【謝罪】正直、舐めていました。IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」はやっぱり“ビッグ”じゃなきゃ

2025.01.08

ケースの小径化がトレンドと言われる中で、直径46.2mmのIWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」はとにかく大きい時計に分類されるだろう。しかし、時計の大きさだけを理由にこの時計を敬遠するのは勿体ない。ビッグ・パイロット・ウォッチは大きいがために視認性に優れるだけでなく、外装の質もムーブメントの性能も申し分がない。おまけに意外と着け心地もいいのだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

細田雄人(クロノス日本版):写真・文
Photographs & Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2025年1月8日公開記事]


「ビッグ・パイロット・ウォッチ」はイマドキ大きすぎる?

 昨年10月に公開された、「旅に連れていきたい時計とは? 『クロノス日本版』編集部が選んだ“旅時計”10選」という記事の中でIWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ」を選出したところ、実際に着用する機会を得ることができた。

 しかし、白状するならば、実は同作の着用にはそこまで乗り気ではなかった……。というのも、自分がビッグ・パイロット・ウォッチを旅時計に選んだ理由は、その高い視認性がドライブの時に便利だから。カーナビはおろか、車内に時計も付いていないような不便なクラシックカーで国内旅行を楽しむという非日常を空想した際に、相棒として本格パイロットウォッチがいると頼もしいな、と思ったわけだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

神奈川県の横須賀から猿島に向かうフェリーの上でハンズオン。毎日着ける時計であれば大きすぎても、非日常を楽しむ時計として考えれば、その他の実益が勝る。着用前に抱いたこの考えは、その後、いい意味で裏切られることになる。

 つまり、「この手の時計はデカいが正義」と言っておきながら、決してデスクに座り、腰痛を我慢しながらキーボードを叩く編集者の日常で着用する時計ではない。

 ところが、結論から言えばやっぱりパイロットウォッチにおいて、「デカいは正義」だった。そして少なくとも、ビッグ・パイロット・ウォッチに関してはその大きさが日常生活において邪魔になることはなかった。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

現在、IWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ」には2種類のサイズが存在する。左が今回着用したCal.52111を搭載する直径46mmモデル。右は2021年に追加された直径43mmの“小さな”「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」。こちらはムーブメント径30mmのCal.82100を搭載する。


サイズを感じさせない秀逸な作り

 着用シーン云々は置いておくとして、IWCが1930年代からドイツ海軍に供給していた航空用クロノメーターの直系モデルであるビッグ・パイロット・ウォッチは傑作だ。ツール感を強調するサテン仕上げのケース。グローブを着けたままでも操作が容易な大型のオニオン型リュウズ。コントラストの強いブラック文字盤とホワイトのインデックス。そしてなにより、視認性に特化した太い時分針と航空用クロノメーターという出自を思わせる長い秒針。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」Ref.IW501001
自動巻き(Cal.52111)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SSケース(直径46.2mm、厚さ15.6mm)。6気圧防水。194万1500円(税込み)。

 使い勝手を追求したひとつひとつのディテールがそのまま機能美として現れ、それがアイコンとして定着した“ザ・パイロットウォッチ”とも言うべき存在である。そのため、ツールウォッチ好きを自認する筆者としては“好きに決まっている”時計でもあるわけだ。

 さて、能書はほどほどにして、手元にあるビッグ・パイロット・ウォッチを手に載せてみよう。装着しての第一声は、「あれ、思ったより大きくない」。確かにケース自体は大径かつ分厚いのだが、時計の重心が低いのと、腕に対する設置面積が大きいため、ほどよく収まってくれるのだ。裏蓋がソリッドというのもあるのかもしれない。少なくとも、腕周り17.5cmの筆者の腕であれば、大きく時計が振られたり、嫌な重さを感じたりすることはなかった。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

パイロットウォッチにはフライトジャケットが似合う、ということでトイズマッコイのG-1と一緒に着用。ドイツ軍向けの時計を着けて、アメリカのキャラクターが描かれたジャケットを着るなんて、我ながら、なんて暴挙!

 また、誤解を恐れずに言うならば、ビッグ・パイロット・ウォッチは視覚的にも大きさを感じさせづらい時計である。視認性を追求したモノトーンのダイアルカラーは全体的に引き締まった印象を与えるうえ、文字盤外周目一杯に配されたインデックスにはしっかりと分針と秒針がリーチしているのだ。

 40mm台後半の大径ケースに20mm台の汎用ムーブメントを載せると針の長さや日付の位置などから、どうしてもデザインが間延びしがちだ。しかし、ビッグ・パイロット・ウォッチの載せるCal.52111はムーブメント直径が38.2mmもある。

 そのため、日付窓を適切な位置に置くことができるうえ、大径ムーブメントの恩恵を存分に生かしたツインバレルが放つ大きなトルクが、太く長い3本の針を備えることを可能とした。さらに3時位置には7日スケールのパワーリザーブインジケーターまで備わっている。そこには大径モデルにありがちな間延び感は一切ないのである。

ビッグ・パイロット・ウォッチ パワーリザーブ表示

3時位置にはパワーリザーブインジケーターが配される。巻き上げが必要なタイミング(1日)だけ赤で塗られているが、これがモノトーンで構成された文字盤上で唯一他の色が使用された箇所だ。

