G-SHOCKの製造拠点、山形カシオに『ウォッチタイム』ドイツ版編集長が潜入! G-SHOCKの歩みを振り返る

FEATUREWatchTime
2025.01.23

『ウォッチタイム』ドイツ版編集長、ダニエラ・プッシュは、カシオ本社や山形カシオの工場など、カシオゆかりの地を訪問した。世界的な人気を誇り、多種多様なバリエーションで展開するG-SHOCK。そのオリジンはひとりの開発者のアイデアからはじまったのだった。G-SHOCKの今に至るまでの歩みと、山形工場を見学した様子を紹介する。

ケースが装着される前のRef.MRG-B2100の文字盤とモジュール。伝統的な建築技法「木組み」からインスピレーションを受けた文字盤を備えたモデルだ。
Originally published on watchtime.net
Text by Daniela Pusch
[2025年1月23日公開記事]

カシオがG-SHOCKで成功を収めるまでの軌跡

 初めて手に入れたカシオの腕時計を覚えているだろうか? それは幼い頃に贈られた「Baby-G」かもしれない。もしくは、恐ろしく過酷な条件にも耐えるG-SHOCKが10代の頃の相棒だったかもしれない。多くの人が一度は人生の中でカシオの腕時計を着けたことがあるはずである。

 G-SHOCKの中でも、プレミアの付くモデルは、カルト的な人気を誇る。一部の純粋主義者はスイス製の高精度な機械式ムーブメントの腕時計しか受け付けないだろうが、時計界に対するカシオの貢献は、他に替えられないものであることは、言うまでもない。

樫尾俊雄氏というイノベーター

 時計業界でのカシオの快進撃は、カシオの創業者のひとりである樫尾俊雄氏が、1974年に生み出した「カシオトロン」から始まった。カシオを電子機器製造会社から、時計業界を牽引する存在にまで成長させた基盤には、小型電卓や電子楽器などを生み出した、樫尾俊雄氏の革新的な視野が存在したからだ。

電子計算機「14-A」

樫尾俊雄発明記念館に収められた電気式計算機「14-A」の実物。

 カシオのルーツをより詳しく知りたいのならば、樫尾俊雄発明記念館に足を運ぶのが良いだろう。彼がキャリアで初めて手がけた、世界初の完全リレー式計算機「14-A」がこの博物館に収められているからだ。G-SHOCKに代表されるカシオの腕時計の原点を触れることができる施設だ。

新時代の始まり、G-SHOCKの誕生

 G-SHOCKの生みの親である伊部菊雄氏がカシオに入社したのは1976年。その頃、クォーツ式の時計は正確かつ手頃な価格、そしてモダンで未来的なものと考えられていた。そんな頃、伊部氏はある腕時計の構想を考えていた。彼は父親から贈られた腕時計が地面に落ちてしまい、修復不可能なほど損傷してしまったことを思い出した。それをヒントに、衝撃を受けても損傷することのない腕時計を開発するという構想だ。

 2年以上にわたる研究、そして200本以上を超える試作品の失敗を経て、伊部氏はある解決策を見出した。ボールの中にモジュール(ムーブメント)を浮かべ、横だけでなく上下からも小さな点で支えれば、衝撃は抑えられるという発想である。その発想が実現し、Ref.DW-5000Cが誕生した。高さ10mからの落下耐性、10気圧防水、10年間持続するバッテリーを搭載するという「トリプル10」という基準を満たし、1983年についに市場に登場した。伊部氏はプロトタイプをカシオの東京本社から投げ落とし、その性能をテストした。これは世界でも前例のないアプローチだ。

バリエーション展開で90年代を代表する存在へ

 G-SHOCKは発表当初、熱狂的に迎え入れられたわけではない。しかし、スケートボーダーという若く反抗的な集団が、この腕時計のデザインを気に入るようになってから、勝利への道筋は開かれるようになった。

 機能性、手頃な価格、カラフルなバリエーション展開が、この腕時計を90年代のアクセサリーを語るうえで、なくてはならない存在にまで押し上げたのである。多目的に活用でき、無限に近いバリエーションの存在するG-SHOCK。年齢、性別、スタイルの趣味という垣根を軽々と飛び越え、広く受け入れられるようになったのだった。

