時計ライターの筆者が時計に興味を持ち始め、時計に関わる仕事を始めて数年あまり。思い入れのある腕時計を選ぶのには短い期間にも思えるが、1本だけコレだという腕時計がある。それがG-SHOCKだ。実は筆者は陸上自衛隊で2年半ほど勤務していた経歴がある。一般的に自衛隊は2年でひとつの任期が満了するため、非常にハンパなタイミングで辞めたわけだが、その短いようで長かった自衛隊ライフを支えてくれたのが、G-SHOCKだったのである。
Photographs & Text by Kento Nii
[2025年1月13日公開記事]
素人目でも便利そうに思えたG-SHOCK
ほとんど処分してしまったが、自衛隊に勤務していた当時使っていたものをいくつか引っ張り出して撮影した。在職当時は、朝6時にラッパの音で目覚め、数分後の点呼に間に合うよう、即座に着替える必要があった。枕元に靴下、迷彩服、そしてこのG-SHOCKを準備してから就寝していたのは、今となっては良い思い出なのかもしれない。タフソーラー。フル充電時約26カ月駆動(パワーセーブ時)。樹脂×SSケース(縦46.7×横43.2mm、厚さ12.7mm)。20気圧防水。生産終了。
筆者にとって思い入れのある1本は、自衛隊の時に着用していたG-SHOCK「Ref.GW-M5610BC-1JF」という、2012年発売のモデルだ。1983年誕生の「DW-5000C」のデザイン性を継承した、ブレスレットタイプのモデルであり、樹脂の中にメタルパーツを埋め込んだ「メタルコアバンド」を採用しているため、着用してみると樹脂モデルには無い重量感を味わえる。また、「タフソーラー」と「MULTIBAND 6」を搭載した電波ソーラーモデルで、光が当たり、電波が受信できるところであれば、常に正しい時間を表示し続けてくれる腕時計である。筆者が所有するものは廃盤モデルだが、バックライトをLEDに変更するなど、機能面でアップグレードが施された後継機が登場している。
入隊前の時計に詳しくなかった自分でも、そうした便利さが理解でき、自衛隊での生活で役立つだろうと購入に思い立ったモデルだ。
実際、この時計は自衛隊生活において非常に便利で頼れる存在であった。訓練中にどこかにぶつけたり、急いでいる時に硬い地面へ放り投げたりと、極めて雑に扱ったわけだが、少しも壊れる気配を見せず、常に正しい時間を表示し続けてくれたのである。しかも、このRef.GW-M5610BC-1JFは、反転液晶を用いたオールブラックカラーを採用しており、いかにもミリタリーウォッチらしい、その精悍さも魅力であった。
壊れたら買い替えようとも考えていたが、結局2年半の自衛隊ライフの間、筆者はこのG-SHOCKを就寝時以外ずっと着用していた。ツルハシとショベルでひたすら硬い道路を掘っていた時も、水たまりの中心に立った教官の位置まで匍匐(ほふく)前進を続けた時も、そうしてかいた汗や汚れを落とす入浴の際にも、常に手元にこの時計があったのだ。まさに相棒と言える腕時計である。自分にとって、思い入れのある1本を語るのであれば、やはりこのG-SHOCK以外には考えられないだろう。
自衛隊に向く時計とは?
