日本時計界屈指の博識、飛田直哉氏が理想とする時計をカタチにする。2019年にスタートしたNAOYA HIDA&Co.のコレクションの2024年新作では、フォルムとムーブメント、素材と装飾で、新たな感動が届けられた。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
NAOYA HIDA & CO.が打ち出す新コレクション
ここまで彫り込みが深いハンドエングレービングケースは、他にあまり例がない。ひとつのケースを仕上げるのに3~4週間かかるため、生産数はごく少数に限られる。手巻き(Cal.3019SS)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KYGケース(直径37mm)。5気圧防水。880万円(税込み)。2024~2025年に3本程度を生産予定。受注終了。
(右)NAOYA HIDA & CO.「NH TYPE 5A」
2ピース構造の洋銀製ダイアル。「NH TYPE ID-3」とは異なり、「NH TYPE 5A」にはフッ素コーティングがかけられる。ドーフィン針は峰状であるうえに、両サイドを凹面状として、光をより多く受け止め、輝く。手巻き(Cal.2524SS)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(縦33×横26mm)。3気圧防水。330万円。2024~2025年に10本程度を生産予定。受注終了。
これまで一貫して1930〜1960年代の腕時計を規範としてきたNAOYA HIDA & CO..は今年、アールデコを俎上に載せた。新作のメインアクトは、ブランド初のレタンギュラー「NH TYPE 5A」。ダイアル中央にミニッツサークルを配し、12のアラビア数字と楔形のインデックスの組み合わせは、1940年代にカルティエがタンクで試みたスタイルの再解釈である。アワーインデックスは、飛田直哉氏とユニットを組む加納圭介氏による手彫り。そして同じくメンバーのひとりである、藤田耕介氏によって角型ムーブメントがかなえられた。
初のレクタンギュラーのために選ばれたベースムーブメントは、プゾー7001。その輪列をほぼ一直線に改め、理想的なスモールセコンド位置を実現した。
風防はベゼルから立ち上がり、上下にカーブしたアールデコのスタイル。この形状を一体型のサファイアクリスタルで再現しようとしたが、求める品位が得られなかった。そこで、フレームとカーブガラスの2ピース構造としたのである。
また既存の「NH TYPE 1D」には、やはりブランド初となるフルゴールドケースを2モデル投入。うちひとつの、加納氏の手による見事な彫金ケースが、角型と並ぶ第二の主役だ。彫金の模様は、アールデコの時代に生まれた、超高層ビルに用いられた装飾がモチーフ。刃を繰り返し入れた深くクッキリとした模様はラグ間にも施され、サイドをグルリと華やいでいる。あえて後仕上げせず、刃跡を残したことで、力強い印象となった。
ダイアルは、新たに導入した銀摩擦メッキで、趣あるマット感が創出された。その外周の分目盛りは、ヘッドをドーム状の鏡面としたYG製のピンを打ち込み造作。隅々まで、飛田氏の理想が行き届く。