ポップカルチャーの中のG-SHOCK

 カシオが成功した理由は他にもうひとつあるように思われる。それはポップカルチャーとの関係性だ。例えば、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)の主人公マーティ・マクフライは、電卓付き腕時計を着用している。ギークな印象を与えつつも、スタイリッシュなアクセサリーとして、その後継機は現在でも3300円(税込み)で入手することができる。

 また、キアヌ・リーヴスは「スピード」(1994年)で、Ref.DW-5600を着用し、爆弾を仕掛けられたバスを運転しながら爆弾解除の任務を遂行していた。映画中での印象的な露出が、カシオの腕時計をより高いレベルに引き上げたと、開発部門責任者の齊藤氏は語ったのだった。


自身の理念に忠実なカシオ

 カシオはその栄光に留まってるわけではない。G-SHOCKは常に進化し続けている。耐久性は向上し、より自律的になり、技術の躍進は目覚ましい。その例を挙げると、長期にわたる電池交換を不要のものとするパワーセービング機能や、自動時刻修正、より耐久性を高めた素材の採用などである。これらはG-SHOCKを新たな次元へと導いている。

 厚さ、寒さ、衝撃、水といった腕時計にとって厳しい条件への耐久性の向上は、引き続き重要なファクターだ。あるひとりの体験から始まったこの腕時計の開発は、最終的には世界的に支持される存在となり、世代を追うごとにそのファンは増え続けている。

ユーザーの求めるものを製品に

 東京にあるカシオの本社と、山形にある製造拠点のプレミアムプロダクションラインへの訪問を通して、イノベーションへの意欲が、カシオというブランドと密接に結びついていることを思い知らされた。カシオが開発する製品は、消費者にとって「意味のあるもの」を原動力としているように思える。「形態は機能に従う」を、体現した腕時計は、現在では洗練された技術と、カラフルな配色、そして革新的な素材を採用した設計・デザインへと進化した。

ダニエラ・プッシュと齊藤氏

『ウォッチタイム』編集長のダニエラ・プッシュ(左)とカシオの開発部門責任者である齊藤氏(右)。

 開発部門の責任者である齊藤氏はこのように語る。

「私たちの設計・デザインのプロセスは、市場との絶え間ない対話といえるでしょう。トレンドを常にチェックし、世界的なネットワークを通じて得た意見に耳を傾け、ドイツなど、他国の同僚たちのアイデアも積極的に求めているのです。また、外国で暮らす人々のニーズをつかみ取るために、出張することもあります。特に重要なのは、社内の若く才能がある人々の声に耳を傾けることです。彼らの視点が、時代の感覚に合致したプロダクトを生み出すきっかけとなるのですから」

 この哲学は、カシオの現在の売上高の約半数を占める、G-SHOCKの先進技術にも反映されている。G-SHOCKには、万歩計からスマートフォンの通知表示まで、いわゆるスマートウォッチに見受けられる機能が多数搭載されている。だが、カシオは実用第一という哲学に忠実だ。「毎日充電が必要な腕時計は私たちのDNAに合わない」と、齊藤氏は強調したのだった。競合となる「Apple Watch」などを模倣するのではなく、ユーザーに真の価値を提供する本質的な機能に焦点を当てている。


カシオ製腕時計のゆりかご「山形カシオ」

 さくらんぼの名産地として知られる、山形県中央部に山形カシオの工場は位置する。「MR-G」や「MT-G」といったプレミアムなG-SHOCKだけでなく、ヨーロッパでは展開していない「オシアナス」シリーズも、ここで生産されている。

山形カシオ工場内の組み立てラインの風景。

 工場は1979年オープン。現在は7棟の建物で構成され、カシオの生産拠点となるマザー工場だ。最も新しい建物は2018年に完成した「G棟」であり、時計生産に特化。女性が半数弱を占める全従業員約600名によって運営されている。また、同工場は比較的リーズナブルなモデルや、電子製品を生産する、中国およびタイの生産拠点の指導も行う。

ユーザーを見据えた商品開発

 ユーザーがカシオ製品の差別化の方向性を決めるのだと、開発部門責任者の齊藤氏は説明した。サーファーやレスキュー隊員、高級腕時計の愛好家などのユーザーグループを分析し、それぞれのグループに適したオーダーメイドの製品を開発する。

 グループが求めるニーズと好みは、時間の経過とともに変化するため、その変化に対応する必要があると続けた。多くのアイデアが検討されるものの、すべてが市場に投入されるわけではない。最終的に、顧客が私たちの発展を形づくるのだと、齊藤氏は述べた。