さて、この思い入れのあるG-SHOCKについて、時計の正確さで隊員の命を救うような、壮大なエピソードのひとつでも述べたいところだが、残念ながら自衛隊の機密上、そこまで語れることは多くないし、2年半という短い隊員人生では、そんな体験も無かったように思う。
そこで、自分の自衛隊人生の2年半を振り返り、自衛隊の腕時計に必要な機能を考えてみることにする。
自衛隊では入隊前の準備として、ある程度の購入物品が提示されるが、その中のひとつに腕時計がある。現在では時刻を確認するツールとして当たり前となったスマートフォンや携帯電話は、機密保持の観点から携行しにくく、そもそも壊れやすいため、常に持ち歩くことができない。つまり、腕時計は必需品と言えるのだ。
そして、防衛省が提示する入隊案内では、「日常使用する生活防水と、文字盤が見えるライトを備えた腕時計」と、その要求スペックが記されている。夜光機能がある腕時計であれば、大抵のものがその要件を満たしているように思えるが、実際に入隊し訓練にあたっていると、コレではちょっと性能不足に感じたわけだ。そこで、自衛隊の腕時計に必要な機能を改めて考えてみた。
自衛隊の腕時計に必要な機能①正確さ
まずは計時の正確性だ。自衛隊では厳格なタイムスケジュールで作戦行動が組まれており、1秒の遅刻も許されない。とはいえ、遅刻を避けるため、5分早く行動するのもあまり褒められたものではない。常に最大限のパフォーマンスが要求される隊員たちにとって、休息もまた仕事なのだ。つまり、休むときは休み、所定の時間になったら即座に行動する。そういった正確な時間管理が常に要求されるのである。そして、仮に時計通り動いたとしても、上官も含めた全員の時計に示される時間が同じでないと、行動に支障が出る。つまり、正しい時間をある程度共有できる、電波受信機能を持つクォーツ時計が最適と考えられるだろう。
自衛隊の腕時計に必要な機能②耐久性
次は高い耐久性だ。所属する部隊によるところも大きいが、自衛隊で行う訓練は体を動かすものがほとんどだ。そして訓練中は、1日と寝ずに作業をしただけで、思考能力が大幅に下がり、腕時計のことなぞ気にもしていられなくなる。つまり、腕時計も着用者と同様に、振られ、ぶつかるなど、過酷な環境にさらされることになるわけだ。そういった状況で故障しないためには、高い耐衝撃性が要求されるだろう。また防水性も必須だ。訓練は土砂降りの山奥でも行われるため、日常生活防水だけでは少し物足りない。手入れのことも考えると、強い水流にも耐えうる防水性が欲しいところである。
自衛隊の腕時計に必要な機能③良好な視認性
最後は良好な視認性である。疲労が蓄積している状態でも、素早く時間を判読できるデザインが好ましいだろう。また、夜間での見やすさも重要だ。針、インデックスに蓄光塗料が塗布されたアナログ腕時計も悪くはないが、バックライトのオンオフができるタイプだと、より利便性が高いだろう。任意のタイミングで明かりをつけることができるため、夜間の隠密行動中にも、敵に見つかりにくいのである。
以上の3点を鑑みると、G-SHOCKはまさに理想的な自衛隊向け腕時計のひとつではないだろうか。今ではめっきり使用することは無くなったが、日々の“かけ足(自衛隊ではジョギングをそう呼ぶ)”のタイム走でストップウォッチ機能も役に立つし、アラーム機能も活用する場面がないわけではない。振り返ってみても、自衛隊生活に役立つ、良い買い物をしたと自負している。
新隊員に参考にしてほしい記事
最後に補足しておくと、当然ながら自衛隊の隊員全員がG-SHOCKを着用しているわけではない。それこそ、GPSを活用した座標測定ができるスマートウォッチを着用していた幹部の方もいたし、売店で買える3000円くらいの電波ソーラーウォッチを愛用している人もいた。
だが、数年で辞めてしまった自分にとっては、ガーミンはちょっとお財布に優しくなく、機能性が多彩すぎて使いこなせる自信も無かった。また、売店に売っていた腕時計はG-SHOCKほどの耐衝撃性が無く、そもそもあまりカッコよくない。そういった面でも、自分のおすすめはやはりG-SHOCKである。デザインの選択肢の幅も広いし、なかなか壊れてしまうことがないため、給料がそこまで多くない(決して低いわけではない)新隊員にとっても、長期的にみてお財布に優しいはずである。
なお、自分の所属は陸上自衛隊であったため、G-SHOCKが理想的な腕時計に思えたが、航空自衛隊、海上自衛隊であれば要求されるスペックはまた変わってくるだろう。何かの弾みでこの記事が新隊員の目に届き、過酷な訓練に挑む際の手助けに少しでもなれば良いのだが。