「もしかしてビッグ・パイロット・ウォッチ、普段使いでもいいのでは?」。ふと、頭の中にそんな考えが過ぎる。しかし、まだ信用できない自分もいる。「流石にデスクワークには不向きでしょ?」。


デスクワークの使用でも問題なし

 意外と腕なじみが良く、日常生活でも問題なく使用できそうなビッグ・パイロット・ウォッチ。しかし、流石にデスクワークでは分が悪いだろう。大体、この手の時計は大ぶりのヘッドを支えるべく、ストラップが厚みを持つようになり、それを収めるためにバックルまでも分厚く作られがちだ。そのため、キーボードを打つ際にやたらと机に当たってしまうのである。

 ところが、これは完全に見当違いだった。ビッグ・パイロット・ウォッチのストラップは若干芯が太いものの、特段分厚いわけではない。合わせられるバックルもシンプルなDバックルだ。それもバックルから飛び出たピンをストラップの穴に差して固定だけの、本当に質素な作りをしている。そのため、キーボードを打つ際も外さずに使用できた。

IWC バックル

バックルにはシンプルなDバックルが採用される。仕上げの質が高いことは細かく入れられたサテン仕上げと、稜線のポリッシュが示す通り。

 余談だが、ストラップやバックルをシンプルに作ったのは、前述の通り、ヘッドが腕の収まりが良いように設計されていたからだろう。実際、ストラップに関してはこのボリュームでも特に問題を感じなかった。

 しかしDバックル自体はその固定方法ゆえ、時計を着脱する際に不意に外れることが多々あった。この点だけは、本作をインプレッションしている中で唯一感じられた要改善点である。

ビッグ・パイロット・ウォッチ バックル

ストラップの穴にピンを差すだけの固定方法を取るため、着脱する際に不意にバックルが外れてしまったことが何度かあった。ここだけは要改善点だ。

 もちろん、IWCが熟成に熟成を重ねたペラトン式自動巻きはデスクワークでもよく巻き上がっていた。ほぼ毎日着けていたため、パワーリザーブインジケーターは「7」を常に指し示していた印象だ。

 これはいよいよ考えを改めなければならない。ビッグ・パイロット・ウォッチは旅行だけではなく日常生活でも、最高の1本なのではないか?


毎日でも使いたい、ハイクォリティな構成

 改心し、“毎日着ける時計”という視点で改めてこの時計を評価してみると、実にビッグ・パイロット・ウォッチが優れた時計であることが見えてくる。冒頭で述べたような高い視認性やリュウズの操作性といった使い勝手の良さはもちろんのこと、約7日という十分すぎるパワーリザーブはコレクションを複数本所有する愛好家にとって心強いスペックである。

ビッグ・パイロット・ウォッチ リュウズ

アイコニックなオニオンリュウズ。掴みやすく、回しやすいため、時刻調整も巻き上げも容易だ。

 また、過去に広田雅将編集長が行った『クロノス日本版』のインプレッション記事(2009年3月号)で10日間の平均日差+2.9秒という高精度を叩き出したように、航空用クロノメーターを祖とし、大径ムーブメントを採用する同作の精度安定性は抜群だ。時刻調整をする頻度が多くなってしまっては、せっかくのロングパワーリザーブも魅力半減。約7日というロングパワーリザーブも、この精度であればこそ輝く。(※当時は2万1600振動/時のCal.51111を搭載)

 ケースのクォリティは言うまでもなく高水準である。サテン仕上げを中心とすることでツールウォッチらしさを強調しつつも、稜線にはポリッシュを入れることでケースにメリハリを与え、高級感を感じさせる。しっかりとエッジが立っている点も個人的な高評価ポイントだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

ケースはサテン仕上げを中心に稜線にのみポリッシュを入れるスタイルだ。高級時計らしくケースの角は立てられており、ツールウォッチらしからぬ高級感を持つ。

 もちろんパイロットウォッチという特性上、暗所の視認性も極めて高かった。蓄光塗料は時分針と4つのインデックス(3、6、9、12時位置)と限られた場所にのみ塗布されているが、これが逆に時刻を読み取るうえでは分かりやすい。特に余すとこなく蓄光塗料が塗られた長くて太い時分針の存在感は感動ものだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

本格的なパイロットウォッチのため、暗所の視認性の高さも、お手のもの。蓄光塗料の塗布箇所は決して多くないが、感覚的に時刻を読み取ることが可能だ。

 着用してみて、あまりの完成度の高さと、ネックになると思われた部分が全く気にならなかったため、まさに理想的な1本と言いたくなるくらいに筆者はこのビッグ・パイロット・ウォッチを気に入ってしまった。これは完全に謝らなければならない。そして声を大にして言わなければならない。「やはりビッグ・パイロット・ウォッチは大きくなきゃね」と。


食わず嫌いこそ手に取るべき

 確かにそのサイズ感は着用者の腕の太さ的にも、好み的にも人を選ぶに違いない。しかし、単純に大きさだけをネックに感じて敬遠してしまっている人は是非一度、46.2mm径のビッグ・パイロット・ウォッチを手に取ってみてほしい。

ビッグ・パイロット・ウォッチ

他部署の女性社員にも試しに着用してもらった。流石に腕に対して大きすぎるのは否めないが、写真のようにニットの上から巻くことで、アクセサリー的に楽しむというのもアリかもしれない。

 実はあなたの腕でも、意外としっくりくるかもしれない。


Contact info: IWC Tel.0120-05-1868


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