかにしてしまうと、見え方が超スポーツウォッチっぽくなってしまったと思うけど。
鈴木そうですね。この色合いなら、スポーティになりすぎずに着けられますもんね。スーツにも合わせられる。
細田近年のジラール・ペルゴは色の遊び方は面白いなと思っていて、新作のセージグリーンもすごく絶妙な色でした。
広田確かに、ジラール・ペルゴは色味に活路を見出したって感じはしなくもない。
細田文字盤のデザインに関してはどうですか? ケース径42mmのクロノグラフに直径26mmのムーブメントを載せたら文字盤のレイアウトがもっと崩れそうですけども、うまくやってますよね。
鈴木そこまで中心に寄ってないですもんね。
広田これ多分、上に載せてるモジュールがデカいんすよ。多分、クロノグラフモジュールが直径30mmぐらいまであるはず。
鈴木ベゼルのラウンドの中に八角形を置いたり、フリンジを配したりして実は幅を稼いでいるんだけど、そうは見えないようにしているのが上手いよね。日付だけちょっと寄っているけど……でも、日付はなくてもよかったかも。
細田限定として日付を外したら、なお特別感が出たかもしれませんね。日本人は日付いらないんだ!ってね(笑)。
広田あとは、個人的な注文でいえばGPのロゴがデカすぎるかな(笑)。
鈴木それ思った。普段からこんなに大きかったっけ? GPのロゴもデカいけど、その下のGIRARD-PERREGAUXとブリッジも目立ちすぎかも。そういえば、これはいつから入ってるんだっけ。
細田このレイアウトは、ロレアートでは割と前々からだと思うんですけれども……。アーカイブを確認すると、2016年のモデルではブリッジではなく1791と入っています。
鈴木その方が良かったなぁ。今のロゴはちょっと鬱陶しいね。昔のグランドセイコーの文字盤にSGとSEIKOとGrand Seikoの3つが入ってた頃みたい。
細田3つ目カウンターとのバランスで、ロゴをこの大きさにしているんじゃないですか。
鈴木うーん、確かに、3つ目のインダイアルとロゴで菱形に配置していると言われればそうかもしれません。ただ、そうすると、3針モデルのロゴがますます大きく見える(苦笑)
細田エナメルや天然石系といった特別な文字盤には、デカGPロゴが貼り付けられるんですよ。普通の3針は一回りぐらい小っちゃい植字ロゴになるんですけど。
鈴木外装がすごく成熟しただけに、文字盤の中でもうちょっと引き算してくれたらなお良かったかな。日付とこのブリッジはいらない。ちょっと主張しすぎだね。
クロノグラフプッシャーはデザインとしては◎だが……
細田さて最後に、クロノグラフに関して一点物申すと、ねじ込み式プッシャーが意外と使いづらいなと思いまして。ねじロックを開けてクロノグラフをスタートさせたら、ストップする時にはネジが戻ってしまっていて、止めたい時に止められないことが何回かあったんです。本来のクロノグラフの用途で言えば致命的なので、そこは要改善点かなと思います。
鈴木SSでスクリューが戻っちゃうってあまり聞いたことないから、チタンはねじキリが浅いのかな? チタンの外装を頑張ってはいるけど、そういう症状があったのは少し残念ですね。
広田独立時計師の中川友就さん(KIKUCHI NAKAGAWA 共同創業者)はこのプッシュボタンが簡単に開くことを評価してました。ただ、今回ほそやんのレビューからは、簡単に開くけれども、逆に言うと簡単に閉まってしまうってことも分かりましたね。
鈴木確かに、ロックがあまりに硬くても、指への負担になって使いたくなくなっちゃうからね。それで使っていないと余計固着しちゃったりして。
細田難しい注文なんですけど、開閉はしやすく、また、操作途中には閉まりにくいロックへと改良されていくとうれしいです。
鈴木ただ、僕はクロノグラフをちょっとしか使ってないからねじロックは全然気にならなかったかな。ファッションユースとしてクロノグラフを使う分には申し分ない。
細田プッシャーロックって本来は防水や誤作動防止目的ですけど、近年のパッキン性能があればプッシュボタンをねじ込まなくとも10気圧防水は作れるので、もはやデザインではありますよね。
広田基本的に、ロレアートのキャラクターを考えたら、もうそろそろねじ込みはいらないんじゃない?
鈴木ただ、ロレアートはベゼルとリュウズとプッシャーロックを八角形でそろえてるんですよね。
細田デザイン上では丸みの強い時計だから、こういう八角形のディテールがアクセントになっているのは確かです。だから、ブッシャーを八角形にして、ねじ込み式をやめるといった選択もあるのかなとは思います。
総合的な満足度でいえば、お買い得モデル!
広田バックルの微調整やクロノグラフのプッシャーなど改良点は見つかったものの、着用したうえでの総合評価は意外と良かったですよね。
鈴木着けた方が色々と納得できる時計ではありますね。取り回しの良さ、ヘアラインとポリッシュのバランスの良さとか、予想以上だった。
細田サイズは42mm今だと割とトレンドからはちょっと大きめになっちゃうかもしれないけど、着けてて大きいとは思わなかったし、腕なじみがすごい良かった。ジャパン リミテッド同士で比べると3針はグラン・フー エナメルで258万5000円だけど、一方こちらはクロノグラフが付いて、しかもチタンで280万5000円だから、ともするとお買い得かもしれない。
鈴木3針はSSですから、そう言われると確かにクロノはお得。買って損はないかと思います。