品質向上への取り組み

 山形工場の強みは、金型製作から納品までを一貫して行える生産体制にある。長年勤務した、熟練の従業員が、「メイド・イン・ジャパン」とほぼ同義の「メイド・イン・山形」の品質を保証するのだ。

 この工場の特徴的な点は、ゴールド・プラチナ・マスターといった称号で構成されるメダルシステムで従業員のステータスを反映しているところにあるだろう。最高ランクに達する人物は、ほんのわずかしかおらず、毎年行われる理論および実技試験の後に授与される。現在、1名の女性のみがマスターとして認定されており、最初から最後まですべての生産ステップをカバーすることができる。

プレミアムプロダクションラインを見学

 見学ツアーでは、ピアノの演奏が流れる、白く長い廊下を通って組み立てラインへと向かう。ショールームには山形工場で製造されたG-SHOCKなどの腕時計が展示されており、魚の泳ぐ水槽にG-SHOCKが入れられたユニークな展示も設置されていた。

G-SHOCK入り水槽

魚が泳ぐ水槽の中に展示された、さまざまなG-SHOCK。G-SHOCKの高い防水性を物語る。

 山形工場は、G-SHOCKのプレミアムモデルの生産と検査を担っている。このことを紹介するために、ショールームにはいくつかのテストの方法やそのプロセスが展示されている。

 防護服を着用して防塵のためのエアロックを通ると、現代的な機械工作エリアに突入。ここでは、その日の作業終了前に、翌日の作業プログラムがセットされる。今回の見学中には、Ref.MRG-B2100が組み立てられていた。

『ウォッチタイム』編集長の工場訪問時に製造されていたRef.MRG-B2100。ムーブメントと文字盤がケースに収められ、並べられている。

 ケース、文字盤、針と組み立てられ、さまざまなステーションで段階的に検査される。なお、プレミアムプロダクションラインでは、ふたつの異なるモデルを同時に組み立てることができる。

 また、ここではG-SHOCKに採用されている耐衝撃性素材アルファゲルの持つ力を、遊び心あふれるデモンストレーションを通じて解説してくれたのだった。そのデモンストレーションとは、生卵をアルファゲル製のマットの上に落とすというもの。生卵は割れず、アルファゲルの持つ耐衝撃性がよく理解できた。

 G-SHOCKのほとんどは、現在でも手頃な価格だ。だが、MR-GやMT-Gといったコレクションでは、素材と価格の点においては高級なものとなった。高価なG-SHOCKの多くは限定品で、価格は少なくとも50万円を超えており、機械式ムーブメントを搭載したスイス製の腕時計に匹敵する。組み立て後に、各モデルの防水性、機密性、耐久性は検査される。


日本刀をイメージしたRef.MRG-B2000JS

MRG-B2000JS-1AJR

MRG-B2000シリーズ「MRG-B2000JS-1AJR」
タフソーラー。フル充電時約26カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(直径49.8mm、厚さ16.9mm)。20気圧防水。世界限定800本。110万円(税込み)。

 高級な腕時計を追求するカシオのひとつの到達点が、リミテッドエディションのG-SHOCK、Ref.MRG-B2000JSである。日本刀の鍛造からインスピレーションを受けた腕時計である。ベゼルの波のような模様は刀剣の波紋を表しており、腕時計そのものが日本の職人技が反映された傑作だ。なお、刀作には鋼の鍛造から最後の磨き上げまで、通常5人の職人が携わる。

「MRG-B2000JS」のモチーフとなった日本刀、「重力丸-燦-」を持つ刀工の上山輝平氏。

 上山輝平氏によって2年近くの歳月を費やし作刀された「重力丸-燦-」は、この腕時計のモチーフとなった刀だ。この刀はカシオ本社に展示されている。


未来への展望

 カシオの腕時計は50周年を迎えた。同社は「実用性のための革新」というビジョンを忠実に守り続けている。G-SHOCKは1億個以上生産され、その手頃な価格の日常遣いの腕時計から、高級モデルまで幅広いラインナップを誇る。カシオは機能性とデザインが、決して相反するものではないことを証明してきた。そして、ミュージアムと工場を見学し、明瞭に理解できたことがひとつある。G-SHOCKには、1本1本物語があるということだ。



Contact info: カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925


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